小説『桜木杏、俳句はじめてみました』が「ドラマWスペシャル あんのリリック–桜木杏、俳句はじめてみました–」として、ドラマ化された俳人・堀本裕樹さんに、小説に込めた思い、ドラマ化の感想などを伺いました。
――この小説を書こうと思ったきっかけを教えてください。
世の中には俳句入門書ってたくさんあるんですが、自分が書く上では一つ工夫したいなと思いました。最初から季語や切字、定型など難しい話から入るのではなくて、物語の中で自然に俳句のいろはを伝えられたらいいな、というのが小説仕立てにするきっかけでした。
この本は句会の場面が中心になっていますけど、物語にすると句会の流れがリアルに伝わって、句会とはどういうものかが読者に伝わるのではないかと思いました。物語に載せることで、「俳句って面白そうだな」「句会も楽しそう。参加してみたい」と、読んだ方に思ってもらえたらという気持ちで書きました。
――その小説がドラマ化されました。
すごくびっくりしましたね。最初に聞いた時はほぼ原作どおりにいくのかなと思っていたんですが、そこにラップという要素が入ってくるというのをお聞きして、そこでもまたびっくりしました。
最初、原作にラップが加わることを自分なりにどう受け止めていいのかわからない部分がありましたけれど、脚本化されたものを見せていただくに従って、こういう風に俳句とラップというものが掛け合わさって、ドラマ化されるんだということが納得できました。僕も脚本化されたドラマとして、こうやって新しい形で新鮮な気持ちで見られるんだな、とても面白い試みだなと期待が高まっています。
――ラップと俳句、似通っているところがあると思いますか?
僕もフリースタイルダンジョンなど時たま見ていたので、ラップって面白いなと思っていました。韻の踏み方など俳句に似通っているところがあると、僕自身、この話を伺う前から感じていました。僕は大学で授業をしているんですけれど、教える時に、「俳句っていうのはラップと似ているんだよ」ということを学生たちに言っていたんです。それで、ラップ的な韻を踏むような俳句を作ってみようかって学生たちに提案しました。そして授業内で即興で作ってもらいました。できた人からその場で、五七五の俳句をラップ調に詠み上げてもらったら、とても盛り上がったんです。だから、俳句×ラップっていうのは、僕の中では、「アリだな」と思いました。
――主人公・杏を広瀬すずさんが演じるということについては。
それも3度目のびっくりでしたね。広瀬すずさんは桜木杏にイメージがぴったりでした。実際ドラマの撮影現場に2回うかがいましたが、もう杏にしか見えない感じでしたね。それぐらいはまり役だなって思いました。まだ完成したものは見ていないけど、姿形も、話し方も、見事にはまってるなと。キャスティングの素晴らしさと、広瀬さんの演技力のたまものだと思います。
同時に宮沢氷魚さんが昴というのもすごくぴったりだなと、思ったんです。これは氷魚さんにも伝えましたけど、僕は宮沢和史さんの大ファンでご縁もあって、そういう意味で息子さんの氷魚さんが昴を演じてくれるっていうのは、本当に嬉しくて驚きましたね。
――ドラマの中の俳句を監修されたそうですね。
はい、ドラマの中で使用する俳句は、原作の中の作品がそのままドラマに生かされてるのもあるし、同時にドラマのために作った新作の俳句もあります。新作はもちろん僕も作っているけれども、僕が主宰している俳句結社「蒼海」の会員にもご協力いただいて、それぞれ振り分ける形で作ってもらいました。そんな俳句へのこだわりがこのドラマのキャラクターに生かされてます。僕一人でいろんなキャラクターの俳句を作り分けるのはたいへんなので、手分けして俳句を作れたのはほんとうに助かったし、ありがたかったですね。
――キャストの皆さんと句会をされたそうですが、いかがでしたか。
広瀬さん宮沢さん安藤ニコさん、そこにスタッフの方も加わって、僕が先生役で模擬句会を行いました。みんな句会が初めてだったので、最初ちょっと緊張感があったのですが、進んでいくうちにほぐれていきましたね。特に、それぞれが選評をしていく場面になって、だんだんみんなに笑顔が出てきました。選んだ句に対して自由に想像しながら生き生きと感想を述べてくれましたね。それからこれはどういう句ですかと作者に聞いた時にも、丁寧に嬉しそうに語ってくれたので、そこで「ああ、こういう句だったのか!」と盛り上がりましたね。
――広瀬さんはご自分が作った「夜食とる先取り臨月甘い声」の句が、誰にも分かってもらえなくて残念、とおっしゃってました。
それが句会なんですよね。その模擬句会の場でも言いましたけど、僕は指導者として句会に出ることが多いんですけど、そんな指導句会でも先生の僕の句が一点も入らないっていうことは結構あるんですよ、と。「先生なのに選ばれないの?」「それは結構きつい状況ですね」って思う人もいるかもしれないけど、全然そうじゃないんです。句会はそもそも無記名の作品を選句するということもありますが、誰にも選ばれないっていうのは先生だって生徒にだって誰にでもあることなんですね。
広瀬さんの句は面白い句ですよね。発想がユニークで、今回のドラマの桜木杏というキャラクターにも当てはまる部分があると思います。人とコミュニケーションをとるのは苦手なところがあるけど、言葉に対しては貪欲で新しいことを目指していく桜木杏のキャラを考えると、「先取り臨月」っていう言葉は、広瀬さんらしくもあり、杏らしくもあると感じました。
――「言葉」を扱うドラマとして、「言葉って自由すぎても活きません」というセリフが印象的でした。
言葉そのものは自由であっていいんですけど、俳句を作る場合は縛りがあるからこそ自由なんだと。五七五の十七音、そして季語を入れる縛りがあるからこそ、枠の中で自由を求めていける感覚があると思うんです。十七音の定型のなかで自由を求めて格闘するのが、俳句作りの醍醐味かもしれませんね。
――監督はこのドラマを作るにあたって「優しい」作品にしたいおっしゃったそうです。
それは、監督がいい道標を示してくださいました。僕もこの原作を作るにあたって、やっぱりベースに「優しさ」っていうのがありました。それはお読みいただけたらわかると思うんですが。そこを監督が感じ取ってくれたのが僕としても本当に嬉しいし、ありがたいですね。
――ドラマを通じて皆さんに伝えたいことをお願いします。
ドラマを見るにあたって、初めて句会に触れるという人がいると思うんです。なかなかドラマで句会の場面ってあんまりないと思いますが、それがドラマで再現されるのは貴重なことだと思います。句会ってこういうふうに行って、こんな流れなんだというのをぜひ感じ取っていただきたいですね。そして句会の楽しさや俳句鑑賞の自由さや豊かなことを知っていただきたいですね。
ドラマに刺激を受けて、俳句の本を手に取ったり、自分でも一句作ってみようかなと思ってくれたら嬉しいですね。そして、一句作ったら、じゃあちょっと思い切って句会にも参加してみようかなと思ってくれたら、僕としてはほんとうに嬉しいですね。
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