「終身雇用は崩壊した」と言われて久しい今、60歳を過ぎても会社から必要とされるのはどんな人なのでしょうか。キヤノン電子の代表取締役社長・坂巻久さん著『60歳から会社に残れる人、残ってほしい人』より、中高年からの働き方・生き方のコツをご紹介します。
書かれていることを鵜呑みにしない
私は幼い頃から読書が好きで、これまでにたくさんの本を読んできました。そして今もたくさんの本を読み続けています。
私と同様に本を読むことが好きで、勉強が大好きな人はたくさんいますが、学者ならともかく、企業の現場で戦う人間であれば、本を読むことで身につけた「知識」を「知恵」に変える「知恵テク」も磨くことを忘れてはなりません。
「発明王」トーマス・エジソンは子ども時代に、ある街の図書館の本をすべて読んだといわれる伝説が残るほど本が大好きでした。「発明王」と呼ばれるようになってからも研究所には古今東西の本を集めた図書館を設けて、関連するすべての本を読んでから研究に取りかかったともいわれています。
まさに「本の虫」ですが、エジソンの特徴は本を読むだけではなく、子どもの頃からその本に載っている実験などを可能な限り自分の手で行ってみて、書かれていることが正しいかどうかを自分の目で確認したところにあります。
たいていの人は本を読み、そこに書かれていることを「ああ、そうか」と鵜呑みにしますが、エジソンの場合は間に「やってみる」が入ったことで本から得る知識が「知恵」に変わり、その結果が生涯に1000を超える特許につながったのです。
本が好きで、勉強に長けた人の中にはたくさんの知識を持ち、たとえばMBA(経営学修士)の資格なども持つエリートと呼ばれる人がいます。しかし、優れたコンサルタントがよその会社の「評価」はできても、実際の「経営」ができないように、知識が単なる知識でしかない頭でっかちのエリートたちは、問題点を指摘することには長けていても、「じゃあ、お前がやってみろ」といわれると、何もできないことがよくあります。
銀行や証券の世界は分かりませんが、少なくとも製造業では、海外の有名ビジネススクールで得た高度な知識よりも、現場でたたき上げた工場長の人柄や経験、仕事を通して磨き抜かれた知恵のほうがずっと貴重なのです。
高学歴で周囲から頭脳明晰といわれるほどの人物が、海外の現地法人などを任されたもののうまくいかず、半年くらいで日本に呼び戻されることがよくあります。何が問題かというと、エリート意識が邪魔をするのか、現地のスタッフと軋轢が生じて、収拾がつかなくなるのです。
代わってその処理を任されるのは、たいていの場合、現場のたたき上げで、人望の厚い工場長タイプです。華々しい学歴や職歴こそありませんが、人間力に優れ、現場で磨き抜いた知恵を持っているだけに、相手が外国人であろうと、難しい現場であろうと、みんなの心をつかんで課題を処理していくことができるのです。
こうしたケースを見るたびに、結局、仕事の現場では知識が知識でしかない頭でっかちの人間よりも、仕事を通して知恵を磨き抜き、人間力を身につけた人間のほうがはるかに強いし、役に立つと思えます。
見て、聞いて、試す
知識というのは本を読むことでも、また、学校で勉強をすることでも、あるいは最近ではネットで検索するだけでも、たくさん得ることが可能です。若い人の中にはネットでパパッと調べて、「その件は知っています」と分かった気になる人が少なくありません。
しかし、その程度の知識で戦えるほど企業は甘いものではありません。ネットを見て、「知った気になる」のではなく、本を読むことが必要ですし、読んで身につけた知識をさらに「試す」とか、「やってみる」ことで「知恵」へと変えていくことが何より大切なのです。
ホンダの創業者・本田宗一郎氏が「われわれの知恵は見たり聞いたり試したりの3つの知恵で大体できている」として、こう話しています。
「見たり聞いたりなんてものは迫力もないし、人に訴える力もないと思う。試したという知恵、これが人を感動させ、しかも自分の本当の身になる、血となり肉となる知恵だと思う」
いかにも実践派の本田氏らしい言葉ですが、たしかに知識が知恵に変わるためには、単に「読む」とか「聞く」だけではなく、間に「自分の目で見る」や「自分でやってみる」が入ることが必要なのです。
60歳から会社に残れる人、残ってほしい人
「終身雇用は崩壊した」と言われて久しい今、60歳を過ぎても会社から必要とされるのはどんな人なのでしょうか。キヤノン電子の代表取締役社長・坂巻久さん著『60歳から会社に残れる人、残ってほしい人』より、中高年からの働き方・生き方のコツをご紹介します。