カツアゲ、暴力、万引きの強要、集団レイプ……子どもたちの間で過激化している「いじめ」。近年、その解決を私立探偵が請け負うケースがあるという。『いじめと探偵』は、これまで数々の「いじめ」問題を解決してきた著者が、実際に体験したエピソードを赤裸々に明かすノンフィクション。証拠の集め方、学校や相手の親との交渉法など、まさかのときに備えておきたい解決策も伝授してくれる。そんな本書から衝撃のエピソードをいくつか紹介しよう。
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なぜ彼女は万引きをしたのか
万引きした女子中学生の尾行を開始した。具体的には、私を含めた2名の調査員が彼女に張り付いた。その子は、家から学校、学校から進学塾、進学塾から家、というパターン化された毎日を送っていた。家から学校は1人で、学校から塾までの道のりも1人で行動したが、塾から出てくる時は、いつも同じ5、6人の集団の1人として行動した。
集団の服装はまちまちで、ある者は彼女が通う学校の制服を着ていたが、ある者は私服だった。しかし、よく見るとその集団全員が同じ学校に通う生徒たちだとわかった。
探偵は、一度見た人間の顔を記憶する訓練をする。100人でも200人でも、一度見た顔には見覚えがある。そうでなければ探偵は務まらない。彼女が学校から出てくるまで、調査員は校門の近くで待機する。この時、長時間同じ場所にとどまると、不審者が学校の周りにいると勘違いされ、近隣住民に通報される恐れがあるため、学校周辺の張り込みではこまめに移動するよう心がける。
塾から出てくる集団の顔は、皆校門前での張り込みの時に見かけた顔ばかりだ。私服の子は、多分、塾のトイレかどこかで着替えたのだろう。
尾行を開始した時点で、私も含めた調査員は彼女と面識がない。依頼者であるお父さんから渡された彼女の顔写真を手がかりに、本人を識別したが、実際の彼女は写真の女の子よりも表情が暗かった。
尾行を開始して数日で決定的瞬間が訪れた。平日の午後9時頃、いつものように彼女を含めた仲間たちが塾から出てきた。彼女は、集団の中で、いつも最後尾、しかも仲間と少し離れて歩いている。その様子を見て私は、やはり、いじめられているのかなと思った。
繁華街に差し掛かり、コンビニの前で集団が立ち止まる。10メートルほど離れて尾行していた調査員には、1人の子が、彼女に向かって「やれよ」と言う声がはっきりと聞き取れた。その声に促され、彼女はコンビニの中に入っていく。
私も、1人の調査員を近くで待機させたまま、コンビニ店内に入った。彼女は私の存在に気づき、私が視界に入っているうちは売場の隅でじっとして動こうとしない。多分、私を単なる客だと思ったのだろう。私は、彼女から見えない場所に移動し、コンビニ内の防犯用の鏡を通して、彼女の様子をうかがった。
一瞬の出来事だった。周囲を見回し人がいないことを確認した彼女は、商品の口紅を手に取り、そのまま自分の鞄の外ポケットに入れた。私は、すばやく彼女の横に移動し、彼女が手を鞄のポケットから抜く前に、手首を押さえた。そして「戻しなさい」とささやいた。
彼女は震えながら私の顔を見上げた。私の顔をじっと見て「こいつどこから出てきたんだ」とでも言いたげな、呆気にとられた表情をしている。
その様子を店の外から見ていた仲間集団は、一斉にその場から逃げ出した。それもてんでバラバラの方向に。指示を出していたリーダー格と思われる生徒に関しては、外にいたもう1人の調査員が尾行したが、あとは取り逃がしてしまった。
万引きは「仲間の証し」?
彼女を店外に連れ出した私は、その場で、依頼者である親御さんに電話した。「調査は娘さんに発覚しました。こうなったら、娘さんに、今何が起きているのか説明させてもらえませんか。そのほうがスムーズに事が運びます。娘さんは、私が自宅まで安全に送り届けます」私は親御さんにそう告げ、彼女はその会話を横で聞いていた。
この日は、徒歩で尾行していたので、彼女を自宅に送り届けるためのクルマがなかった。タクシーを拾って、彼女を乗せ私も乗り込む。薄暗いタクシーの後部座席で私は彼女に話しかけた。
自分が探偵であること、お父さんの依頼で調査していたこと、警察官ではないこと、警察に突き出したり、お金を要求したり、体の関係を求めたりすることは絶対にないことを説明した。こういうパニックになりがちな状況では、まずは相手に、私が危害を加える存在ではなく味方である、と理解してもらうことが先決だ。
その上で「やらされたんだね」と問いかけると、彼女は下を向いたままで「うん」と頷いた。
この時、調査の事実を彼女に説明するべきだと判断したのには理由がある。ここから先は本人の協力なくして調査は進展しないからだ。逃げた子供たちの特定には彼女の協力が必要になる。
一旦白状すると、いじめられていた彼女は堰を切ったように語り出した。これまでに10回以上万引きをした。捕まったのは前回が初めてだ。友だちも全員万引きをしている。万引きは、仲間であることの証しだという。夏休みあたりから数カ月にわたってこの集団は万引きを繰り返していた。
何不自由のない生活を送る、お嬢さん学校の中学生が、仲間の証しとして万引き?「コレ、狂っているな」と私は感じた。私自身も、中学時代は決して品行方正なほうではなかった。むしろやんちゃだったが、彼女たちの心理はまったく理解できなかった。
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いじめと探偵
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