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ツレ&貂々のコドモ大人化プロジェクト

2012.05.15 公開 ポスト

その77

ゴールデンウィークは連休だ望月昭/細川貂々

  関西に移住して一年余。
 僕も相棒も親や親戚の大半が関東地方に居住している。もちろん、そこで僕らも人生の大半を過ごしてきたのだが。
 自分たちが動いてしまったことで、唐突に「帰省すべき場所」が登場してしまった。
 年末年始、お盆期間などに帰省している。
 さらに今回は初めて、「ゴールデンウィーク期間に帰省する」という、ありがちな行動を取ってしまった。
 もっとも、首都圏の多くの人口がその期間に各地方に散るという「帰省」とは逆の方向で移動したので、殺人的ラッシュに巻き込まれるとまではいかなかったが。それでも、確実にそういう人たちの集団もある。いつもの移動とは違う。そこそこの混雑具合。
 今年のゴールデンウィークは、4月27日が金曜日だったので、4月28日から5月6日までの9日間がそれに該当した。途中5月1日と5月2日が平日で、出勤、登校だった人もおられるようだったが。
 うちの場合も、息子の幼稚園が5月1日に遠足だったので、帰省は5月2日から6日までの5日間をそれにあてた。
 昨年のゴールデンウィークは、関東圏から関西に移動してフラフラ移動をしている最中だったし、どこからどこまでが休暇なのかもはっきりしなかった。それが今年は「幼稚園の休みの間だけ帰省しよう」である。息子頼みなわけだが、なんだかフリーターから社会人になったような、しっかりしたんだかキュウクツなんだかわからないが、ずいぶん気概が違うようでもある。

 この期間は四歳になって三カ月が過ぎた息子にとっても、また人生で新しい経験をいろいろとしたと思う。息子よ、新しい経験はどうだったのか? 成長したのか?
 以下、このゴールデンウィーク期間の息子の体験を列記してみよう。

 その一、幼稚園の遠足に行った。
 幼稚園の遠足は、年中クラスと年長クラスだけの参加だったので、息子だけでなく同じクラスのコたちは全員が春遠足は初体験だったのだ。しかし、よく確認してみたら昨年の秋に年少クラスは小規模の遠足を体験しているらしかった。でも今回のほうが歩く距離も長く、本格的なようだ。
 さて、遠足前日は大雨だった。ちなみに遠足の次の日も大雨だった。かなりお天気に恵まれなかった今年のゴールデンウィークの中で、遠足の当日だけは雨が降らず、かといって晴れ過ぎて熱中症の心配をするところまでも行かず、そういう意味ではまずまずの遠足日和だったのではないだろうか。
 園児たちは幼稚園に集合して、三キロくらい離れた市内の公園まで歩いて、そこでお弁当を食べて、また歩いて帰ってきた。遠足の隊列は身長順ということで、息子は最前列を歩いて行って帰ってきたようだ。
 お昼の解散時間に、幼稚園に迎えに行ったのだが、まだ隊列は帰ってきていなかった。でも、スマートフォン普及時代の遠足なので逐次現在位置の連絡が幼稚園に入り、保護者たちは地図を確認しながら「えーと、××町○○交差点ってことは、まだこんなところかぁ。これは、まだ二十分くらいかかるんやないかなあ」と雑談しながらのんびり戻りを待ったのだった。

 その二、懸垂式モノレールに乗る。
 帰省した際に、千葉市で「千葉都市モノレール」というものに乗った。このモノレールは、今まで息子が乗ったことのある「大阪モノレール」や「舞浜リゾートライン」がレールの上を走る「こざ式」であるのに対して、レールの下にぶらさがって走るという「懸垂式」モノレールだった。懸垂式だと、窓から下を眺めるとレールに遮られることがなくて眺めがいいという特徴があるのだが、残念ながらそこそこの混雑であり、窓の高さもコドモの視線が届かないような高さだったので、眺めを楽しむのには至らなかったようだ。
 そのうちチャンスがあれば、同じ懸垂式である「湘南モノレール」にトライしてみるのもいいかもしれない。今回のゴールデンウィークでは、息子は「東京モノレール」にも初めて乗ることができた。東京モノレールは僕の生まれた年にできた大ベテランモノレール。レールの上を走る「こざ式」である。

