口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。
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相手を変えるより自分を変える
人に何かを伝えるためには、時には相手に合わせて「自分を捨てる」ことも必要です。
もちろん、自分の意見や考え方そのものを捨てるわけにはいきませんが、伝え方においては、自分のスタイルにこだわってばかりはいられません。ある種の「パフォーマンス」と割り切って、相手に合った役割を演じることも求められます。
パフォーマンスというと聞こえはあまり良くありませんが、相手によって役割を演じ分けるのは、決して不自然なことではありません。むしろ、誰でも日頃からやっていることです。たとえば会社では「部長」や「課長」の役割を演じている人が、家に帰れば「父親」や「夫」として振る舞う。その演じ方や振る舞いの変化は、広い意味で「コミュニケーションのスタイル」の変化だと言っていいでしょう。
また、職業によっても仕事中のコミュニケーション・スタイルは違います。たとえば同じ接客業でも、旅館の女将さんと飛行機の客室乗務員では求められる役割が異なるので、お客さんとの接し方は同じではありません。それぞれ、時と場所に応じた演じ方をしているのです。
たとえば説得の相手に基本的な知識が足りないときは、学者や教師のような役割を演じなければいけません。相手が将来への不安を感じているなら、「こうすれば、いずれこうなる」と、あたかも占い師のように、先々の明るい展望を見せてあげることも必要でしょう。
逆に、こちらの意見を受け入れた場合に生じる将来のデメリットを相手が心配することもあります。その場合は、薬の副作用を説明する医師のように、予防策を教えてあげるのが説得する側の役割です。
そこに思いやりがあればいい
たとえば私が憲法を守ることの重要性を説くと、「それは理解できますが、改憲派と議論になったときに反論されたら答えられる自信がない」と言われることがあります。
そういう人には、想定される反論と、それに対する再反論の理屈をアドバイスします。商談の相手が「私は納得しましたが上司が首を縦に振るかどうか……」と懸念しているなら、上司が納得しやすい説得方法を考えてあげるわけです。
さらに、説得は理性だけでなく感情にも働きかけるものですから、相手が落ち込んでいるときには明るいムードを演出することも求められます。その点では、いわば芸者や芸人のような役割を演じることもあるでしょう。
これは、講演でも同じです。堅苦しい話をずっと集中して聞くのは大変なので、聞き手の立場を考えれば、途中で冗談を挟むのは話し手の義務みたいなものです。こちらの話を受け入れてもらうには、「緊張」と「弛緩」のバランスを上手に取らなければいけません。
ときには、説得する相手を厳しく叱ったり教え諭したりすることもあります。これは、父親や母親の役割に似ていると言えるでしょう。私も、たとえば成績不振で弱気になって「司法試験の勉強をやめたい」と言う塾生を説得するときなど、父親のような気持ちで鼓舞することがあります。
このように、相手に何かを伝えるために演じる役割はいろいろあります。すべてに共通するのは、根底に相手への「思いやり」や「愛情」が必要だということです。それがなければ、わざとらしいお芝居になりかねません。相手の立場を考え、自分の意見が相手にとっても良いと信じるからこそ、そこで自分が演じるべき役割がわかるのではないでしょうか。
説得力ある伝え方
口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。