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ほねがらみ

2021.04.17 公開 ポスト

「読 木村沙織」の章より その3

今度届いたのは、大学生の交換日記。楽しげな旅行の記録が、突然…芦花公園(小説家)

震える怖さでネットでバズった小説ほねがらみは、恐怖の実話を集めている主人公による、ルポ系ホラー。

その怖さを味わっていただくため、第1章を、連日公開中です。
怖かったら、やめてもいいんですよ。やめても……。

*   *   *

読 木村沙織 

ふいにスマートフォンが振動してドキリとする。確認すると由美子さんからだ。

『先生、読んでくれましたかぁ』

一つ読んだと言ってから一日も経っていないのに、本当に鬱陶しいオバサンだ。

「ええ、まだ二つ目ですけどね。こちらも仕事があるので」

精一杯の嫌味にも気付かず、由美子さんは耳障りな声で笑った。

『先生ってば、読むのおそーい。で、どうでした?』

「今回は大正? いや、のらくろ、が出てきたから昭和初期くらいの田舎の話ですね。なかなか読み応えがありました。独白形式ですけど、これ、由美子さんが書き起こしたんですか? すごいですね、由美子さんが怪談を書いたらいいのに」

『いえいえー私は先生と違って才能がありませんから』

私は由美子さんのわざとらしい謙遜を流して聞いた。

「タイトルは揃えているようですけど、バラバラの話をひとつひとつ書き起こしてくれたんですか? 四つも、大変だったんじゃないですか」

『そんなこと気にするなよ』

スマートフォンの向こうから低い声が聞こえる。

『いくつあるかなんて気にするな。あんたは全部読んだらいいんだよ。早く全部読めよ』

「え?」

突然の強い口調と、由美子さんとは思えないドスのきいた声に、怒りを感じるよりもむしろ驚いてしまう。

しばらく、と言っても十秒ほど沈黙が続いた。

「由美子さん……?」

おそるおそる呼びかける。

『すいませぇん、少し喉の調子が悪くって』

いつも通りの甲高い声に安心する。これはこれで耳障りではあるが、悪意がこもっているかのような先程の声よりはずっといい。

『バラバラなんかじゃないですよお。これはひとつのお話ですから』

私が聞き返そうとするのを遮って、由美子さんは電話を切った。

早く全部読んでくださいねぇ、と言いながら。

(写真:iStock.com/BATAPHOTO)

To きむらさおり先生
第三話 ある学生サークルの日記

8月8日

東医体お疲れ様でした! 人によっては追試とも被ったかもしれませんね(笑)

私たちゴルフサークル5年生はいま、■■県■■市に来ております。

6年生の先輩方も、国試のことは忘れてわたしたちの旅行記を楽しんでいってくださいませ(笑)

やっぱり■■県と言ったらみかんかな? なんて言ったら慶ちゃんにバカにされてしまいました。鯛めし、たこ飯、ラーメン、とにかく美味しいものは沢山あるそうです!

では、また明日更新しますね!

奈津子

 

8月9日

今日は川遊び。全員二十歳超えてるのに、小学生かよって(笑)

でもまあ、釣りも楽しめたし、水は何もしなくても飲めるくらい綺麗。何より田舎の夏ってなんかいいよね。実家が田舎でもないのに、なんか懐かしさ感じるっていうか。

さんざん遊んだあとコンビニで買った(←コンビニ行くなよ)おにぎり食べてたら、上流からなんかが台に乗って流れてきた。愛子が言うには姫だるま? って言うらしい。愛子は可愛いって言ってたけど正直日本人形的なやつ、無理だから、そのまま川に流した。

そのあと急に愛子が「姫だるま触ってから背中がゾクゾクする」とか言ったけど、霊感少女とか中学生で卒業しろって(笑)絶対川で冷えただけだろ(笑)

まあ風邪ひいてもいけないから、温かい温泉入ります。

信二

 

8月10日

愛子が風邪引いてしまった。昨日はしゃいでたもんなあ。医者の不養生、ダメですよ!

