口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。
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「別の見方」を提示しよう
意見の異なる相手を説得するときに大事なのは、同じ問題について考えるときに「別の見方」が存在することを示してあげることです。
これは、相手の見方を否定しなくてもできることです。相手がAという見方をしているのに対して、こちらはBという見方を提示する。「並列」の関係ですから、両者をつなぐのは「しかし」ではなく、「そして」でかまわないわけです。
もちろん、それは説得のスタートラインにすぎません。しかし、一面的な物の見方しかしていなかった人に、別の見方を提示してあげるのはとても重要です。
たとえば憲法問題や環境問題などに熱心に取り組んでいる人にしろ、自分の進路を真剣に思い悩んでいる人にしろ、何かを本気で考えているときほど、人は往々にして小さな一つの窓から世界を見ているものです。そういう人の考え方を変えてもらうには、別の窓を開けて、それまで見ていたのとは違う風景を見せてあげることが必要になってきます。
相手は真剣に考えて自分の見方を築き上げてきているので、それだけで改憲派が護憲派になったり、原発推進派が脱原発論者になったりすることはないかもしれません。しかし、一気にマイナスをプラスに転換するのは難しくても、マイナスだったものをニュートラルなところまで持っていくことは可能です。それだけでも、説得の第一段階としては十分に成功と言えるのではないでしょうか。
人は経験でものごとを判断する
人が生活のなかで身につけてきた価値観を根底から変えるのは、そう簡単ではありません。とくに個人的な人生経験の積み重ねによって培われた価値観は、その人の頭の中にしっかりと根を張っています。
本を読んで啓蒙されただけの価値観は、別の本を読めば変わる可能性がありますが、個人的な経験則はなかなか揺るがないでしょう。それを変えてもらおうと思ったら、まずは相手の経験が狭い限られた範囲のものであることを知ってもらうしかありません。
たとえば、自分の子どもが小学校から高校にいたるまで「ダメな先生」にばかり当たった人は、それを全国的な現状だと認識して、「日本の教員養成システムは間違っている」と考えるようになるでしょう。
それが公立学校だったらさらに話が広がって、「日本の公務員はサボってばかりで甘えている。もっと信賞必罰を厳しくしなければいけない」と主張する可能性もあります。「公務員の人権は制限されて然るべきだ」と考える人すら、出てくるようになるかもしれません。
しかしもちろん、仕事をサボることなく、生徒や市民のために骨身を惜しまず働いている教員や公務員は大勢います。それを別の窓から見せてあげれば、相手の意見はかなり相対化されるでしょう。自分の狭い経験から全体を推測することの危うさに気づくだけでも、大きな前進だと言えるのです。
説得力ある伝え方
口ベタだから、いつも相手に言い負かされてしまう……。ビジネスで、人間関係で、損ばかりしているとお悩みの方は少なくないでしょう。自分の思いをきちんと伝え、なおかつ相手を納得させるにはどうすればよいか? 「カリスマ塾長」として知られる伊藤真さんの『説得力ある伝え方』は、コミュニケーションで必須の「説得力」を養うことができる一冊。この中から、プレゼン、商談、デートなどで即戦力になるノウハウを、特別にお届けしましょう。