ネット上にあふれる、さまざまな医療情報。ついググってしまいがちですが、その中身は玉石混淆なのが実情です。そこでオススメしたいのが、現役医師の「けいゆう先生」こと、山本健人さんが上梓した『医者が教える正しい病院のかかり方』。ちょっとした風邪から、がん、薬の飲み方まで、お医者さんに聞きたくても聞けなかった情報が詰まっています。中身を一部、抜粋してご紹介しましょう。
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余命とは「中央値」のこと
「余命○カ月」という言葉をよく聞くと思いますが、これはそもそも、「その方が○カ月後に亡くなる可能性が最も高い」という意味ではありません。実際、「余命6カ月」という告知を受けた方が1年生きることもあれば、3カ月で亡くなってしまうこともあります。どんな名医であっても、患者さんが亡くなるまでの期間を正確に予想することはできません。
では逆に、すべての人に対して「余命はまったくもって想像すらできない」とするのは、それはそれで正確ではありません。なぜなら、同じ病気で同じ進行度の人を何百人、何千人と集めた過去のデータを集計すれば、「ある程度の目安」は分かってくるからです。
実は、こうした過去の生存期間のデータをもとに導きだされた数字である「生存期間中央値」を、「余命」と呼んでいるのが一般的です。
生存期間中央値とは、ある病気の人が生きられた期間をすべて集計し、長い順番に並べたとき、ちょうど真ん中に来る人の生存期間のことです。
たとえば、中学校の一学年の学力テストの成績を良い順に並べたとき、真ん中に来た生徒の得点が「中央値」です。実際には、中央値より良い点を取る人も、悪い点を取る人もたくさんいますね。それと同じように、生存期間中央値より長く生きる人もいれば、短くしか生きられない人もたくさんいます。あくまで「中央値」は目安にすぎません。
「余命」は、過去のデータから統計学的に導きだされた「傾向」にすぎないということです。
余命の定義を十分に理解していない患者さんに、十分な説明なしに余命だけを告知することは、患者さんやそのご家族を惑わせ、大きな精神的負担を背負わせることになります。シンプルに「余命6カ月です」と伝えたことで、患者さんは大きなショックを受け、「どうせ6カ月の命なら治療を受ける意味がない」と治療意欲を失ってしまうかもしれません。
逆に、余命告知に反して1年、2年と長く生きられたとしたら、6カ月を超えた時点から「近々自分に死が訪れるかもしれない」という恐怖と戦い続け、精神をすり減らすかもしれません。
医師は余命を尋ねられたとき、このことを十分に考慮したうえで、生存期間中央値の定義を患者さんが理解できる言葉で丁寧に伝える必要があります。
余命よりも知っておくべきこと
一方、患者さんが最も知っておかなくてはならないことは、「余命」というシンプルな数字ではなく、「その後の具体的な治療プランと予想される病状の変化」です。
たとえば、進行した大腸がんだと診断された方が抗がん剤治療を始めるなら、
・この治療はどうなるまで続けるのか? どうなったら中止するのか?
・この治療が効かなくなったら、次にどういう治療に切り替えるのか?
・どのくらいの治療選択肢があり、現在使用可能な治療がすべて効かなくなったとき、次に何を行うのか? どんな事態が自分に訪れるのか?
といったことを理解しておくことが大切です。
医師と患者さんとの間で、病状の変化や治療への反応性に応じて、その都度将来のプランを微修正していくことが大切なのです。
ただし、例外として、死期がまさにすぐそばに迫ったときは、比較的正確に、狭い範囲で「死までの時間」を推測することが可能になります。
たとえば私たちは、死期が迫った患者さんの状態が非常に悪くなったとき、「あと数日、あるいは1週間といった単位の短期間で亡くなるかもしれない」というお話を、患者さんやご家族にすることがあります。
がんに限らずどんな病気であっても、命の危機に瀕し、かつそれに対して生きる期間を延ばす有効な手立てがない、あるいは生きる期間を延ばすための治療を行っていない、という場合での、日単位の余命はある程度正確です。
医師が「あと数日で亡くなる可能性が高い」と判断した患者さんが、1カ月、2カ月と長く生きることは、可能性としてはかなり低いと言えます。
こうした場面で用いる「余命(予後)」という概念は、病気が発覚したばかりの時点で(まだ元気なうちに)用いる「生存期間中央値」とは意味合いが違うということを知っておかねばなりません。
ご家族にとっては辛い現実だと思いますが、患者さんの死期が迫っていることを理解し、心の準備をするとともに、「いつ死のお知らせがあって病院から呼ばれてもおかしくない」という「体の準備」も必要になります。このときに限っては、「余命は当てにならない」と考えることが適切でない場面です。
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