インターネット上にあふれる悪口、けなし言葉。心ない言葉に傷つき、みずから命を絶つ人が現れるなど、社会問題にまで発展しています。今こそ「ほめ言葉」の価値を見直すべきではないでしょうか? 山下景子さんの『ほめことば練習帳』は、「面白い」「好き」といった身近なものから、「折り紙付き」「兜を脱ぐ」といったふだんあまり使わないものまで、語源をさかのぼって徹底解説。本書を参考に、今日から「ほめる習慣」を始めてみませんか?
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「面白い」
「思著」、つまり、心に著しく感じることだという説もありますが、面が白いという説の方が一般的です。「面」は、顔そのものではなく、目の前。眼前が開けて、ぱっと明るくなる感じをあらわしたというのです。この説が正しいとすると、「面白い」は、当て字ではないということになります。
今では、白くなるというと、かえって、興ざめするような感覚がありますね。ところが、古代の人の白に対するイメージは、明るく輝いている、はっきりと際立っている、という感じだったようです。
江戸時代、それをもじって、つまらないことを、「面黒い」と言ったとか。
それにしても、面白いという言葉、心が晴れ晴れする、愉快になるといった気持ちから、興味深い、趣がある、そして、笑いを誘うような滑稽なことまで、意味が派生していきました。
明るい表情を呼ぶ感情は、いっぱいあります。いろいろな笑顔があるように、面白いにも、いろいろあるということですね。
「珍しい」
今でも、ほめ言葉として使うこともありますが、見慣れないこと、風変わりなことをさす場合によく使いますね。
もともとは、「愛ず」から派生した言葉です。心がひかれ、素晴らしいとほめ讃えたい気持ちが「愛ず」。ここからは、「めでたい」という言葉も生まれました。
新しいもの好きの日本人は、初めてのもの、めったにないものを見ると、まず、素晴らしいと思ったのかもしれません。やがて、めったにないという意味の方が、強調されていきました。
「珍」という字も、「珍問」「珍答」「珍芸」「珍奇」など、滑稽な印象すらありますが、もとは、素晴らしいことをあらわす漢字。「王」は宝玉。右側の部首は髪の毛が多い様子。あわせて、きめ細かい上質の宝玉をあらわしたものだそうです。珍しいという言葉と同じような変遷をたどったというわけですね。
この流れからいくと、称賛に値するものは、めったにない……ということになるでしょうか。
めったにないからこそ、希少価値が出て素晴らしいと思われる……そんなふうに、これからも、価値が上がったり下がったり、珍しい運命をたどるのかもしれません。
ほめことば練習帳
インターネット上にあふれる悪口、けなし言葉。心ない言葉に傷つき、みずから命を絶つ人が現れるなど、社会問題にまで発展しています。今こそ「ほめ言葉」の価値を見直すべきではないでしょうか? 山下景子さんの『ほめことば練習帳』は、「面白い」「好き」といった身近なものから、「折り紙付き」「兜を脱ぐ」といったふだんあまり使わないものまで、語源をさかのぼって徹底解説。本書を参考に、今日から「ほめる習慣」を始めてみませんか?