カツアゲ、暴力、万引きの強要、集団レイプ……子どもたちの間で過激化している「いじめ」。近年、その解決を私立探偵が請け負うケースがあるという。『いじめと探偵』は、これまで数々の「いじめ」問題を解決してきた著者が、実際に体験したエピソードを赤裸々に明かすノンフィクション。証拠の集め方、学校や相手の親との交渉法など、まさかのときに備えておきたい解決策も伝授してくれる。そんな本書から衝撃のエピソードをいくつか紹介しよう。
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「援交現場」を押さえたら……
男が逃げてホテルには彼女と探偵だけが残った。この後は通常、私たちもホテルを出る。そして私は、彼女=被害生徒と2人きりで話をする。話し合いの場所はその時々によって違うが、だいたい近くの喫茶店か、あるいは探偵のクルマの中が多い。他人に会話の内容が知られないところならどこでもいい。この時は、近くに停めてあった事務所のクルマの中で彼女と話をした。
こういう時探偵は、まず間違いなく地回りのヤクザと間違えられる。この時もそうだ。だから彼女は私に向かって「どちらの人ですか?」と聞いてきた。
「どちらの組の人?」という意味だ。ヤクザが自分たちの縄張りで商売をされて怒っていると勘違いしている。
そして、必ず彼女たちは「電話を1本かけさせて欲しい」と要求する。援助交際を強要している人間に、何かあったら電話しろと言われているのだろう。だがこの申し出はキッパリと拒絶する。この時も彼女はこう言った。
「電話させてもらえませんか」
「ダメだ」と私。
ここで私は身分を明かす。自分はヤクザでも警察でもない、親御さんがあなたを心配して雇った探偵だ、と。その上で、彼女にケータイの中身を見せるよう指示した。この時はほとんど無抵抗でケータイの中身を見せてくれた。
援交の現場を見つかった時点で本人は動揺している。ほとんどの場合いちいち抵抗する気力は残っていない。では、なぜ探偵はケータイの中身を確認するのか。援助交際強要の事例では、当該生徒のケータイの中身を見れば、必ずそこで証拠が発見できる。
この時も、メールをチェックすると「ウリ」とか「もうウリはやめたい」という文面が見つかった。さらに、この彼女の場合は加害生徒に送った「裸の写真を返して」というメールも見つかった。
ケータイの中身を、彼女と一緒に確認した上で「強要だよね。やらされてたんでしょう?」と聞くと、あっさり「はい」と答えた。泣き出すでもなく、むしろ何が起きたかわからない、呆気にとられた表情をしている。
急に茶葉を食べ出した母親
本人が援交強要の事実を認めたら、その場の雰囲気が変わらないうちにこれまでの経緯を一気に聞き出す。この時は、強要した子は同じ学校の女子生徒であること、その加害生徒には不良っぽいボーイフレンドがいたが、そのボーイフレンドは援助交際には一切ノータッチだ、などの事実がわかった。
つまり1人の女子高生が独力で援助交際をセッティングしていた。これまでに何回援助交際を行ったのか、他に誰が強要されているかも聞き出す。そして一番肝心なことだが、当然、なぜ強要されるに至ったかもここで聞き出す。
援助交際の強要事例では、加害生徒が被害生徒の弱みを握り、脅すケースが多い。彼女の場合も加害生徒に脅されていた。彼女は「友だち(加害生徒)の家に泊まりに行った時に、裸の写真を撮られてしまった。ウリをしないと、その写真を人に見せると脅されて、援交させられていた」と白状した。そして、その裸の写真なるものも彼女のケータイに入っていた。だがその写真は複製でオリジナル・データは加害生徒が保管しているという。
その写真をよくよく見てみると、ただ単に寝ているところを裸にされて撮られただけのものだった。別に恥ずかしいポーズで撮られたとか、誰かとセックスしているのを撮られたわけではない。
確かに裸の写真を他人に見せられるのは恥ずかしいだろう。でも、そうされないのと引き替えに援助交際をする感覚がわからない。単なる裸の写真ならたとえ人に見せられても、それは私じゃないと言い張れるかもしれない。知らない男とセックスするほうがよほど辛い気がするのだが……。この心理状態は理解できない。
ほとんどのケースで、女子高生が援交を始めるきっかけは驚くほど軽い。私にはそう思えてならない。
一通り話を聞き終えると事務所のクルマで彼女を自宅に送り届けた。親御さんには「娘さんは、援助交際を強要されていました。今日は未遂でしたが、前はわかりません」とだけ伝える。
この話を聞かされるのはお母さんだけだ。この日、依頼者宅に到着したのは午後10時頃だったが、お父さんはまだ仕事から帰っていない。いつもこんな感じだ。お父さんは何が起きているか知らないことが多い。
だが、報告を受けたお母さんの驚き方は半端ではない。誰の目にもわかるほど動揺してしまう。このお母さんは、お茶を淹れる動作の途中で急に茶葉を食べ出した。「娘が援助交際を強要されていた」と報告を受けた親御さんは、こう言っては失礼だが動揺のあまりコミカルにさえ思える反応を示すのが常だ。
いじめと探偵
カツアゲ、暴力、万引きの強要、集団レイプ……子どもたちの間で過激化している「いじめ」。近年、その解決を私立探偵が請け負うケースがあるという。『いじめと探偵』は、これまで数々の「いじめ」問題を解決してきた著者が、実際に体験したエピソードを赤裸々に明かすノンフィクション。証拠の集め方、学校や相手の親との交渉法など、まさかのときに備えておきたい解決策も伝授してくれる。そんな本書から衝撃のエピソードをいくつか紹介しよう。