百歳を超えてもなお第一線で制作に励んだ美術家の篠田桃紅さんが、一〇七歳で逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。老いに潔く向き合い、ただ生きるだけでなくどう生きるかを貫いた桃紅さんの珠玉のエッセイ集『一〇三歳になってわかったこと』から、心に響くメッセージをお届けします。
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百歳を過ぎて、どのように歳をとったらいいのか、私にも初めてで、経験がありませんから戸惑います。
九十代までは、あのかたはこういうことをされていたなどと、参考にすることができる先人がいました。しかし、百歳を過ぎると、前例は少なく、お手本もありません。全部、自分で創造して生きていかなければなりません。
歳をとるということは、クリエイトするということです。作品をつくるよりずっと大変です。すべてのことが衰えていくのが、歳をとるということなのに、二重のハンディで、毎日を創造的に生きていかなければなりません。楽しいことではありませんが、マンネリズムはありません。
これまでも、時折、高村光太郎の詩「道程」を思い浮かべて生きてきましたが、まさしくその心境です。
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
私の後ろに道ができるとは微塵(みじん)も思っていませんが、老境に入って、道なき道を手探りで進んでいるという感じです。
これまでも勝手気ままに自分一人の考えでやってきましたので、その道を延長しています。日々、やれることをやっているという具合です。
日々、違う。
生きていることに、
同じことの繰り返しはない。
老いてなお、
道なき道を手探りで進む。
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一〇三歳になってわかったこと
生きているかぎり、人間は未完成。大英博物館やメトロポリタン美術館に作品が収蔵され、老境に入ってもなお第一線で制作を続けた現代美術家・篠田桃紅。「百歳はこの世の治外法権」「どうしたら死は怖くなくなるのか」など、人生を独特の視点で解く。