カツアゲ、暴力、万引きの強要、集団レイプ……子どもたちの間で過激化している「いじめ」。近年、その解決を私立探偵が請け負うケースがあるという。『いじめと探偵』は、これまで数々の「いじめ」問題を解決してきた著者が、実際に体験したエピソードを赤裸々に明かすノンフィクション。証拠の集め方、学校や相手の親との交渉法など、まさかのときに備えておきたい解決策も伝授してくれる。そんな本書から衝撃のエピソードをいくつか紹介しよう。
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サラリーマン化する教師たち
最近は探偵によるいじめ調査が世間でも認知されている。そのせいか、学校の先生から直接いじめ相談の電話がかかってくる。
以前は先生からの相談にもじっくり耳を傾けた。だが最近は「どうすればいいのか?」と聞かれたら「自分の頭で考えてください」と返答する。「証拠を取らなきゃいけないんですか」と聞いてくる先生には「まずは、自分でその生徒に聞いたらどうですか」と告げる。
「もっと、相談させてもらえないか」と言う人には「電話ではなく、できればメールでお願いします」と言う。だってそうだろう、探偵にはこなすべき大量の業務がある。ストーカー被害、詐欺被害、行方不明人調査と、緊急を要するものも多い。なのに、子供を教育するという本来の自分の役目を果たそうとせず、いきなり探偵に電話してくる先生のために延々と時間を割くことはできない。
なぜ、今の先生がいじめ問題で動けないのか。それにはさまざまな理由があるようだ。今の先生というのは、昔の先生に比べて、やらなければならないことがとても多い。書類を作ったりルーティンワークをこなしたりと、仕事量が膨大だ。土日出勤する先生も珍しくない。話し合いのため学校を訪れても彼らはいつも何か別の仕事をしている。そういう人たちは当然目も血走っている。
この人たちは、昔私が抱いた学校の先生のイメージとはほど遠い。彼らは、現代日本のサラリーマンなんだろう。だとしたら個々の先生の資質に問題があるというより、制度自体に問題があるのではないか。だから、私のような私立探偵がいじめ調査を受件せざるを得ない現実があるのだ。
ある小学校の先生はこんな相談をしてきた。「校内で、特定の子供たちがいじめをしているという噂がたっているけど、本人たちを見ているとそんな子に見えない。だから、録音しなきゃいけないんじゃないですか」
それに対し私はこう答えた。
「私の経験から言うと、子供というものは、ふだん先生に見せる顔と、友だちに見せる顔は違うんですよ。それくらい、見分けなさいよ」
その先生は私に電話してくる段階で、周囲からいじめている子と認知されている児童と話し合いすらしていない。その先生は女性だったが「話をすると親が怒鳴り込んでくる」とこぼした。「犯人探しはできない」と言った。
「死なないでね」と言った女性教師
こんな先生たちの事情を実は子供たちは知り尽くしている。いじめを受けていた小学校5年生の女の子は、私に「先生は知っているのに何もしない。知らないはずはない。先生は信用できない」と言った。滋賀県大津市の自殺事件の直後、ある学校の女の先生がいじめられている子に向かって「死なないでね」と言った。これが学校の現実だ。
ある地方の中学3年の男子生徒はこんなことを教えてくれた。彼は親と一緒に学校に出向き、自分がいじめられていることを担任の先生に相談した。後に私の調査でわかったのだが、この子はクラスメイトからボコボコに殴られカツアゲされていた。その被害生徒の相談に対し、担任の先生は「わかった。なんとかする。だから、探偵にだけは頼むなよ」と言ったという。
しかし、実際には「その先生は何もしてくれなかった」。それどころか「もうちょっとで卒業だからそれまで頑張れ」と被害生徒に卒業までいじめが続くと匂わす発言をした。
その言葉を聞いてその生徒は「ふざけんな」と思った。先生に対する怒りがふつふつと沸いてきた。しばらくたって冷静になって、その担任の先生が言った「探偵にだけは頼むなよ」の言葉を思い出した。
「そうか、探偵にだけは頼むなということは、探偵が出てきたら困るんだろう」その生徒は、こう確信した。
「先生の弱点は探偵だ」
ならば、探偵に相談すればいじめがなくなるかもしれないと判断し私の事務所に電話した。
そして、私の事務所が当該案件の調査を受件し前述のような過酷ないじめの実態が明らかになった。ただでさえ、いじめられ心身ともに傷を負っている子供が、先生に相談してその傷を大きくしてしまう。これは絶対あってはならないはずだ。
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いじめと探偵
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