新型コロナウイルスの脅威に、世界中が怯え、右往左往したこの1年。そんななかで、「感染リスクゼロ」を目指すことで私たちはかけがえのない大切なものを失いつつある、いまこそ人生の主導権を医療とコロナから取り戻そう――というメッセージを投げかけた『日本の医療の不都合な真実』。森田洋之さんのこの話題の一冊から、「はじめに」をお届けします。
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私は感染症専門医ではありません。「内科から皮膚科、小児科まで何でも診るけれど何もできない」と揶揄されるような一介の町医者です。新型コロナウイルス感染症についても、疑いのある患者さんを保健所などのPCR検査に紹介したぐらいで、実際の治療に関わったことはありません。
そんな私がなぜ、このような本を書くのか。その理由は大きく2つあります。
1つは、しばしば「世界最高レベル」と称される日本の医療の裏側にある構造的な矛盾や問題点を知ってしまったことです。私はもともと経済学部出身であること、また、財政破綻をした夕張市で医師をしていたという経験から、日本や世界の医療全体を俯瞰することに多くの時間を割いてきました。その結果、一般には知られていないさまざまな問題が見えてきたのです。
もう1つは、今回のコロナ禍を機に、それらの矛盾や問題点が、日本の医療全体ひいては国民生活に大きくのしかかるのを体感したこと、そしてそれが世間でまったく認知されていないことです。
私は新型コロナ発生以来、ずっとデータを追いかけてきました。当初は私も「恐ろしい感染症が発生した」と恐怖感をもって事態の推移を見守っていました。しかし毎日データを見ているうちに、その気持ちは変化していきました。日本を含む東アジア全体は、欧米とはまったく違う統計的な動きを(理由はさておき結果として)示していたからです。
私の見方は医療経済ジャーナリストとしてのもの(国別・年齢別の感染者数・死者数が結果としてどうなのかといった統計的・帰納法的視点)であり、普通の医師のそれ(ウイルス遺伝子の配列や免疫学的機序などの基礎理論的・演繹法的視点)とは少し違うかもしれません。そして統計からわかるのは、新型コロナの東アジア各国の死亡率は、欧米の約100分の1だという事実です。
また、日本では2020年7~8月に感染者数が増加し、第2波の大波が危惧されました。しかし、この「はじめに」を書いている8月末現在、結果として第1波よりも小波で終わりそうです。
そもそも、第1波最高潮の4~5月でさえ、日本では超過死亡(例年の死者数をもとにした予想死者数を超えた分の死者数)がほぼ発生していなかったのです。
たしかに欧米では本当にひどいコロナ被害が出ました。死者数が例年の2倍にもなってしまった国がいくつもあります。しかし日本はそうではなかった。日本全体のコロナ騒動は、欧米のそれのイメージに引っ張られ過ぎたのではないかと、私には思えてなりません。
とはいえ、私は本書で「今後もコロナの大流行はない」と予言したいわけでも、「コロナなんて大したことない」と断言したいわけでもありません。コロナ患者を受け入れ、激務をこなされた医療従事者のみなさんにはもちろん大いなる敬意をもっていますし、私自身「現場の医療従事者のみなさんの仲間であり味方でありたい」と思っています。
私が本書で訴えたいのは、「新型コロナ及びその他医療業界全体のさまざまなデータを事実としてしっかり認識し、それらをマクロな視点で評価・分析することで見えてくる、日本の医療の構造的な問題」です。
ここで7つの質問をします。みなさんはこのうちいくつにYESと回答されるでしょうか?
(1)病床が多いと平均寿命が延びる?
(2)全国どこでも同じような医療が受けられる?
(3)医師が忙しすぎるのは医師不足だから?
(4)医療も市場原理に任せるほうがうまくいく?
(5)地域の病院は減らしてはいけない?
(6)公立病院の赤字は税金の無駄遣い?
(7)病院がなければ高齢者は幸せに生きられない?
答えは7問ともNOです。一般的には当然YESと考えられているようなこれらの事柄は、実はすべて誤解です。
本書では、これらのことが誤解だと納得していただけるよう、新型コロナ関連をはじめとして日本や世界の医療・介護に関わるさまざまなデータを提供し、私たちの人生観・死生観についても問題提起しています。
このページをめくった向こうには、「あなたの知らない新たな世界」が待っています。本書をすべて読み終わったあとには、医療・介護だけでなく社会全体の見え方がいままでとはまったく変わっているはずです。
それでは、本編に入りましょう。
本書がみなさんの人生に少しでもお役に立てることを祈りながら。
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