口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。
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説得はディベートではない!
意見が異なるときは「相手の主張を受け入れてひっくり返す」が基本です。「日本国憲法は非常識だ」と言われたら、「たしかに非常識ですよね」と受け入れ、たとえば時間軸を広げて見せることで、「常識」になることを訴える。「現実を直視すべきだ」と言われても否定せず、その「現実」がいかに日本国憲法を必要としているかを説くわけです。
こうした論法は、さまざまなところで使えます。相手の主張を「たしかに~」と受け入れてから、「しかし~」と自説を展開する。この「たしかに~しかし~」は、議論をするときだけでなく、小論文のような文章をまとめるときにも活用できる基本パターンです。
ただし、こと「説得」という段になると、必ずしもこれをお勧めできないケースもあります。
もちろん、いきなり「しかし」から入って頭ごなしに相手を否定するよりは、「たしかに~」といったん受け入れたほうが、「あなたの考え方も尊重していますよ」という印象にはなります。でも、その後で「しかし~」という逆接の接続詞を口にすると、やはりどうしても、「私はあなたと意見が違いますよ」「だからこれから反論します」という姿勢があからさまになります。
ディベートや論文のように論理性が重視される場面なら、それでもかまいません。むしろ、そうやって二項対立を明確にしたほうが話がわかりやすくなります。法律家が取り扱う訴訟用の書面もそうですし、企画のプレゼンテーションや契約などに関するビジネス文書もそうでしょう。
しかし説得は、理屈だけのコミュニケーションではありません。「しかし」という接続詞で攻守を切り換え、はっきりと攻撃モードに入った印象を与えると、相手が身構えてしまいます。
そこからは、相手も「どう反論しようか」と考えながら、こちらの話を聞く姿勢になるかもしれません。そうなると、説得のためのコミュニケーションではなく、「勝ち負け」を決める論争の場になりかねないのです。
「順接の接続詞」を使おう
それを避けるには、たとえ相手と反対の意見を言うとしても、「しかし」「だけど」「でも」といった逆接の接続詞を使わないほうがいい。
たとえば「たしかに、その点はあなたのおっしゃるとおりですね。それで私は思うのですが……」といった具合に、順接の接続詞を使いながら反対意見を述べることはできます。論理性はややボヤけてしまいますが、そうやって順接的に話をつないだほうが、相手と一緒に共通のゴールに向かうような流れをつくりやすいでしょう。
要するに、これは「角の立たない物言い」を心がけるということ。いかにも日本人らしいコミュニケーションと言えるかもしれません。
それを「曖昧な話し方は良くない」と嫌う向きもあるだろうとは思います。いまは日本人の中にも、ロジックだけで突き進む欧米流のコミュニケーションのほうが効果的と考える人が増えてきました。
しかし、説得の目的は議論に白黒をつけることではありません。こちらの考えが相手に伝わり、双方が納得できればいいのですから、角を立てなくて済むなら、あえて立たせる必要はありません。どちらかが敗北感を味わうより、お互いにプライドやメンツを保ちながらゴールに到達したほうが、深く納得できる。
その意味で、あえて曖昧な日本人的コミュニケーションに持ち込むのも、1つの有効な説得方法だと思います。
説得力ある伝え方
口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。