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緊急事態宣言の夜に

2021.03.12 公開 ポスト

コロナ禍におけるさだまさしの、想いと行動

コロナだから、さだまさし――ボクたちの新型コロナ戦記2020さだまさし

緊急事態宣言が発出された夜に作った名曲「緊急事態宣言の夜に」で、「大切な人をなくしたくないんだ」と歌ったミュージシャン・さだまさし。コロナ禍における、想いと行動の記録を綴った新刊『緊急事態宣言の夜に ボクたちのコロナ戦記2020』より試し読みをお届けします。

*   *   *

コロナだから、さだまさし

8月22、23日、日本テレビの夏の恒例番組『24時間テレビ 愛は地球を救う』が放映されました。

出演の依頼を受け、僕は局のリクエストで『主人公』という歌を歌わせていただきました。

これを見ていた噺家の春風亭正太郎が僕に言った言葉があります。ちなみに、この春風亭正太郎は僕が高校時代に在籍した國學院高校落語研究会の可愛い後輩で、高校教師になった仁木健嗣の「教え子」なのです。つまり僕にとっては孫弟子(笑)にあたります。2020年の段階ではまだ二ツ目ですが、2021年春に九代目春風亭柳枝の名跡を継ぎます。先代の八代目柳枝は 年前に亡 くなりましたが、それ以降、名前が偉大過ぎて、誰も継げなかった大きな名前 です。それを後輩の、そのまた教え子が継いで柳枝になる。随分頑張ってくれたなあという感激と共に実に妙な気分でもあります。

雑誌「Pen+」の対談で、その正太郎が、「さださん、 時間テレビばか りじゃなくて、今年ずいぶんモテますね。テレビにいっぱい引っ張り出され て」と言いました。

「そうなんだよ」

「何故今さだまさしなんですかね?」

二人して考え込んだのですが、これまでのことを振り返ってみれば、どうも不景気になると、さだまさしがモテる(笑)。

何だか困ったときには、さだまさしの歌に気づいてもらえるのではないかと。

バブルの頃は見向きもされなかった「さだまさし」なのに、今年は得体の知 れない不安な病気が流行ったので、ふと聞いてもらえる。

「俺の歌って、きっとそういうものなんだよな」

NHKにもお陰様でモテましたよ。

春以降は「密を避けるために」地方での収録が出来ないので『NHKのど自 慢』が収録出来ず、日曜日のお昼の大切な時間がすっかり空いてしまったのです。

困ったプロデューサーが、ふと思い出してくれたのでしょう。

僕と泉谷しげるさんの二人に「何かやって」というリクエストです。

僕は毎月深夜に『今夜も生でさだまさし』という番組を担当していますので、日曜昼も“生さだ”風にやってくれ、と。そんな「さだまさし」の立ち位置にも気づかされました。

大切な時間に声をかけていただいたのは光栄なことですし、困ったときはお互い様、というのでお引き受けしました。

その打ち合わせで、泉谷さんがNHKスタッフへ一言。

「いいよ。やるけどさあ、どうせコンテンツが足りてきたら、俺たちのことは すっかり忘れやがってよ、偉そうにするんだよな、お前ら」

「そんなことないよ」

NHKのスタッフ全員爆笑でした。

いえいえ勿論「コロナだから、さだまさし」というのは、とてもありがたい ことなんです。コロナによって仕事が出来ずにみんな苦しんでいるのですから。

しかし不思議ですね。

「“コロナの今だから聞きたい歌”を特集します。さださん、『いのちの理由』 を歌って下さい」

「うちの番組では『風に立つライオン』をお願いします」

「24時間テレビは、やはり『主人公』しかないでしょう」

凄く嬉しいんですが、「今だから」じゃなくていつでも普通に聞いて下さい (笑)。

誰にも会わないことは、 死ぬより難しい

9月1日のコンサート再開が、刻々と近づいてきました。

当時のガイドラインに則って50%の集客といえども、観客を入れて開催するという僕の決断に、「叩かれるかもよ」「不安はないの」と問いかけてくる仲間 もいました。

正直言って、勿論不安だらけです。

一番の心配は「感染を広げることにならないだろうか」ということです。

ツアーで各地に行くとなればメンバー、スタッフを護ることも大変です。観客に感染が広がったら、と考えたら寝られなくなるほどです。

それに聞きに来てくれる人はどのくらいあるのだろうか、という不安もあります。

第一、どう考えても %の集客では赤字覚悟の挑戦です。

世の中には不安から家を一歩も出ない「ステイホーム」を護っている人もあ ります。それも自分を護るための大切な選択のひとつです。平気で出掛ける人 だってあります。それもまた自己責任に於ける「自由」な選択肢のひとつです。 コロナ時代の生活に、正解はないのです。

閉じこもるのか、それとも出ていくのか。

この選択は、各個人の決心に委ねるしかありません。

しかし出ていくという決心には、大きな勇気が必要です。もしも新型コロナウイルスに感染したら、死ぬかもしれないという、その覚悟がなければ、外へ は出られません。

冷静に考えれば、コロナのない普段の生活でも、人生に「絶対安全」はあり ません。そもそも外に出るということは、常に危険に満ちているからです。

油断することなく、毎日、うがい、手洗い、靴と衣服の消毒、マスク着用など、最大限の感染予防に努めていますが、それでも危険性があります。

とは言え、もしも自分が感染したら、その時に最も正しいと思われる対処法を考えておくことも大切なのです。 コロナ感染が急激に増えて我々がただただ呆然と恐怖した2020年の3月、4月頃に比べて、少しずつコロナの正体が見えてきました。

飲食などで長時間マスクを外したまま近くの人と話したりすることがかなり危険だということがわかってきました。

それでも日々の感染予防、アルコールによる手指消毒やマスクの着用、三密を避けて換気に気をつける生活を続けてさえいれば、むやみやたらに罹るもの ではないことがわかっています。

僕は立ち止まることより、精一杯の安全策を講じながら、前へ進む道を選びました。

日本で一番沢山コンサートを行ってきた「さだまさし」の責任として、コン サート再開への道を決心したのです。

そうです。

show must go on!

「ショーを止めるな!」です。

関連書籍

さだまさし『緊急事態宣言の夜に ボクたちの新型コロナ戦記2020〜22』

2020年、コロナ禍の日常が始まった。いち早く『緊急事態宣言の夜に』という歌を発表し、メッセージを送ったさだまさし。ミュージシャンとしてどのような思いで活動してきたか、また、自身が設立した「風に立つライオン基金」がおこなってきた様々な支援の様子を綴る。小さな力を大きな動きに――魂のメッセージが胸を打つ、感動の記録。

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さだまさし

1952年長崎市生まれ。72年に「グレープ」を結成、「精霊流し」「無縁坂」などが大ヒットする。76年、グレープを解散後、シングル「線香花火」でソロデビュー。2001年、初小説『精霊流し』がベストセラーになる。『精霊流し』をはじめ、『解夏』『眉山』『アントキノイノチ』はいずれも映画化され、話題に。その他の小説に『はかぼんさん一空蝉風土記』『かすてぃら』『ラストレター』『ちゃんぽん食べたかっ!』など。

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