欧米や他のアジア諸国と比較して、日本のデジタル分野での遅れは深刻です。コロナ禍でさらにその差は広がり、もはや日本は技術後進国だという声まで聞こえるようになりました。
発売即重版となった『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』(山本康正著、幻冬舎)ではこの現状に警鐘を鳴らしつつも、未曽有の危機が日本企業にとってチャンスにも転じることを説いています。デジタル時代を生き抜く人材になるための方策を収録した、本作の一部を紹介。記事の最後には、オンラインで開催する刊行記念イベントのご案内がありますので、こちらも合わせてご覧ください。
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デジタルがリアルを淘汰する
現代がデジタル時代であることに疑問を持つ人はいないでしょう。あらゆる企業にITの知識が求められ、IT企業と呼ばれる企業とその他の企業の間に、もはや垣根はありません。こうした背景もあって日本でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)が、ようやく進み始めました。
DXがかつてないほど日本企業に必要とされていて、経営陣に示唆があることと同時に対応できる人材を育てることは私たちにとって急務です。また自分の市場価値を高めたいと考える人たちにとっては、どうしたらこの取り組みを担う人材になれるのかは非常に関心の高いテーマだと思います。
日本でDXの概念が急速に普及したのはコロナの影響でした。ビジネスを水泳に例えると、より遠くまで速く泳ぐことが成功だといえます。そして、最先端のデジタル技術とは酸素ボンベ、コロナウイルスはそれを阻む障害です。目の前に突然コロナという水面すれすれの壁が現れました。酸素ボンベを持っていれば、深く潜って通り抜けることができますが、酸素ボンベを持っていない人はそこで止まることしかできません。
日本だけでなくアメリカでも多くのスーパーが、酸素ボンベを持っていなかったので息も絶え絶えになっていました。しかし小売の老舗であるウォルマートは十五年以上前から最新のデジタル技術を取り込み続けたので逆に売り上げが伸びました。それを多くの会社が見ていたものだから、いやが応にもDXを加速せざるを得ない、となったわけです。
本来なら二年ぐらいかけて起きることが、一気に進みました。数年前からネット通販などが少しずつ増えていましたが、それがコロナ禍で急加速したのです。
今後一年以内にコロナがどこまで収束するかにもよりますが、ビジネスは、ますますデジタル中心になることでしょう。今までは、リアルが主でデジタルが補完していたのが逆になります。デジタルが主でリアルが補完するのです。
今でもすでに、リアル店舗で実物をチェックしてからネット通販で買う人がたくさんいます。デジタル店舗が主で、リアル店舗は実物をチェックする場所に過ぎません。このようなことが今後、もっとあたりまえになっていきます。もちろんリアル店舗は主であり続けようとしますが、結局は消費者が望む方向に否応なしに進んでいくしかないのです。
DXは遅れた企業が使う言葉
DXには、企業から見て内側と外側があります。内側がこれまでのIT化の延長線上である働き方改革です。リモートオフィスが実現されていて、社員一人に専用のノートパソコンやスマートフォン(スマホ)があって、どこでも仕事ができる。ペーパーレスで、わざわざハンコを押すためだけに出社することを求められない。
外側がビジネスです。たとえばどうやって顧客から金を集めるか。売り切り方のビジネスからサブスクリプション(定額課金)に代わってきています。アマゾン(アマゾンプライム)やアップル(アップルワン)もサブスクリプションに切り替えています。そうした変化が今起きているわけです。シリコンバレーの先頭を走る彼らは常に新しいデジタル技術を活用しているので、DXという言葉は使いません。DXというのは遅れた企業が使う言葉なのです。
建築物に例えると、お寺の改修(内)と賽銭を時代に合わせた非接触のQRコードなどで貰う(外)と変えていくことに似ているかもしれません。歴史的な建築物を壊さずに拡張するほうが、更地に最新の素材の建築を作るより難しいのです。
アメリカのほうが日本よりも全般的にデジタル化が進んでいるのは、国土が広いからという面もあります。わざわざ通勤せず、リモートで仕事ができるならそれに越したことはないという企業が多いため、内側は以前からとても進んでいました。
グーグルなどは、ニューヨークやシリコンバレーなど様々な場所にオフィスがあり、しかも距離が遠い。それらが連携しながら仕事を進めないといけないので、ビデオ会議などはあたりまえでした。チャットで仕事を進めることやカレンダーの共有も必要不可欠なことです。ドキュメントやスプレッドシートをリモートで共同制作したいというニーズもありました。だからすべて自社開発してしまったのです。
外側のほうも、クルマを三十分以上運転しないとショッピングセンターに行けないという環境なので、ネット購入のほうがずっと楽です。新聞は、アメリカでは配達にコストがかかりすぎるのでとっくに廃れています。ニューヨークタイムズなどがいち早くデジタル化し、会員制にしました。IT企業に限らず普通の大企業も早くからデジタル化に取り組んでいたのです。
デジタル化に取り組めた背景にあるのは、ITエンジニアの分布です。大手コンサルティング企業のマッキンゼーによるレポート「マッキンゼー緊急提言」によると海外の企業が日本とまったく違うのは、社内にITエンジニアを抱えていることです。約七割のデジタル化を社内で担当し、残りの約三割がアウトソーシングだといわれています。アウトソーシング先は、インドなど海外です。
日本は逆で、ITエンジニアのほとんどを社外に頼っているので、なかなかDXが進みません。ここまでITを外注している国は日本ぐらいでしょう。
オンラインイベント5月24日開催!
本書の刊行を記念して5月24日(月)19時から山本康正さんのオンライントークイベントを行います。ベストセラー『世界標準の経営理論』などの著作がある早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄をお招きして、日本と世界のテクノロジーの現状や、とるべきビジネス戦略についてお二人にじっくり語っていただきます。
まだお申込みを受け付けておりますので、興味のある方は幻冬舎大学のページをご覧ください。
シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養
2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。ハーバード大学院理学修士、元米グーグル、元米金融機関勤務、現ベンチャー投資家の著者が、世界で活躍する8人の知見を紹介し、日本の執るべきビジネス戦略を探る。