2月28日、東京銀座の東映本社で、『サクラサク』の幻冬舎特別試写会が行われた。
上映後にはふたりの編集長の対談が実現。
「若さを嗤わず」
「老いを恨まず」
さだまさしが歌う主題歌「残春」につづられる言葉が、この作品を象徴している。
4月5日に全国公開される映画『サクラサク』は、2002年にさだが発表した同名短編小説(幻冬舎文庫『解夏』に収録)の映像化である。出演は、緒形直人、南果歩、そして藤竜也。’13年に『利休にたずねよ』で第37回モントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞した田中光敏監督がメガホンをとった。田中監督は’03年にさだの『精霊流し』も映像化している。
この映画は家族の再生を描くロードムービーだ。
物語は主人公、俊介(緒形)の年老いた父、俊太郎(藤)が雨の夜びしょびしょに濡れて踊りを舞うシーンから始まる。
「僕はボケちまったのかい?」
「自分で、自分の記憶さえ信じられないんだ」
俊太郎の認知症の進行とともに、家族はすでに崩壊寸前であることが露わになっていく。
家庭を顧みず仕事に邁進し、浮気も発覚する夫。家で糞尿をもらす義父から目を背ける妻と娘。定職を持たず目的も持たず暮らす息子。自分の家庭の現実と初めて正面から向かい合った夫は、4人を強引にワゴンに押しこんで旅に出る。
皮肉なことに、父親の認知症によって家族の再生へ向けての歯車が回り始める。俊介はその旅で初めて、妻の心の傷、長く会話がなかった息子の優しさ、娘の素直さに気づく。
「涙に逃げず」
「怒りに任せず」
これも「残春」でさだがつづる言葉だ。家族で旅に出る決意をした俊介の気持ちをそのまま表しているようにも感じる。
誰にでも訪れる“老い”。その現実から逃げず、感情的にならず、どう向き合うか─。答えはない。100の家庭があれば、100の関係性があるからだ。今ある自分の暮らし、人生の優先順位を改めて考えさせられる映画である。
人の人生における仕事、家庭、老い、どうとらえるか?
舘野晴彦、竹村優子、両編集長の対談は試写会終了後の舞台で、約30分行われた。
舘野 映画『サクラサク』は派手じゃないところが魅力です。小さな出来事を丁寧につなげて物語にしています。
竹村 登場人物が、実はみんな優しいんですよ。
舘野 うん。悪い人がひとりもいない。それでも油断すると、幸せに暮らせないという。とにかく、僕は身につまされました。
竹村 舘野さんの場合は、やっぱり主人公の俊介に自分を重ね合わせるのでしょうか?
舘野 打ち明けるとね、俊介のように仕事しか見てない気がします。
竹村 登場人物の誰に自分の姿を見るか――。男女や世代によって違うのかもしれませんね。
舘野 女性の竹村さんの目に映る主人公は勝手者で仕方がないヤツでしょ? やっぱり南果歩さん演じる妻、昭子の気持ちになるのでしょうね。
竹村 それが、夫の俊介にも感情移入してしまうんです。
舘野 そうなの? こうして仕事を持っているからかな。
竹村 私は夫とふたり暮らしで、どちらも仕事に時間とエネルギーを注いでいて、家のことは後回しになりがちです。それでも、夫婦両方が人生で輝くのは難しい。もしどちらかに光が当たれば、もうひとりの心が空洞化する気もします。すると、昭子の気持ちもわからなくもなくて。
舘野 人によってまったく違う風景が見える奥深い映画ですね。
Text=神舘和典
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