猫好きのみなさまお待ちかね! 石黒由紀子さんの『猫は、うれしかったことしか覚えていない』と、山田かおりさんの『猫には嫌なところがまったくない』が、文庫になりました!(やったー! にゃーにゃー!)発売を記念して、勝手に「幻冬舎ねこ文庫」特集をお送りしています。今回は『猫は、うれしかったことしか覚えていない』の試し読みをお届けします。
猫は、人を心配する
ボクはキジトラ猫。3歳のタラちゃんです。うちには人間のおじいちゃんがいます。 歳だって。ボクより 年も長く生きてるの。 家族とはぐれて、ひとりぼっちになったボクを助けてくれたのは、この家のおかあさん。そのおかあさんのおとうさんが、おじいちゃん。 おじいちゃんは、ボクのことを気にしてくれているみたいだし、ボクもおじいちゃんと仲よくしたいけど、ほんとのことを言うと、おじいちゃんのことが苦手。 突然近づいてくるし、声も大きいから、驚いて逃げたくなってしまうのよ。 おじいちゃん、もう少し小さめの声で話しかけてくれたらいいのになぁ。頭をなでようとするときも、ゆっくり手を出してくれたらいいのに。そうしたら、もっと仲よ くできるのに。
そんなおじいちゃんが、交通事故に遭ったんだ。入院した病院へ、おかあさんは毎日通っていたよ。そして、何ヶ月か経って、おじいちゃんが外泊で家に帰ってきた。 いつもこたつにいるおじいちゃんは、腰を痛めていたから、畳に腰をおろすことが できなくて、新聞を読んだりテレビを見たりするとき、低めの椅子に座っていたよ。 あまり動けないから急に寄ってこなかったし、少し元気もなくて声も小さくなっていた。だから、前と違って、ボクは安心しておじいちゃんの隣にいられたよ。 何日かして、おじいちゃんは病院に戻りました。腰が治ってもリハビリがあるから、 退院はもう少し先になるんだって。「今度はいつ会えるかな」そんなことを考えなが ら、おじいちゃんが座っていた椅子で昼寝をしてみた。おじいちゃんの匂いがしたよ。
病院から帰ってきたおかあさんが、寝ていたボクを見てこう言った。「あら、タラちゃん、おじいちゃんの椅子で寝ているの? いつもは怖がって逃げてばかりいるのに、心配してくれてるんだね」 そうだよ。ボクはおじいちゃんのことが心配。でもね、ほんとは、おじいちゃんのことを心配しているおかあさんのことが心配なんだよ。おかあさんが元気がないと、 ボクも元気が出ないのよ。
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幻冬舎ねこ文庫?発売記念特集
猫と暮らせば毎日がちょっと幸せになる。
猫と生きれば人生がとっても楽しくなる。
猫すきさんも、そうでない人も。
読んだら心がふわふわ柔らかくなる、幻冬舎ねこ文庫の特集です。