ノンフィクションライター・小野一光氏が座間9人殺害事件の犯人・白石隆浩と重ねた11回330分の獄中対話と、裁判の模様を完全収録した書籍『冷酷 座間9人殺害事件』が話題だ。ここでは本書の一部を抜粋する。
今回は2020年10月8日、第5回公判について。白石は「殺してもバレなければ良いと思っていた」と語る。
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弁護人の質問に答えない理由
10月8日に開かれた第5回公判では、前日に続いて白石への被告人質問がおこなわれた。弁護側の問いかけに対して、憮然とした表情で「答えるつもりはありません」と無視をつらぬいた白石の反応が注目されるなか、ふたたび弁護人が質問を始める。
弁護人「白石隆浩さん、この裁判で自分に死刑が求刑されることをわかってますか?」
白石「……」
この日も白石はまず無反応で対峙した。弁護人はさらに言葉を加える。
弁護人「聞こえていないのか、答えるつもりがないのか、判別がつきません。聞こえていますか?」
白石「質問は聞こえていますが、弁護人の質問に一切答えるつもりはありません」
それ以降、交代した弁護人が白石に対して、Aさんとの行動について、順を追って25問以上の質問を重ねるが、弁護人が質問の最後につける「答えませんか?」との言葉に、白石は「はい」とだけくり返す。そこで最後に弁護人は切り出した。
弁護人「このあいだ、白石さんとは接見していますよね。公判前は1週間に1回は話をしていますが、おぼえていますか? 公判が始まってからも、ここの地下で朝と昼休みに会ってますよね。そのときは私とふつうに話をしているじゃないですか。ちがいますか?」
白石「時間のムダなので答えますが、親族に長々と迷惑をかけたくないので、それぞれの事件を争わず、簡潔に公判を進めてくださいとお願いしたところ、O弁護士はわかりました、と。それで選任し、A(弁護士)、K(弁護士)、M(弁護士)が加わり、私の希望に合わせますということで、公判前整理手続きに入りました。ところが、争いますといきなりなって、話がちがうと言ったが、受け入れられなかった。裁判所に解任を申し出たが、受け入れられなかった……」
白石はこれまでの流れを説明し、仕方なく弁護人を受け入れていると話したうえで、裏切られた状態であることに対し、「正直、いまも根に持っています」と締めくくった。
首を吊った死体に見せかけようとした
続いて、検察側による被告人質問となった。検察官がAさんとの行動について質問をすると、白石は先ほどまでとは打って変わって質問に素直に答える。
そのなかで白石は、Aさん殺害に“首吊り”を選んだ理由についてふれていた。
検察官「首を絞めたあと、動かなくなってから、なぜロープで吊るすことにしたのですか?」
白石「当時はいろいろな着地点を考えていて、バレたときのことを考えていました。山で(死体を)遺棄したあと、発見されたときに付近で首を吊った死体に見せかけようとしました。首を絞められたのではない死体であると見せようと、画策していたためです」
このような検察官による15分程度の被告人質問が終わると、裁判員と裁判官による質問が続く。まず裁判員のひとりがたずねた。
裁判員「Aさんを殺害することについて、8月20日くらいまで迷われていた。最終的に殺害しようと思った、具体的なきっかけはなんですか?」
白石「何点かあります。まず、Aさんに私以外にも男性とお付き合いがありそうな雰囲気があったこと。あと、2度目のホテルで性交渉を迫ったら断られたこと。ほかには、かつて女性からカネを引っ張ろうと思ったとき、短期でできても長期的には無理だと思ったからです」
裁判員からはほかにも、遺体をすぐに遺棄しなかった理由などについてたずねられ、白石はこれまで遺棄についてインターネットで調べていたが、そのなかで発覚しやすい状況として、遺棄の移動途中、埋めている最中、埋めたあとに遺体が出てきてしまうなどの情報があり、「(遺体を)埋めに行くのを躊躇していたら、逮捕を迎えてしまったというのが、正直な事実です」と答えている。
一方、裁判官からは白石がカカオトーク内で「しょう(表記不明)」と呼ばれている理由について質問があり、白石は「偽名を使いました。ネットで検索すると、ツイッターで私の名前がさらされていたので……」と回答。
さらに、己の犯行へのかかわりが露呈することを防ぐため、Aさんに対する「失踪宣告書」の作成以降のやりとりは、つながりの痕跡を目立たなくするように依頼していたことも明らかになった。
ロフト付きの部屋にこだわった理由
また、Aさんを殺害した理由について「(Aさんから借金の)返済を求められてからだと恐喝になる。私は当時、執行猶予の判決が出ていたので、恐喝が加わると実刑判決になってしまう。そうなる前に殺してしまおうと考え……」と話す白石に対し、裁判官が「殺すと殺人になり、罪は重くなる。なぜ殺すことにしたのか?」と問いかけた。
すると白石は「Aさんが普通に暮らしているなかで、借金の返済を求められたら、警察にも相談するだろうしつらい。正直、殺してもバレなければ良いと思ってました」と返し、その言葉に続いて、「バレない自信があった」と答えている。
また、Aさんを実際に殺害する前にはためらいがあったとしながらも、次のように言う。
白石「スカウトの仕事をしているときに、本番行為のある店に女性を紹介することを日常的にやっていました。バレなければいいというのが自分のなかに根付いていて、今回もバレなければいいやという気持ちでやりました」
この裁判官による被告人質問のなかでは、殺害したAさんについて、白石は初めて悔悟(かいご)の気持ちを吐露している。
裁判官「Aさんに対してどんな思いを持っていますか?」
白石「Aさんとは正直、一緒にいた時間が長かったので、ひどいことをしたと後悔しています」
だがその後の、裁判長による殺害方法の選択についての質問では、以下のようなやり取りを見せた。
裁判長「殺害方法で首を絞めてからロープで首を吊ったのは、検察官の質問に対し、捜査の手から逃れるためとありましたが?」
白石「人を殺す方法をネットで検索していて、首を絞める、(水に)沈める、失血させるなどがありましたが、首を絞めるのが一番簡単でした。ただ、十分以上全力で絞める必要があるとネットに載っていて、それはきついので、ロフトに吊るしたほうが楽に行えると思いました」
そして、そのためにロフト付きの部屋を選んだことを、白石本人も認めたのだった。
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