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日本野球よ、それは間違っている!

2021.02.27 公開 ポスト

【プロ野球キャンプ総括】真剣度でソフトバンクに完敗の巨人広岡達朗

2月28日の練習試合を最後に、今年もプロ野球のキャンプが終わる。これから1か月のオープン戦(練習試合)を経て、3月26日にはペナントレースの開幕だ。

キャンプ開始から2週間後の2月14日までにほとんどのチームが練習試合を始めたので、オープン戦開幕が予定されていた2月23日(その後、2月いっぱいは無観客での練習試合に変更)まで全体練習に専念したのは昨年の日本一・ソフトバンクと西武だけだった。

これまで私は、CSの生中継で各チームの練習を見てきたが、55年前まで巨人のショートを守った私の現役時代とはキャンプ風景も内容も様変わりした。

 

ソフトバンクと巨人をはじめ、ほとんどの球団がメイン球場のほかに豪華な室内練習場やサブグラウンドを整備し、たくさんの練習機材と防護ネットを動員してさまざまな練習を展開していた。

たしかに設備投資でキャンプは機能的になったが、この半世紀で練習内容が充実・進化したかというと、そうは思わない。

【巨人】坂本のニヤニヤ笑いが象徴的な「和気あいあい」

まず気になったのは、私の古巣でもある巨人の練習風景だ。スポーツ関係のマスコミや毎日中継しているCS放送は「和気あいあいの巨人」と伝えているが、私には選手にもコーチにも真剣さの足りない、慣れ合いの練習にしか見えなかった。

たとえばある日のCS放送では、ショート・坂本やサード・岡本の特守を映していた。後藤コーチの三遊間や二遊間のノックに坂本がニヤニヤ笑いながら右へ左へ。疲れたのか体力をセーブしたのか、ゴロをゆっくり追って片手捕り。三遊間は初めから逆シングルで追い、捕ったら球を後ろのスタッフにポイ投げだ。

岡本も三塁線は初めから逆シングル。正面に回り込めば捕れるゴロでもそうする気はなく、ヨタヨタと省エネ練習だ。キャプテンと4番打者がこれだから、続く若手内野手もニタニタしながらゆっくり追って片手捕りを繰り返していた。

【ソフトバンク】競争激化で緊張感あふれる練習風景

別の日にはソフトバンクも、三塁手候補の3人を集めて特守を行った。レギュラーの松田と「ポスト松田」候補の増田、急成長の強打者・リチャードだ。3人は1球ずつ低く構え、両手でしっかり捕って投げていた。後輩に追われる立場の松田にも笑顔はなく、みんな真剣そのものの特守だった。

ソフトバンクは2月中旬にも、午前練習でショートに集まった投手や捕手にノックの雨を降らせた。2018年の日本シリーズMVPで正捕手の甲斐が、汗だくで右に左にゴロを追う。他の投手や野手にも笑顔はなかった。

同じようなバッテリー特守は巨人もやっていたが、太りすぎの左腕・今村が歯を見せながらゴロを追う姿はソフトバンクと対照的だった。

和気あいあいの巨人と、真剣度が際立つソフトバンクの違いはこのほかにもたくさんあった。これではどちらが日本シリーズ4連覇のソフトバンクか、2年連続4連敗の巨人かわからない。

同じことをやっても、ただやったのと一生懸命やったのとでは全然違う。今年のキャンプも緊張感と真剣度でソフトバンクに負けた巨人は、秋の日本シリーズで工藤ソフトバンクにリベンジできるのか。

【巨人】育成出身・八百板を熱烈指導の金コーチ

問題の多かった巨人キャンプで、興味深い選手がいた。外野手の八百板卓丸(やおいた・たくまる)だ。2019年オフに楽天から戦力外通告を受け、巨人に育成契約で入団した。

昨年は二軍のイースタンリーグで打率.313をマーク。昨季途中から阿部二軍監督が原監督に強く推薦していたという。プロ7年目の今年は紅白戦などで結果を残したため、キャンプ途中で支配下登録選手になった。

しかし私が巨人キャンプで注目したのは、八百板より彼をグラウンドで一生懸命指導していた金杞泰(キム・キイテ)二軍ヘッドコーチである。韓国出身の金コーチは韓国プロ野球を経て巨人で3年間コーチを務めたが、今年から指導者として巨人に帰ってきた。

私の目を引いたのは、フリーバッティングを終えた八百板を呼び、逆さにしたバットで投球コースを示しながら一生懸命指導している姿だった。バッティングケージの周辺でときどき笑顔を浮かべながら立ち尽くすコーチが多いなかで、金コーチの姿からは育成出身の八百板をなんとかレギュラーにしたいという指導者の熱意が伝わってきた。

担当記者によると金コーチは明るい性格で、若手選手に積極的に話しかけている。打撃理論などで阿部二軍監督の信頼も厚いそうだ。八百板がこれからのオープン戦でも結果を出して開幕一軍に残れたら、金コーチの指導の成果だろう。

【ロッテ】森脇コーチの内野強化で16年ぶりのリーグ優勝も

コーチといえば、今年からロッテの野手総合兼内野守備コーチに就任した森脇浩司も目を引いた。

キャンプのある日、内野手にノックしていた森脇はしばしばバットを止め、大きな声で「それではダメだ。こうしろ、ああしろ」と具体的に指導していた。コーチはこのように、選手の欠点や間違ったプレーはその場で具体的に教えてやらなければいけない。

あらためていうまでもなく、森脇はダイエーを引退後、ソフトバンクをはじめ巨人、オリックス、中日でコーチを経験し、オリックスでは監督も務めた。昨年リーグ2位のロッテの失策「53」はソフトバンクの「57」を抑えてパ・リーグ最少。森脇コーチの指導で守備力がもっと上がれば、16年ぶりのリーグ優勝も夢ではないかもしれない。

関連書籍

広岡達朗『プロ野球激闘史』

巨人現役時代のライバル、西武・ヤクルト監督時代の教え子から、次世代のスター候補まで、27人を語り尽くす! サインを覚えなかった天才・長嶋。川上監督・森との確執。天敵・江夏の弱点とは? 球界きっての理論派が語る、秘話満載の広岡版・日本プロ野球史。

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広岡達朗『日本野球よ、それは間違っている!』

「清宮は即戦力にならない」「大谷の二刀流はメジャーで通用しない」「イチローは引退して指導者になれ!」――セ・パ両リーグ日本一の名将が大胆予言! 球界大改革のすすめ

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年、巨人に入団。1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年、野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』『言わなきゃいけないプロ野球の大問題』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『プロ野球激闘史』(幻冬舎)が好評発売中。

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