コロナの蔓延によって、病と死の不安に脅かされている昨今。そんな時代だからこそお薦めしたいのが、現役看護師にして僧侶でもある玉置妙憂さんの『すべてあなたが決めていい』です。医療と宗教、両方の立場から「生き方」と「逝き方」を説く著者は、「クローズアップ現代+」や「あさイチ」でも取り上げられ、反響を呼んでいます。今回は、人生の残り時間を豊かにするための考え方を説いた本作の一部を、ご紹介します。
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死は意外とすぐそばにある
人は誰でも、生まれた瞬間から死亡率100%だということを、普段は忘れて暮らしています。元気なときは、明日が来るのは当たり前で、生きている意味を考えることはあまりないかもしれません。
しかし、東日本大震災のような災害や新型コロナウイルスのような感染症など、人間の「命の限り」を感じるような出来事がきっかけで、生死や人生についてモヤモヤとした気持ちが溢れてくるときがあります。「人の命はこんなにもあっけなく奪われるものなのか」「生きる意味とは何なのか」と思った方も多いのではないでしょうか。
生死について思いをめぐらすときに浮かび上がってくる、このような疑問や苦悩は、「スピリチュアルペイン」と呼ばれるものです。心の痛みや精神的な苦しみより、もっと奥深いところにある、自分の存在にかかわる潜在的な苦痛といわれています。
世界保健機関(WHO)では、肉体的(フィジカル)、精神的(メンタル)、社会的(ソーシャル)、動的(ダイナミック)に加え、霊的(スピリチュアル)を健康の条件とする提議をかつてしていましたが、その「スピリチュアル」という言葉には宗教的な意味はなく、「人間が持って生まれた根源的なもの」だと私は解釈しています。
お釈迦様だって悩んでいた
「私は何のために生まれてきたのだろう」
「なぜ苦しい思いをして人生を送らなければいけないのか」
もし、皆さんがこのような問いを抱くようになったら、それは普段なら閉まっていたスピリチュアルの箱のフタが開いたともいえます。
「仕事がつらい」「家族とうまくいかない」といった精神的苦痛と違うところは、スピリチュアルペインには答えも解決策もないということ。このようなスピリチュアルペインを感じると、死ぬのが急に怖くなったり、生きていくこと自体がつらくなったりすることがあります。
仏教の開祖であるお釈迦様は、スピリチュアルペインがきっかけで出家しました。
インドの王族のもとに生まれたお釈迦様は、病や貧困で苦しんでいる人々がいる世の中の悲惨な状況を一切見せられることなく育てられました。しかし、あるとき勝手に家を飛び出したお釈迦様は、生まれてはじめて死人を見たのです。
そこではじめて病気になるとは、死ぬとはどういうことかを追究しました。その衝撃によってスピリチュアルペインを感じ、苦しんで悩み抜くことで、精神性を上の次元へと高めていきました。
私たちは生きている間にどこかのタイミングで、スピリチュアルペインに向き合うことになっているように思います。正解のない問いを抱えて悩み苦しむことは、他人に対する優しさや思いやりや、想像力にもつながっていくのではないでしょうか。
「わからないものをわからないままに」しておくのが苦手な私たちは、ネットで調べたり他人に聞いたり、自分自身を納得させようと躍起になります。けれど、「わからないことをわからないままに」できる度胸は、生きていく上で必要なときがあります。
答えのない問いを眺め続けられる力の種は、あなたの中にすでにセットアップされているかもしれません。
すべてあなたが決めていい
コロナの蔓延によって、病と死の不安に脅かされている昨今。それは気づかぬうちに、私たちのメンタルも蝕んでいます。そんな時代だからこそお薦めしたいのが、現役看護師にして僧侶でもある玉置妙憂さんの『すべてあなたが決めていい』です。医療と宗教、両方の立場から「生き方」と「逝き方」を説いた本書は、「朝日新聞」など各紙誌や、「クローズアップ現代+」「あさイチ」といった番組でも取り上げられ、反響を呼んでいます。今回は特別に、その内容を一部、ご紹介しましょう。