ノンフィクションライター・小野一光氏が座間9人殺害事件の犯人・白石隆浩と重ねた11回330分の獄中対話と、裁判の模様を完全収録した書籍『冷酷 座間9人殺害事件』が話題だ。ここでは本書の一部を抜粋する。
今回は2020年10月26日、第11回公判について。白石は遺体解体を目撃した女性・甲さんをなぜ引き留めずに帰らせたのか?
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解体を見た甲さんを素直に帰した謎
前回から4日空けた10月26日の第11回公判。この日はひきつづき、Dさん事件についての被告人質問から始まった。
まず弁護人が質問に立ち、白石の部屋でDさんの解体を目撃した女性「甲さん」が、滞在していた白石の部屋を出て、実家に帰った際のやりとりについてたずねる。
白石「電車で帰るのを見送った記憶があります。甲さんの母親が心配しているので帰ることになったんです」
弁護人「甲さんから帰ると?」
白石「そうです。とくに引き留めることはありませんでした」
甲さんが白石の家を出たのは9月23日とのこと。Dさん殺害から7日後であり、Eさん殺害の前日である。
白石はEさん殺害の理由について、「Eさんが帰宅することを危惧し」としていた。だが、なぜ甲さんに関しては素直に帰宅させたのか。
そのことが明らかになるのは、続いての裁判官による被告人質問のなかでのことだ。
裁判官「甲さんの殺害を考えたことは?」
白石「ありません」
裁判官「甲さんからおカネを引っ張れなくなると判断したら、殺害していたかもしれないですか?」
白石「変化があったら、そうしていたかもしれないですけど、当時は甲さんとの関係は良好だと思っていたので……」
白石は、甲さんと同居し、家賃を払ってもらおうと考えていたという。
白石「一緒に住む方向で話そうとしていましたが、途中で帰ってしまった。出て行く理由が、母親が心配しているというものだったので、引き留めづらかった」
抵抗する相手との性行為にしか興味がなくなった?
白石が口にする甲さんを帰した理由を受けて、別の裁判官が新たに質問を加える。
裁判官「Cさんのときは、Aさんを殺したことを知らないのに証拠隠滅のために殺した。一方、甲さんは解体を知っていた。甲さんを帰すことのほうが、Cさんを帰すよりもリスキーだと思いますが」
白石「Cさんと比べると、Cさんは距離感があり、信用、信頼がありません。甲さんとは信用、信頼、恋愛依存を感じ取れたので、大きな差がありました」
裁判官「甲さんが帰って関係が悪化する心配は?」
白石「しないようにしていました」
裁判官「捕まってもいいやという気持ちがあって?」
白石「ちがいます。甲さんを口説けていたので大丈夫だと……」
白石は甲さんに手を出さないことについて、過去のスカウト時代の経験を持ち出し、「カネを引っ張るためにそうしたほうが良かったから」と断言するが、それ以外にも理由があったように思えてならない。
白石は殺害の基準について次のように答えていた。
白石「状況によりけりです。普通の女性で収入がなくても、(相手が)わかりやすい好意を示す場合、殺害せずお付き合いしたいと考えていました」
それと同時に、自殺志願者だったDさんを自殺する方向に持っていかず、殺害した理由についてはこう答えている。
白石「相手が普通にしている状態を襲うことが快感に繋がったので、考えなかった」
また、白石はほとんどの女性被害者の胸をまず触り、抵抗されてから首を絞めて失神させ、強制性交をしているが、その理由についての回答は以下のものだった。
白石「どんな反応をするのか見るためにやりたくて、反応を見てその内容で性的興奮に繋がるものがありました」
つまり白石は、素直に性行為に持ち込める相手よりも、抵抗する相手に向けた性行為にのみ、性的興奮を感じる傾向が顕著なのだ。
極度の興奮を犯行に及んで初めて知り、幾度も重ねていくうちに、徐々に彼のなかで強い渇望になってきたのではないだろうか。
さらには、この性的興奮を感じる性行為のなかには、殺害行為も含まれると考えられる。
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