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一〇三歳になってわかったこと

2021.03.13 公開 ポスト

私には死生観がありません篠田桃紅

百歳を超えてもなお第一線で制作に励んだ美術家の篠田桃紅さんが、一〇七歳で逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。老いに潔く向き合い、ただ生きるだけでなくどう生きるかを貫いた桃紅さんの珠玉のエッセイ集『一〇三歳になってわかったこと』から、心に響くメッセージをお届けします。

*   *   *

これまで私は、長寿を願ったことはありませんでした。死を意識して生きたこともありません。淡々と、生きてきました。

今でも、死ぬときはこうしよう、死ぬまでにこういうことはしておきたい、などなに一つ考えていません。いつ死んでもいい、そう思ったこともありません。なにも一切、思っていません。

先日、死生観は歳とともに変わるのかと、若い友人に尋ねられました。

私は、私には死生観がないと答えました。

彼女はたいへんびっくりしていました。

考えたところでしようがないし、どうにもならない。どうにかなるものについては、私も考えますが、人が生まれて死ぬことは、いくら人が考えてもわかることではありません。現に、私になにか考えがあって生まれたわけではありませんし、私の好みでこの世に出てきたわけでもありません。自然のはからいによるもので、人の知能の外、人の領域ではないと思うからです。

さすがに病気にならないようにしようということぐらいは考えます。しかし、死なないようにしようと思っても、死ぬと決まっています。死んだ後の魂についても、さまざまな議論がありますが、生きているうちは、確かなことはわかりません。人の領域ではないことに、思いをめぐらせても真理に近づくことはできません。それなら私は一切を考えず、毎日を自然体で生きるように心がけるだけです。

生まれて死ぬことは、
考えても始まらない。

人間の知能の外、
人の領域でないこともある。

 

関連書籍

篠田桃紅『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』

一〇〇歳を超えても筆をとり、第一線で制作に励み続けた現代美術家・篠田桃紅。「百歳はこの世の治外法権」「どうしたら死は怖くなくなるのか」など、人生を独特の視点で解く。生きるのが楽になるヒントが詰まったエッセイ。

篠田桃紅『一〇三歳、ひとりで生きる作法 老いたら老いたで、まんざらでもない』

「人の成熟はだんだん衰えていくところにあるのかもしれない」「人生、やり尽くすことはできない。いつもなにかを残している」。老境に入ってもなお、若さに媚びず現役を貫く、その強い姿勢から紡がれる珠玉のエッセイ集。

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一〇三歳になってわかったこと

生きているかぎり、人間は未完成。大英博物館やメトロポリタン美術館に作品が収蔵され、老境に入ってもなお第一線で制作を続けた現代美術家・篠田桃紅。「百歳はこの世の治外法権」「どうしたら死は怖くなくなるのか」など、人生を独特の視点で解く。

バックナンバー

篠田桃紅

美術家。1913(大正2)年生まれ。東京都在住。墨を用いた抽象表現主義者として世界的に広く知られており、100歳を超えてからも第一線で制作を続けた。その作品は大英博物館、メトロポリタン美術館をはじめ、世界中の美術館に収蔵されている。著書に『一〇三歳になってわかったこと』『一〇三歳、ひとりで生きる作法』『一〇五歳、死ねないのも困るのよ』『人生は一本の線』(すべて幻冬舎)などがある。2021年3月逝去。

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