猫好きのみなさまお待ちかね! 石黒由紀子さんの『猫は、うれしかったことしか覚えていない』と、山田かおりさんの『猫には嫌なところがまったくない』が、文庫になりました!(やったー! にゃーにゃー!)発売を記念して、勝手に「幻冬舎ねこ文庫」特集をお送りしています。今回からしばらく『猫は、うれしかったことしか覚えていない』の試し読みをお届けします。
猫は、当たり前に忘れる
子猫だった頃のコウハイは、よくキッチンの調理台の上にいました。そのたびに「ここはだめだよ」と下ろしていましたが、気がつくとシンクの中に入っていたり。
コンロの脇でぼんやりしているときは「何待ち?」と声をかけて笑っていました。 あるとき、コウハイのヒゲの先が焼けたようにチリチリ縮れているのを見つけました。きっと火がついたコンロを覗いたときに焼けたのでしょう。私は「これはもっと 気をつけておかないと危ないなぁ」と思いながら、ヒゲの縮れた部分をはさみでチョンと切りました。
このことを猫好きな友人に話したら、少し驚いたような顔で「それでコウハイは何でもなかったの?」「うん。やけどはしてなかったよ」と私。
生まれたときから猫と 暮らしているという彼女は、何だか複雑な表情を浮かべ私にこう言いました。
「ヒゲって、猫にとってけっこう大切なものなんだよ。アンテナのような働きをして、 狭いところもヒゲの長さで通れるかを判断したり、風の流れを察知したり。だから、 大切なヒゲを切られて、コウハイはダメージがあったと思うよ」
「へぇ、そうなんだ! 知らなかったよー。コウハイに悪いことしちゃった」と私は 反省しました。
それ以来、猫のヒゲには気を配っている(つもりの)私なのですが、ヒゲを切られたコウハイはまったく気にする様子もなく、いつも通りに過ごしています。先日もキッチンにやってきて、コンロの横に陣取って……。コウハイにとって「ヒゲを切られて平衡感覚が違っちゃった」なんてことはないのでしょうか。
やはり、猫って、忘れる動物? 何かに熱中すると(この場合はコンロへの好奇心)、あと先のことなど気にしないのですね。
幻冬舎ねこ文庫?発売記念特集
猫と暮らせば毎日がちょっと幸せになる。
猫と生きれば人生がとっても楽しくなる。
猫すきさんも、そうでない人も。
読んだら心がふわふわ柔らかくなる、幻冬舎ねこ文庫の特集です。