コロナの蔓延によって、病と死の不安に脅かされている昨今。そんな時代だからこそお薦めしたいのが、現役看護師にして僧侶でもある玉置妙憂さんの『すべてあなたが決めていい』です。医療と宗教、両方の立場から「生き方」と「逝き方」を説く著者は、「クローズアップ現代+」や「あさイチ」でも取り上げられ、反響を呼んでいます。今回は、人生の残り時間を豊かにするための考え方を説いた本作の一部を、ご紹介します。
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簡単に忘れることなんて不可能
大切な人を亡くすと、言葉では言い表せないような虚無感や喪失感に急に襲われます。私が夫を看取ったあとに経験した感覚は、たとえて言うなら、あるとき突然、落とし穴にドボンと落ちてしまうような感じでしょうか。
突然、うわーっと嵐のような悲しみに襲われたときは、泣きたいだけ泣いていました。子どもたちになるべく心配をかけないように、「泣きモードが来ました!」と宣言していましたが、泣きはじめたら食事の支度などできません。
すると子どもたちも慣れてきて、「また泣きモードが来たから、今日は出前だね」と先を読めるように。私の母親からは、「子どもたちの前で泣くもんじゃない」「あなたがしっかりしないでどうするの?」とお説教をされましたが、悲しみの穴に落ちている間は、気丈な母親のフリなどできないと、割り切っていました。
今振り返ると、当時の私は誰かに話したくて仕方なかったのだと思います。自分の中でモヤモヤしていることを、しゃべることで振り返りたかった。
夫の様子が何だかおかしいと思っていたら、がんが再発していたこと。ヘルパーさんに叱られたり、両親に責められたりしたときの、どうしようもない思い。
それまで誰にも言えなかったことを、洗いざらい話せたときはとても楽になり、心も軽くなって、「私はすごく寂しかったんだな」と気づくこともできました。誰かに話すことで、心の中の荷物を放すことができたのです。
前を向くには時間がかかる
私は看護師学校で学生たちに教えることもありますが、教育は10年という考え方で接しています。授業ですぐに理解してもらうことより、10年後「あのときの玉置の言葉はそういうことだったのか」とどこかで思い起こしてもらえればいい。
それは看取りにも言えることかもしれません。大切な人が亡くなったことから私たちが回復し、何かに気づくとしても、同じように時間がかかるのでしょう。悲しみの底までドボンと落ちたあとは、ゆっくり、少しずつ浮かび上がってくる力を蓄える期間が必要なのだと思っています。
すぐにいつも通りの生活に戻ろうとか、がんばって前を向こうと急ぐ必要はありません。10年くらいゆっくり歳月をかけて、自分の中にその方の命を落とし込んでいけたらいいと思うのです。
すべてあなたが決めていい
コロナの蔓延によって、病と死の不安に脅かされている昨今。それは気づかぬうちに、私たちのメンタルも蝕んでいます。そんな時代だからこそお薦めしたいのが、現役看護師にして僧侶でもある玉置妙憂さんの『すべてあなたが決めていい』です。医療と宗教、両方の立場から「生き方」と「逝き方」を説いた本書は、「朝日新聞」など各紙誌や、「クローズアップ現代+」「あさイチ」といった番組でも取り上げられ、反響を呼んでいます。今回は特別に、その内容を一部、ご紹介しましょう。