投稿サイトnoteの人気連載『冷蔵庫にあるもんで REIZOKO NI ALMONDE』。こちらが一冊のレシピ本になりました。
私たちは、食べなければ生きていけません。
食事は、しなくてはならないもの。料理は、毎日、必要です。
しかし、コロナ禍だ、緊急事態宣言だ、3食作らなくちゃ……と、下手するとマイナスなことばかり頭をぐるぐるしがちな昨今。
でも、その「料理」こそ、大事にできたら。「料理の時間」を愛せたら。
and recipeのおふたりーー山田英季さんと小池花恵さんは、「自粛生活でしんどい思いをしている人が、ちょっとでも料理を通してリラックスできて楽しい気持ちになれますように」「なにかと曇りがちな日々に、お料理が笑顔のもとになってくれますように」という気持ちで、コロナ自粛中にこのレシピの連載をnoteで始められました。
この連載が始まってから、SNSでいろんな人が「このレシピで作ったら美味しかった」といコメントを上げるようになりました。その様子を見ていて、
このレシピを1冊の本にしたい。
と思ったわけです。
検索すれば、なんでも出てくる昨今で、本にする理由ってなんなのでしょう。
かわいい犬や猫の写真がネット上にはたくさんあって、見てるだけでも癒されますが、やっぱり、直接ぐりぐりもふもふわしゃわしゃしたいし、おなかに顔をうずめて思い切り吸い込みたい。
ネットで見るのではない、「レシピ本の理由」を考えたときに、
手元に置きたい。愛でたい。自分の中に取り込みたい。生活の一部にしたい。って言葉が浮かんできました。
極端なことを言えば、生活のパートナー、的な。
検索してネットで見られるものは「情報」ですが(もちろんその情報にたくさん助けられてるし、なくては困るのですが)、それをあえて本にしたとき、「情報だったもの」は、明らかな「存在」に変わります。
検索しなくても、そこにあるもの。ずっとあるもの。
ちなみに、本になって「存在に変わったな」、といちばん明らかに感じるのは写真です。
ネットで見る写真は、端末によって色合いや見え方がだいぶ違いますが、本は、必ず「この色」です。
「おいしい写真」を、ひとつの答えとしてお見せできるのって、レシピ本の良さなのかもしれません。
生活のパートナーになってくれるような、“愛おしい本”づくりをしなければ。
「いい子ね」「かわいいね」「よくがんばったね」「明日もよろしくね」と、毎日ぐりぐりもふもふわしゃわしゃしたくなるような、そんな本を!
家に残っているレシピ本を見てみると、何度も使って汚れたものが捨てられずに残っています。何度もぐりぐりわしゃわしゃされたレシピ本です。
レシピ本の汚れは、大事な本であることの証なのです。汚れるまで使ってもらえて、汚れても残してらえる本って何だろう……。
レシピである以上、使い勝手がよくないといけない。ストレスの少ない形で、でも、毎日見ても可愛く思えるデザインで。おいしく見えることも大事。日々料理したくなるようなラインナップも大事。見ているだけでも、生活がちょっと華やかに思える、あったかく思える、素敵なものに思えるように。
そうして、日々、キッチンで開いてもらえるように。開くのが楽しくなるように。
そこで、力を貸してくださったのが、デザイナーの名久井直子さんでした。
実は、and recipeと名久井さんは、もともとご縁があります。
and recipeの小池花恵さんは、写真家・幡野広志さんのマネージャーさんでもあるのですが、幡野さんの『なんで僕に聞くんだろう。』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。#なんで僕に聞くんだろう。』の装丁も、名久井さん。
ありがたいことに、名久井さんも、食べることやお料理が大好きでした。
名久井さんと私は、お料理の撮影をする日に、and recipeさんの事務所にお邪魔しました。
そこでは、山田さんが指示を出し、小池さんが料理をし、素敵な器に盛り付けると、山田さんが撮影。
小池さんの手で、手際よくできてくる料理は、見ただけでも美味しそうだし、山田さんが撮る写真はどれも、胸がキュンキュンする。(お腹もキュンキュンする!)
そして、撮影が済むと、その料理は、私たちがいるテーブルへと運ばれてきます。
いらっしゃい!待ってました!
――そして、それは。もう。言わずもがな。美味しい!
