インターネット上にあふれる悪口、けなし言葉。心ない言葉に傷つき、みずから命を絶つ人が現れるなど、社会問題にまで発展しています。今こそ「ほめ言葉」の価値を見直すべきではないでしょうか? 山下景子さんの『ほめことば練習帳』は、「面白い」「好き」といった身近なものから、「折り紙付き」「兜を脱ぐ」といったふだんあまり使わないものまで、語源をさかのぼって徹底解説。本書を参考に、今日から「ほめる習慣」を始めてみませんか?
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「兜を脱ぐ」
昔、武士が戦の途中で兜を脱ぐということは、降伏の意思表示でした。そこから、戦うのをやめて、降参するという意味で用いられるようになったというわけです。
転じて、相手の力量を認め、とてもかなわないという場合にも使われます。
「参りました」「恐れ入りました」というのと同じですね。
ほかにもあります。シャッポを脱ぐも、そのひとつ。
「シャッポ」は、フランス語「chapeau」からきた言葉で、主につばのある帽子をさしました。帽子を脱いで、頭を下げる……これも、降伏のサインになります。そこで、同じ意味の慣用句として、用いられるようになりました。とはいえ、今では、脱帽という方が一般的ですね。
動物は、参ったというしるしに、尻尾を巻きます。尻尾を巻くという表現は、これを人になぞらえたもの。
相手に言い負かされたり、圧倒されたり、あるいは感動したとき、何も言えなくなることは、舌を巻く。舌を、たたみ込んでしまうという意味です。これも、驚嘆したときなどに、使われるようになりました。
どれも、「負けた」と言っていますが、かえって、相手の力を見きわめる度量が感じられます。
そういえば、頭を下げるのも、負けを認める態度。ですが、自然と頭が下がる場合もあります。心から尊敬する気持ちが起こったとき、日本人はこのような態度をとってきました。
頭が下がるほどの行いをする人も立派ですが、それに感じ入って、素直に頭を下げる人も、美しいと思います。
「目覚ましい」
目が覚めるようなという形でも、同じ意味になりますね。
今では、眠気も吹っ飛ぶほど、見事だったり、美しかったりする場合に使いますが、昔は反対でした。
あまりにも不愉快なときに、「目覚ましい」といったそうです。
嫌なことで頭がいっぱいになって眠れなくなるよりは、嬉しい興奮で目が覚める方が幸せというもの。
そういえば、迷いから抜け出したり、過ちに気づいて、本来の姿を取り戻したりするとき、「目が覚める」という表現を使います。改心してよくなった姿を、その人本来のものとしているわけですね。
目を見張るという言葉も、怒る場合に使われていたようです。今では、感動など、いい意味での驚きで、目を見開くことをいうようになりました。大きく目を開いて威嚇するより、その目で、素晴らしいものをいっぱい見る方がいいと気づいたのでしょう。
「目を開く」というだけでも、新しい境地を知ったり、真理を悟ったりすることを意味します。大きく開いた目では、いっそうたくさんの気づきを得られることでしょう。
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ほめことば練習帳
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