あの最悪刑事『作家刑事毒島』がドラマ化される。ミステリー作家の中山七里さんが、テレビ東京系ドラマ「作家刑事毒島真理」(11月30日20時より放送)の撮影現場に訪れた。作家兼刑事の主人公・毒島真理を演じる佐々木蔵之介さんと、その毒島に振り回される警視庁捜査一課の新人・高千穂明日香を演じる新川優愛さんと対面。両名が演じるキャラの魅力や、ドラマ化への思いを語ってくれた。
映像化されたくなかったドラマ
毒島が鋭い眼光で容疑者を見つめる。この日の撮影は警視庁の取調室で繰り広げられる応酬の場面だった。連続殺人への関与を疑われる男が、その犯行を一部否認。毒島はその証言が嘘か誠か、見極める必要に迫られる。
事件は解決か、それとも捜査継続か。物語の分岐点となるシーンを見て、中山さんは「穏やかなイメージがありますが、佐々木さんの目力は凄かったですね。普段ニコニコしている人なだけに恐ろしさが際立ちました」と後に語ってくれた。
「この原作だけは映像化されたくなかった」
中山さんがそう話すのが原作小説の『作家刑事毒島』だ。
2016年に単行本が刊行された本作は、独特な主人公・毒島真理の活躍を描く痛快ミステリー。ある日、新人賞の選考に関わる編集者が死体で発見されるが、警察の捜査は難航。そこで出版界に精通する毒島に協力が要請される。彼は売れっ子作家でありながら、刑事技能指導官としての顔を持つ警視庁の変わり者だ。物書きらしく巧みな弁舌を武器にして事件の解決に挑む。
実は作家という職業を描いているだけに、毒島のモデルは中山さん本人ではないかという説がある。単行本の発売時に表紙絵を担当したデザイナーの茂苅恵さんは、中山さんと面識がないにも関わらず、作者にそっくりの男を描いてきたという裏話まで。ご本人は否定するが、毒島は中山さんの分身と言っても過言ではないのではなかろうか。
そして物語は深く出版界の闇に切り込んでいくだけに「明らかに色々な人に迷惑がかかる作品なんです。現実に起きていることを書いているので出版するときも怖かった(笑)」と中山さん。
そして、そんな主人公を演じるのが、大人気俳優の佐々木蔵之介さんだ。実際に中山さんは対面し、お互いに大好きだという飛行機の話題などで盛り上がった。
「気遣いのある凄く親しみやすい方でした。毒島は黙っていれば虫も殺さないような善人という設定なので、原作者として文句の付け所がありません」
原作で描かれる毒島の曲者ぶりは、ドラマでも忠実に再現されていている。あの佐々木さんが毒のある言葉を操る姿は、見どころの一つであることに間違いはないだろう。佐々木さんが実際に演技をする場面についても中山さんは「毒島は口で笑うけど、目は決して笑わない。そこが凄く合っていました」と笑顔で話してくれた。
さらに、撮影の合間を縫って新川優愛さんも、中山さんに会いに来てくれた。新川さんが演じるのは新人警察の高千穂明日香。原作では正義感の強い愚直な女性として描かれているが今回のドラマでは、より溌剌とした面が強調されている。
「原作とは別の側面もあってそこを楽しませていただいています」
特に毒島と明日香の掛け合いは、原作に比べると結構な数の場面が加えられ、また違った面白さがある。
そして明日香は『切り裂きジャックの告白』を始めとした「刑事犬養隼人」シリーズのメインキャラクターだ。シリーズ第4弾となる『ドクター・デスの遺産』は、2020年11月13日より全国の映画館で上映中。つまり同時期に同じキャラが別々の作品に登場していることになる。
『ドクター・デスの遺産』で明日香を演じるのは女優の北川景子さんだ。中山さんは「同じ役でも全然違う人間に見える。そこも面白いですね」と両作を見ることを推薦。さらに、「毒島で人間不信に陥っていく明日香を見て、ドクター・デスは明日香が立ち直っていく物語として見ていただければ」とおすすめの楽しみ方を伝授してくれた。
佐々木さんと新川さんの両名に、中山さんはサイン入りの原作小説をプレゼント。全ての見学を終え、帰りのバスに乗り込んだ中山さんは充実した表情で帰路についた。
コロナ禍で見えた現場の執念
今回の見学を振り返って、中山さんにはどうしても視聴者に注目してほしい面があるという。それはコロナ禍で見えた映像関係者の執念だ。
見学に訪れたのは2020年の8月。さらに現場は取調室という室内の場面であるということで、感染症への細心の注意が払われていた。出演者はカメラが回っていない間はマスクをして、撮影に入るときのみ外す。そして、「カット」の声と同時にマスクをつけるという徹底ぶりだ。
さらにカメラワークについても「普段と全然違うと思います」と中山さんは説明する。例えば、取調室で佐々木さんが演じる毒島と、吹越満さんが演じる麻生警部が窓越しに容疑者を見つめる場面。通常であれば、後ろから二人が横に並んでいる様子が映されるはずが、この日は違う。二人が並ぶ様子を縦に撮影し、毒島を手前にアップで、麻生を奥にやや小さく映しているのだ。密を避けるためだろうか。実際にはカメラに映る映像から受ける距離感以上に二人の間は離れている。
「コロナの中で皆さんは頭の中に汗をかきながらやってくださったと思います。物を作る人の執念が垣間見えます。コロナの中で行われた見えない努力を感じてほしい」
コロナ禍では書店の閉店などもあり、文学業界全体も影響を受けた。物づくりに携わる人たちの志を見通す中山さんの視線は鋭い。
原作の『作家刑事毒島』の中にはこんなエピソードがある。主人公・毒島の描いた作品のドラマ化が決定するが、その内容は原作と映像で大きく隔たりがあった。そんな矢先に映像プロデューサーが殺害される事件が発生。警察は原作をないがしろにされた毒島が犯人ではないかと疑いを持ち……。
このエピソードは今回映像化されていないが、「あそこを映像化したら羞恥プレイみたいですもんね。あれは難しいでしょう」と笑いながら語ってくれた。
「原作でもキャラは描くうちに変わっていきますし、そうした原作と映像で違う面も含めて楽しんでほしい」
他にも「容疑者役の塚地武雅さんはひねくれている役がぴったりでした。麻生を演じる吹越満さんは真面目だけど毒島に引っ張られてしまう様子が良かったです。昔は人の良い役が多かったのですけど、(2010年上映の映画)『冷たい熱帯魚』から強面のクールな役も増えましたよね」と映像通ならではの一言も。
「歪んだ性格の犯罪者と更に歪んだ性格の刑事の対決をお楽しみください。文壇の光と闇を描いた作品。光が強ければそれだけ闇も強いのです」
ドラマ「作家刑事毒島」は11月30日20時より放送です!
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