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消費税は上げなくてよいか?
「国語ではなく算数で」考えるということは、「数字・ファクト・ロジック」で考える、と言い換えることもできます。物事を考えるにあたっては、「数字・ファクト・ロジック」の三要素を踏まえないと、詰めが甘くなります。
たとえば、「税金の無駄遣いをなくせば消費税を上げなくてもすむ」という意見があります。一見理屈としては成り立っているように見えますが、問題はそれが現実的に可能かどうかです。
簡単な計算をしてみましょう。日本の国家予算(二〇一五年度)のうち社会保障関係費は約三二兆円で、これが最大の歳出項目になっています。二番目が公共事業費の約六兆円です。その次が文教費の五兆円強。さらにその次が防衛費の五兆円弱です。
実支出として大きな項目はこれぐらいで、そのほかの支出が全部合わせて約一〇兆円あります。このほかに地方交付税交付金等が約一六兆円、国債の償還・利払いに約二三兆円がかかっています。歳出の合計は約九六兆円です。
これに対して税収は約五五兆円なので、その差は約四一兆円もあります。これが増税や国債の発行によって埋めなくてはいけない金額です。
そこで、無駄を省けという主張を「数字・ファクト・ロジック」で具体的に考えてみましょう。
現実的に考えることが重要
まず社会保障関係費の三二兆円をいますぐにいくら削れるかと言えば、これは削ってもせいぜい一割前後(マイナス三・二兆円)がいいところでしょう。社会保障は、社会的に弱い立場にある人たちのセーフティネットですから、削り方がとても難しい。子育ての給付を増やすべきだという主張もあります。
次に公共事業費を二割削るとしましょうか(マイナス一・二兆円)。文教費、防衛費はおそらく無理でしょうがあえて一割カットすれば、合わせてマイナス一兆円。その他の支出にも「大ナタ」を振るって二割カットで、マイナス二兆円。国債費と地方交付税交付金等は性質上削れませんから、これだけ思い切った削減を行ったとしても、「税金の無駄」は合わせて七・四兆円程度にとどまります。
税収と予算の差は約四一兆円なので、残念ながら「消費税を上げなくてもすむ」には程遠い金額です。
このように「数字・ファクト・ロジック」で具体的に考えていけば、「税金の無駄遣いをなくせば消費税を上げなくてもすむ」という命題は、まったく非現実的な主張であることがよく分かります。
現在、社会保障関係費は社会の高齢化に伴って毎年一兆~二兆円ずつ増えています。税金の無駄遣いをなくすべきだという理屈自体は正しいし、実行していくべきではありますが、それで増税を回避できるかと言えば、それはたんなる夢物語です。わが国の財政は節約だけではもうどうにもならない段階にきているというファクトを冷厳に見定めることが必要です。
「国語」だけでは真の解は得られません。あらゆる問題は「算数」つまり「数字・ファクト・ロジック」によって検証されなければならないのです。