母が他界したその日、わたしは紫色のパンツを履いていた。
パンツ。ずぼんではなく下着のほうのパンツだ。といっても、多くの人が想像するような色っぽいものではない。
綿100パーセントの、三枚セットで1200円だがなんだかの安物だった。駅ビルの中の下着屋のセールで買った。それが欲しかったわけではなくて他の色のものが目当てだったのだけれど、セットだから仕方なく一緒に買って所有していた。しかも買ったのはもう随分前だ。洗濯しすぎて全体的に生地が伸びてしまっている。とてもじゃないが他人様に自慢できるコンディションのものではない。いつ捨てようか、と思いつつそのまま引き出しの中にずっと入っていたパンツだった。
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愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。