猫好きのみなさまお待ちかね! 石黒由紀子さんの『猫は、うれしかったことしか覚えていない』と、山田かおりさんの『猫には嫌なところがまったくない』が、文庫になりました!(やったー! にゃーにゃー!)発売を記念して、勝手に「幻冬舎ねこ文庫」特集をお送りしています。今回は『猫は、うれしかったことしか覚えていない』の試し読みをお届けします。
猫は、ときを悟る
13歳のクーラが寝たきりになって2日。数ヶ月前からの闘病生活で、6キロあった三毛柄の大きな身体も、今ではその半分くらい。もう水を飲むことも、食べることも、 立ち上がることさえできなくなっていました。
「今まで、生きることをあきらめたことはなかったけれど、わたしの命はもう少しで 終わる」
クーラはそう予感していたようです。そして、さっきやっとの思いでトイレ に行ったときに、予感は確信に。
「ほんのすぐそこまで歩くのもこんなにつらいのだから、これは“もう無理にがんば らなくてもいいよ”ということなのではないかしら」
そして「飼い主を置いていくのは気がかりだけど、彼女の人生の大変なときに一緒 にいられたのだから思い残すことはない……」そう、覚悟を決めたのです。
翌朝6時。目覚まし時計が鳴り、飼い主が目を覚ますのを待って「ニャー、ニャー、 ニャー!」と3度鳴いたクーラ、これが合図でした。
「わたし、行くわよ! 元気でいてね!」
このとき、クーラの飼い主は引っ越しを控えていました。長年営んだカフェをいっ たん閉めて、海辺の街にある実家に戻ることになっていたのです。
閉店を惜しむ人たちが訪れ、カフェは忙しく連日バタバタ。その最終日前にあった 唯一の休日の朝に、クーラは旅立ちました。その日、そのときを選んで、ちゃんと遂 行したとしか思えないタイミングは見事。
犬や猫は人より寿命が短く、別れは避けられないこと。いつか必ずやってきます。「行き先は別々だけど、お互いに新しい世界に出発しましょう!」それが飼い主へ、 クーラからのメッセージ。女王さま気質でプライドが高く、そして聡明だったクーラ らしい、潔さでした。
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幻冬舎ねこ文庫?発売記念特集
猫と暮らせば毎日がちょっと幸せになる。
猫と生きれば人生がとっても楽しくなる。
猫すきさんも、そうでない人も。
読んだら心がふわふわ柔らかくなる、幻冬舎ねこ文庫の特集です。