「温泉オタク会社員」こと永井千晴さん(@onsen_nagachi)の初めての本が発売になりました。その名も『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』! 訪れた温泉は約500湯。暇さえあればひとりで温泉を巡りまくっている永井さんによる温泉旅が100倍楽しくなる本書から、少しずつTIPSをご紹介していきます。
個性がわかりやすくて、圧倒的で、強烈な温泉が大好きです。とくに「くさい」温泉はたまりません。においのきつい温泉に浸かり、その後首筋からずっとそのにおいがしていると、嬉しくてにやにやしてしまいます。温泉旅行から帰って、夫から「すごい硫黄っぽいにおいがする」といわれると、「えへへ、そうでしょう」なんて気分です。温泉好きは共感してくれるのではないでしょうか。
私が「ヤバい」と思った初めての温泉は、塚原温泉「火口乃泉」(大分)でした。訪れたことのある方から「浸かったら、むしろ具合が悪くなるのではと一瞬思うほどの個性」と聞き、意気揚々と向かったところ、まさに! と膝を打つ強烈な温泉でした(具合は悪くなりません)。焼けた岩肌の、そこここから煙が上がる山中に位置する塚原温泉は、高級温泉地・湯布院のすぐ近く。日本三大薬湯のひとつで、日本で二番目に酸性の強い温泉です(一位は秋田県の玉川温泉。玉川も超強烈です)。鉄イオンの含有量は日本一で、とにかく酸っぱくて鉄くさくて、びりりと刺激があります。レモン果汁のような黄色い温泉で、浴感はパリッパリ。塚原温泉に浸かって以来、酸性の温泉も大好きになりました。施設は清潔で案内もわかりやすく、初心者も挑戦しやすい「ヤバ湯」だと思います。
天下の名湯、有馬温泉(兵庫)も、かなりの個性を持っています。温泉成分の濃度は日本一で、塩分は海水の三倍。マッチョでパワフルな有馬の湯は「金泉」と呼ばれていて、まさに黄金色に輝く温泉なのです(実際に私が初めて浸かったときの印象は、「おみそしるみたいな色」でしたが……)。中でも旅館「上大坊」は、ほかの施設がおみそしる色と表現するとしたら、ここはもう一段濃い赤だし色。濃厚レベルが振り切っていて、タオルも一瞬にして染まります。明らかに肌にまとわりつく色が違うのです。塩気がすごくて湯上がりは汗だらっだら。あのパワー系温泉は、何年経っても忘れられません。
白く濁った温泉以外にも、魅力的な色湯はあります。山奥に建つ「国見温泉石塚旅館」(岩手)は、ビビッドなグリーンの湯がひたひたに満ちています。一見、入浴剤のような鮮やかさですが、もちろん天然のもの。泥状の湯の花が湯底に溜まっていて、硫黄のにおいも濃厚で絶品。つるやかな肌触りが気持ちよいです。登山客に愛される神秘的な秘湯でした。
灰色の温泉もたまりません。登別温泉(北海道)には、灰色に濁った硫黄のにおいたっぷりなしっとり湯がこんこんと湧いています。白濁も美しいですが、灰色もまた力強くて魅力的でした。また他にも、燕温泉(新潟)の「温泉宿花文」は、消しゴムのカス(というと、途端に情緒がなくなりますが)のような黒~灰色の湯の花がドバドバと流れていて、温泉もほんのりグレーに濁っていて、圧巻。燕温泉の野天「河原の湯」「黄金の湯」は紅葉露天スポットとしても親しまれており、自然に囲まれたすばらしい温泉地です。ちなみに、燕温泉は妙高高原を登って辿り着くのですが、道中にある関温泉には鉄分いっぱいの赤い温泉が湧いています。
温泉のにおいの種類でいえば、硫黄以外もさまざまです。草のにおい、土のにおい、鉄のにおい、酸のにおい、ダシのにおい等々、新鮮な湯であればあるほど、鼻を近づけると「おっ」と驚くようなにおいがすることも。中でもヤバくて大好きなのが、ガソリンのようなにおいのする温泉です。石油臭、アブラ臭とも表現されますが、まさにガソリンスタンドを彷彿とさせるそのにおいは、希少で超個性的。しかも脳がバグるのは、「アブラっぽいぬるぬるの浴感ではない」んですよね、大体。どうやったらこんな湯が湧いてくるんでしょう……。豊富温泉「川島旅館」(北海道)は、自慢の「オイルバス」がさまざまなメディアで注目されています。「あすなろ温泉旅館」(青森)や新津温泉(新潟)も、すばらしいにおいでした。
女ひとり温泉をサイコーにする53の方法
「温泉オタク」会社員による温泉偏愛エッセイ
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