 その三、飛行機に乗る。
 今回、帰省の往路は新幹線「ひかり」を一カ月前に予約して、混雑する車両に乗って移動したが、なぜか戻りに飛行機を予約してしまった。なんとなく連休中の混雑も予想して、線で戻る新幹線でなく、ピンポイントで移動する飛行機のほうが楽なような気がしてしまったのだ。
 新幹線だと座席を確保できないものの、未就学児はタダで乗せることができるのだが、飛行機だとしっかり料金が取られる。そうはいっても大人より割安であるし、この混雑するゴールデンウィーク、席が確保できたほうがいいかなと思ったのだ。移動の時間も短いし……。
 ところが、移動の当日になってみたら思いのほか悪天候だった。使用機体が到着しないという理由で羽田空港からの出発がどんどん遅れる。飛行機に乗り込んでも強風の時間もあって、なかなか出発しない。さらにようやく飛び立ったものの、雲の上に抜けるまでに機体がとても揺れるし、国内線でも最短とも言える短い航路なので、雲の上に抜けるともう降下時間になってしまう。そして降下するときはエア・ポケットのようなところで何度も急に落下する。機体が地面に叩きつけられるのではないかと危惧し、気が気ではなかった。もっとも、家に着いてからニュースを見て知ったことだが、飛行機が飛び立った頃、関東ではあちこちで竜巻が発生し、家屋が損傷したり死傷者が出るなどの大惨事があったのだ。そのことを思えば、多少揺れたものの無事に着いたので文句を言えたものではないのだろうが。
 ともかく、僕個人の感想としては、移動の手段に選択肢がある場合は、あえて飛行機を選ぶことはもうしたくない。僕は、今までの人生で三桁に達するくらいの回数、飛行機に乗ったことがあるのだが、たぶんその中で一番恐怖にかられた飛行時間だった。
 さて、そんな飛行機に乗ってしまったのが、飛行機初体験の息子だったのだが、息子の様子はどうだったかというと、地上で長らく出発せず待たされているとき(このときかなり不安にさいなまれたようではある)コテッと寝てしまったのだった。そのまま、寝たまま離陸して、寝たまま大揺れして、寝たまま着陸した。機内では他のコドモたちが泣き叫ぶ声が飛び交っていたのだが、もちろん飛行機自体の騒音や、突風が機体をかすめる音、ゆさぶる音もすごかったので、「こりゃひどくやかましいな」と僕などは思っていたのだが、息子は逃避のあまり熟睡してしまったようである。
 なので息子の飛行機に乗った感想を訊くと「こわかった」とはいうものの、それは出発前のことだろうと思う。ほんとは、もっとずっとすごくひどく「こわかった」んだぞう。

 そんな「歩いた」「乗った」「揺れた」ゴールデンウィークが終わり、息子はまた宝塚に戻ってきて幼稚園に通い始めた。幼稚園もいよいよ午後の授業も開始となり、毎日お弁当を持参している。食べられるものがなかなか増えない息子ではあるが、先日は飲めなかったはずのオレンジジュースを飲んでいた。
 ゴールデンウィーク明けの息子、今の口癖は「じつはねえ……」というものである。
 何を言うにも「じつはねえ……」と前置きしてから言うのだが、取り立てて目新しいことを言うわけではなく、いままでウソをついていたわけでも隠していたわけでもなく「じつはねえ……」なので、聞いていると拍子抜けする。しかし、自分の話を聞いてもらいたいときに注意を促すセンテンスとしては、そこそこ効果的なのかもしれない。
 きっと、誰かの受け売りなんだろう。ときどき「じつはやねえ……」と、関西弁のようなそうでないような、関西弁だとするとかなりオッチャン臭い言い回しをしたりもする。

 さて、そんな息子であるが、五月の身体測定の結果は、身長94.5センチ、体重12.3キロである。体重は先月とまったく変わっていないのだが、じつはねえ、身長が1.5センチも伸びたんや。

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『ツレがうつになりまして。』で人気の漫画家の細川貂々さんとツレの望月昭さんのところに子どもが産まれました。望月さんは、うつ病の療養生活のころとは一転、日々が慌しくなってきたのです。40歳を過ぎて始まった男の子育て業をご覧ください。

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望月昭/細川貂々

望月 昭
1964年生まれ。幼少期をヨーロッパで過ごし、小学校入学時に帰国。セツ・モードセミナーで細川貂々と出会う。 卒業後、外資系IT企業で活躍するも、ある日突然うつになり、闘病生活に入る。2006年12月に寛解。現在は、家事、育児を一手に引き受ける。著書に『こんなツレでごめんなさい。』(文藝春秋)がある。

細川貂々
1969年生まれ。セツ・モードセミナー卒業後、漫画家、イラストレーターとして活動。夫のうつ闘病生活を描いた『ツレがうつになりまして。』がベストセラーに。結婚12年目にして妊娠が発覚。現在は、夫と息子、ペットのイグアナたちと同居中。その他の著書に『その後のツレがうつになりまして。』『イグアナの嫁』(共に小社刊)『どーすんの?私』『びっくり妊娠なんとか出産』(共に小学館)など多数。

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