「終身雇用は崩壊した」と言われて久しい今、60歳を過ぎても会社から必要とされるのはどんな人なのでしょうか。キヤノン電子の代表取締役社長・坂巻久さん著『60歳から会社に残れる人、残ってほしい人』より、中高年からの働き方・生き方のコツをご紹介します。
仕事も雑用もこなしてこそ上司
今の時代、60代、70代になっても働き続ける人は珍しくはありません。数十年前であれば60歳で定年を迎えたなら、会社を退職して、年金をもらいながら悠々自適の生活を選ぶ人もいましたが、最近では年金の受給年齢の関係だけでなく、定年延長や再雇用といった定年後も働くことのできる環境が整いつつあることもあり、定年を迎えても働くことが当たり前のようになっています。
よく聞かれるのが「定年後も会社に残ってほしい人はどういう人ですか?」という質問です。私なりにいくつかの条件は持っていますが、そのうちの一つに「出世しても雑用ができる人」、あるいは「自分で何でもできる人」というのがあります。特に大企業の管理職に顕著なのですが、出世をすると、雑用の一切を部下に任せてしまう人がいます。部下が増えたり、役職によっては秘書などがついてすべてをやってくれるということでしょうが、これはよくないと思っています。
自分が役員や管理職だからといって、自分でやればすぐに終わるような雑用もすべて部下を頼るのは、いかにも偉そうな振る舞いであり、はたから見ていてみっともないものです。
何でも部下や秘書がやってくれるというのが偉くなった証しだと思っているとしたら考え違いもはなはだしいとしかいいようがありません。
その点、私がキヤノン時代に仕えた上司は雑用をいとわない人がほとんどでした。社長時代の山路さんが海外出張をする時、「お供をしましょうか」と申し出たところ、こういわれてしまいました。
「何で来るの? カバン持ちだったら、いらないから」
「カバンを自分で持てなくなったら会社をやめる」というのが山路さんの美学でした。
山路さんはコピーもよほどの枚数でない限り、自分で取っていました。気を回して誰かが「私がコピーしましょう」といおうものなら、即座にこう返答されたものです。
「キヤノンのコピー機をつくったのは私ですよ。何であなたに頼まなきゃいけないんですか」
ここまでいわれては手の出しようがありません。会議用に大量のコピーが必要な時はともかく、ちょっとしたコピーであれば、社長自らコピーをするというのが山路さんの、そしてキヤノンの上司の姿でした。
このように私が仕えた上司のほとんどは自分でできることは安易に部下や秘書を頼ることなく、自分の手でやっていました。そんな風土の中で育ったので、私自身も講演や海外出張も一人で行くことが苦になりませんし、自分でできる雑用は自分ですませるようにしています。
こうした習慣の人は決して自分を偉いと勘違いすることはありませんし、いくつになっても「自分のことは自分でやる」ことができます。会社に「残ってほしい人」には一様にこうしたよき習慣があります。
家事を配偶者任せにはしない
たとえ偉くなっても会社での雑用をいとわない人は会社にとって「残ってほしい人」「雇いたい人」であるように、家庭での雑用をいとわないことも「よき家庭人」であり続けるために大切なことではないでしょうか。
夫婦で家事を分担するという話題が出た時、「私だって家事くらいやっていますよ」と自慢げにいう夫がいますが、よく聞くと、しているのはせいぜい「ゴミを捨てる」くらいということもあります。通勤のために家を出たついでにゴミを捨てるのはあくまでも「ついで」であり、とても家事をやっているなどとはいえません。
では、私はというと、朝は早く起きる習慣がありますから、洗濯機を早くから回して、洗濯物を干してから出勤します。そしてワイシャツなどのアイロンがけもすれば、洗濯物をたたんでタンスにしまうところまですべてやります。
もちろんこうしたことは妻もできますが、私も進んでやっています。シャツをたたんでタンスの引き出しにきちんとしまうために、自分で特製の型紙をつくって、それを使ってたためばぴったりしまうことができるという工夫などもして、家事を楽しんでいます。
「忙しくて本を読む暇もない」という人がいるように、家事に関しても「仕事が忙しくて家事なんか無理」という人も少なくありません。しかし、夫も工夫次第でいくらでも家事ができますし、妻と家事を分担することでお互いにストレスのない生活が送れます。
長年、家事を担ってきた妻に夫が簡単に勝てるはずもありませんが、洗濯にしても風呂掃除にしても、自分が苦痛でなければ、難しく考えずに進んでやってみればいいのです。
忘れてならないのは「仕事さえしていればほかのことはいい」と勘違いをしないことです。どんなに偉くなって仕事で成果を挙げたとしても、雑用のできない人では会社にとって「残ってほしい人」にはなり得ません。
同様に家庭でも「俺は仕事をしているんだから」と一切の家事をあたかも雑用であるかのように誤解して妻任せにしているようでは、決してよき家庭人とはなり得ませんし、妻にとってよきパートナーにはなり得ません。
どんなに偉くなっても、どんなに仕事が忙しくても、雑用や家事を粛々とできる人であり続ければ、たとえ退職しても、自分のやるべきことが見つけられるはずです。
60歳から会社に残れる人、残ってほしい人
「終身雇用は崩壊した」と言われて久しい今、60歳を過ぎても会社から必要とされるのはどんな人なのでしょうか。キヤノン電子の代表取締役社長・坂巻久さん著『60歳から会社に残れる人、残ってほしい人』より、中高年からの働き方・生き方のコツをご紹介します。