食いしんぼうで有名な熊さん写真家の幡野さんが、ネット連載時から、たびたびand recipeのレシピでお料理をしては、「僕でも作れた!」「今回も美味しかった!」と絶賛していたほどです。熊さんのお墨付きの美味しさなのです。
名久井さんと二人して、「いただきまーす」と「美味しーー!」を繰り返します。
私はといえば、いい匂いが充満し、じゅうじゅうという音が続く部屋の中で、ただただ幸せに浸り、食べ続けるだけです。
何か考えていたことがあるとすれば、これも美味しいから入れたいなあ! あ、あれも入れたい! こっちも入れたい! 全部入れたーい! あれぇ~そしたらページが増えすぎて困っちゃう~! くらいのだらしなさ。
一方で名久井さんは、食にまつわるおもしろエピソードを披露したりしています。(さすが、エピソードの引き出しが、ハンパない!)
ふと名久井さんの手元を見ると、ペンをとり、持ち込んだ資料の裏に、さらさらと何かを書きつけています。
ヤバい! 脳天とけてる場合じゃないぞ! と、思わず背筋がピンと伸びます。
見ると――。
落書きです。
本当にこれは……落書きです。
いや、落書きというより……ハサミまで使って……
なんですか、この完成度の高い落書きは!
『冷蔵庫にあるもんで』というタイトルに感化されたのでしょう。名久井さんの手から、紙の冷蔵庫が生まれていきました……。
しかし、この落書きで油断してはいけません!泣く子も踊る(⁉)名久井さんです!
このときすでに、名久井さんの頭の中には、レシピ本の設計が、着々と進んでいたのです。
キッチンで脇に置いて使う本だから、大きすぎるとちょっと邪魔になるよね。
立ったままレシピ本を見るから、結構距離があるので、文字は大きいほうがいいよね。
レシピ本を見ながら料理しているとき、上にカップ載せたりしないと、ページ閉じちゃうの、困るよね。
料理のタイトルと軽めの文章が、「冷蔵庫にあるもんで」の魅力だから、そこがちゃんと立つようにしたいよね。
そんなふうに話を始めると、
再びペンをとった名久井さんは、本当の落書き――ではなく、本当のメモをしていきます。
そこに書かれた装丁案、設計案が生かされてできたのが、この本です。
ページがパカッと開く設計は、コデックス装といいます。
ほかにもいろんな設計アイデアがありましたが、名久井さんが「どうしてもこれだけは!」とこだわっていたのがこちらでした。
背表紙がありません。綴じ糸も見えています。
そのおかげで、こんなふうに―ーパカッと開くのです。
料理の途中で、ページが閉じてしまう…ということがありません!
綴じ糸がせっかく見えるので、糸の色にもこだわってみました。
カバーと同じ水色です。このちらりと見えるところが!にくい!
もちろん、ページも読みやすい。この文字の大きさなら、老眼と近眼の両方で困ってる私でも、料理しながら普通に読める!ちなみに、最初のラフが名久井さんから届いたとき、「おお!縦書きできた!」と思いました。
個人的に、書体のセレクトが「名久井さん♬」で、テンションがあがります。
そして、カバーの加工は、このつるつるぴかぴか。
これも、キッチンで使うときに汚れにくいように、という名久井さんのご提案でした。
これが、たくさんの人のお手元に届きますように。
買ってくださったお宅で、汚れるまでがんがんに使ってもらえますように。
―ー担当編集 袖山満一子
冷蔵庫にあるもんで
たまねぎ、じゃがいも、さば缶、ベーコン……
今日は“あの食材"を、主役にしてあげよう。
「さて、何を作ろっか? 」を楽しくするレシピ91。
昔ながらの「肉じゃが」、ご飯釜が空になる「さば缶ふりかけ」、出汁パックで「梅だしにぎり」、夢の合体「ミートポリタン」、冷凍食材でも大丈夫「シーフードピラフ」、きんぴらを進化させた「ごぼうと人参のチヂミ」、中華&和で「ルーローしょうが焼き飯」、昼下がりのおつまみ「サラミと長ねぎのオーブン焼き」……おなじみの素材で、"家庭料理“から“ちょっとお店(カフェ)っぽい料理"まで。
背伸びをしなくても、食卓がスペシャルになる料理のアイデア、さしあげます。
《材料からメニューを選べる「材料さくいん」つき》