「温泉オタク会社員」こと永井千晴さん(@onsen_nagachi)の初めての本が発売になりました。その名も『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』! 訪れた温泉は約500湯。暇さえあればひとりで温泉を巡りまくっている永井さんによる温泉旅が100倍楽しくなる本書から、少しずつTIPSをご紹介していきます。
温泉取材で、とある離島の民宿に泊まったとき、引き戸に鍵がついているタイプの客室に通されたことがあります。「引き戸に鍵タイプ」は古い旅館や民宿であればそんなに珍しくないのですが、心許ないなあ、と不安がってしまいます。あの、ちょっとした武器でガーンとやればあっという間に開いてしまいそうな、性善説に基づいた造形……。誰も開けてこないのに、なんらかにこじ開けられそうでうまく眠れません。極度の怖がりです。
そんな性分にもかかわらず──当時は二十歳になりたてで、怖いもの知らずでもありましたが──全国各地の温泉取材をしているときは、毎日車中泊でした。道の駅に車を停めて、後部座席に敷いたマットで眠る日々。男性だと思われるように小物をメンズで揃え、すべての窓を黒いカーテンで覆い、キャンピングカーのすぐ横に停めて(道の駅に夜停車しているキャンピングカーには、必ず誰かが泊まっています)、いつでも助けを求められるようにしていました。汚い話ですが、道の駅の洗面所に夜、ひとりで歯磨きをしに行くのが怖くて、車内で空いたペットボトルや缶を使って済ましたことも……(翌朝きちんと洗って捨てました。声かけられるのをとにかく避けたかった)。女ひとり車中泊で、自分なりに身につけた防犯対策でした。
今でもひとりで温泉旅行をすると、前述の通り「引き戸に鍵タイプは心許ない」だのなんだのと、ちまちまと不安がって過ごしています。日本は治安のいい国ですが、もう本当に、何が起こるかわからないですから。防げるものは全力で防ぐしかありません。
私が実践している防犯対策のひとつは、「リアルタイムでどこにいるか、SNSに書かない」。これは、私のTwitterアカウントをいろんな方に見ていただいているからではありません。友達しかフォローしあっていないInstagram、Facebookでも同様です。どこからどう見つけて、「おっ、女ひとりなのか」と狙われるか、全くわかりません。まずは危ない人に認知されないよう、今どこにいるのか、これからどこへ行くのか(泊まるのか)、とにかく書かないことです。一番の理想は、帰宅してから「こんなところに行ってきたよ」と発信すること。長旅であれば、せめてその地を発った二~三日後など、それからどこへ向かったかほとんど予想がつかないぐらいタイムラグを作るのが理想だと思います。
そして「人気のない無人の温泉には浸からない」。お金をいくらか箱に入れて浸かるような無人の共同浴場や、自然の中に湯船があるだけの野天風呂は、人気がなければ避けましょう。十年ほど前には、そういった秘湯にひとり浸かっていた女性が殺害された事件もあります。怖がりながら浸かったって全然心地よくありません。
外を出歩くのは夜遅すぎないほうがいいですし、泥酔するまで飲酒しないほうがいいです(何かあっても判断が鈍るので)。客室や宿をグレードアップしてちょっとでも安心できるのであれば、ぜひそうしてください。不安はほとんどの場合、お金とちょっとした行動で解消されます。女性だからより防犯に留意しなければいけない世の中はつらいものですが、「自衛」と考えれば、少しは気が楽になるものです。
余談ですが、私は十八、十九のとき、バックパッカーをしていました。一泊数百円のカビの生えたゲストハウスに泊まり、東南アジアを旅行していたあのころ。底知れない度胸は、誰にも狙われないと勝手に思い込み、お金がないふりをして、旅慣れた男性たちと肩を並べていたい気持ちからきていたのだと思います。もう千円二千円出せば、ちょっとしたホステルに泊まれたはずなのに。いや、ああいうゲストハウスの経験が生きているから、今も勇気を出していろんな温泉へ行き、こうやって本を書いているのだと思うのですが。大人になった今日も、十八、十九のときのような旅行スタイルを取り入れ、わざわざ危ない橋を渡る理由なんてどこにもないんですよね。あの年齢には、あの年齢なりの楽しみ方があったに過ぎないと、つくづく考えるのです。
女ひとり温泉をサイコーにする53の方法
「温泉オタク」会社員による温泉偏愛エッセイ
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