いま私たちに本当に必要な勉強とは? この問いに、もっとも明快に答えてくれる人物のひとりが、60歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家で、ビジネス界きっての読書家でもある、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんです。その出口さんの代表的ベストセラー、『人生を面白くする本物の教養』から、読みどころをご紹介する「出口塾」を開講します!
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「持ち家志向」はもう古い
お金に関しては、公的年金と並んでもう一つ、身につけておかなくてはならない重要な知識があります。それは住宅ローンについてです。
日本では、住宅の取得が人生の目的のようになっています。「一生の買い物」として持ち家志向がとても強いのです。そのため、35年ローンや二世代ローンといった住宅ローンがつくられ、市民の家計において大きなウエイトを占めています。35年もの超長期の住宅ローンが大々的に売られているのは世界でも日本だけではないでしょうか。
35年や二世代の超長期の住宅ローンは、成長神話を引きずったモデルです。戦後の日本は、先にもお話ししたように、30年、40年にわたり平均7%程度の実質成長が続き、給与が増え続けるという特別な(幸運な)時代でした。
しかし、21世紀の現実はそうではありません。この20年間で見ても、世帯の所得は間違いなく低下傾向をたどっています。住宅ローンは原則として月々決まった金額を返済する仕組みですから、所得が下がり続ければどこかで破綻する恐れが出てきます。
そもそも超長期の住宅ローンは、「いまは少し苦しくても、先々給与が上がればきっと楽になる」という図式のもとで初めて成り立つ金融商品です。「超長期」の間ずっと所得が安泰でかつ上昇することが暗黙の了解となっているのです。しかしいまやそんな保証はどこにもありません。明らかに時代とミスマッチを起こしています。
一生賃貸でもかまわない
諸外国では日本ほど住宅取得に目の色を変えません。一生賃貸という人もたくさんいて、住居費の概念そのものが違うと言われています。
彼らは住居費を文字通り、住むためにかかる費用としてとらえています。だから、死ぬまで家を借りる権利があれば、それでいいのです。対して日本では、住居費と言いつつも、半ば資産づくりの概念に変貌しています。持ち家として、子どもたちに残す資産にするための費用です。
高度成長が続いていた間は、不動産も値上がりし、資産指向がある程度実を結びましたが、低成長の時代に突入した結果、多くの不動産は値下がりしてしまい、資産づくりという面でも時代と合わなくなっています。バブルの前後に不動産を取得した人は、購入時の半値や三分の一以下といったレベルに不動産価値が激減し、臍(ほぞ)をかんでいるはずです。
いや、いまでもそうです。たとえば、3000万円のマンションを買ったとすると、その価格の2、3割は業者が販売管理費として懐に入れるので、買ったばかりでも二千数百万円の価値しかありません。加えて、年々評価額が下落していった日には資産になりようがありません。
一方、ローンのほうは、もし金利1.5%で、3000万円丸々、35年ローンを組んでいたら、総額4000万円近くを返済しなければなりません(全期間固定金利だと総額で3858万円)。現在は、住宅ローン金利がかなり低水準にありますが、それでも長期の借金である以上、損得勘定は合いません。
いま、日本には空き家が800万戸以上もあります。すでに住宅はダブついているのです。人口が減少しているのでロジカルに考えたら空き家は増加が、不動産価額は下落が基調となるはずです。
よく不動産屋さんが「家賃をいくら払っても不動産はあなたのものにはなりませんが、買えばあなたのものになりますよ(元が取れますよ)」といったセールストークを語りますが、それには「ただし、不動産価額が上昇すれば」という条件がつくのではないでしょうか。