今日は陶芸教室。風邪でも楽しめるし、ナイス予定w

正直地味かなあと思ってたんですが、これが意外とハマる。失敗してもすぐ直せるしね。

奈津子が姫だるまを作ったのには驚きました。昨日は、あんだけ「不気味」「夢に出てきた」とか言ってたのに、ふつう作る? みたいなw

奈津子はええー、こんなの作るつもりじゃなかったーとかなんとか言ってたけど、もし偶然こんなうまく作れたなら、退学してプロの陶芸家になるべきだからw インストラクターもびっくりして、どうやったんですか? とかベタ褒め。

いいね器用なの。外科向きですね。

宿に帰っても愛子は体調悪そうで、少し心配です。明日は休む? って聞いたら、ひとりになるのが怖いらしい。姫だるまに左右されすぎ!

明日は姫だるま沢山飾ってある神社に行くのに大丈夫??

慶一

 

8月11日

四世紀の昔、神■皇后が御征戦(ごせいせん)にご出陣の途中、■■■温泉にしばらくご滞在になり、そこで■神天皇を御懐妊され、その後颯爽とした勇ましい鎧姿(よろいすがた)にて打ち続く苦難と不運にめげず大任を果たされた。美しく雄々しき皇后は、筑前の国に於いて、■神天皇を出産されました。その■神天皇の真紅の真綿包みの可憐な幼児を記念とし、追想して作られたのが黒い髪毛の美しい優雅な姫だるまです。

子供が持って遊ぶと健やかに育ち、病人が飾ると起き上がりが早くなるといわれ、信仰にまつわる心意を示す玩具です。

じゃあ私たちが見たものはなんなの。違う。だって歯が生えていた。こっちを見ていた。

目が金色だった。今日だって。這っていた。

あれがお守りだなんてそんなわけない。あんな目でこっちを見ているものがそんなわけない。なんで愛子はあれを姫だるまだって言ったの? 違うじゃない。違うじゃない。違うじゃないか。違う、今も見てる這ってる

 

8月12日

今日は待ちに待った渓流下りです! みんなとても楽しそう。楽しみにしてたもんね。

川には沢山の人の魂が浮かんでいるって知ってましたか? ぷかぷか。そこらじゅうにいるんです。湧いてるみたい。素敵ですね。滝の生命力! 生命力!

特に赤ちゃんは可愛いね。私も赤ちゃん大好き。

ていうかなんで笑ってないんだよ、お前は笑ってなきゃダメだろ、泥棒女。泥棒泥棒泥棒女。最低の泥棒女。

どうして奈津子が慶ちゃんって呼んでるのかなとそれは私と慶ちゃんだけの呼び方でクソ奈津子がそしたら案の定だよ陰で何度も何度もやってたんだよなやってた完全にメスの顔してお前ら私を騙したんだよな私はそれで赤ちゃんいなくなっちゃったのになんで笑ってねえんだよ笑えよ泥棒女泥棒泥棒女

間違えた、赤ちゃんはいるんでした(笑)

夏だけど川の水はとっても冷たいよ(笑)

途中でゴムボートが転覆しちゃいました。奈津子、ちょっと太ったんじゃない?

大丈夫、川には沢山浮かんでいるからね

愛子

 

8月13日

覚えなくてはいけない7つの言葉がある。

  豊穣

  赤ちゃん

  神様

  天井

  医者

  まびき

  だるま

 

関連書籍

芦花公園『ほねがらみ』

「今回ここに書き起こしたものには全て奇妙な符合が見られる。読者の皆さんとこの感覚を共有したい」――大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。知人のメール、民俗学者の手記、インタビューの文字起こし。それらが徐々に一つの線でつながっていった先に、私は何を見たか!? 「怖すぎて眠れない」と悲鳴が起きたドキュメント・ホラー小説。

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ほねがらみ

大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。

手元に集まって来る、知人のメール、民俗学者の手記、インタビューのテープ起こし。その数々の記録に登場する、呪われた村、手足のない体、白蛇の伝説。そして――。

一見、バラバラのように思われたそれらが、徐々に一つの線でつながっていき、気づけば恐怖の沼に引きずり込まれている!

「読んだら眠れなくなった」「最近読んだ中でも、指折りに最悪で最高」「いろんなジャンルのホラー小説が集まって、徐々にひとつの流れとなる様は圧巻」など、ネット連載中から評判を集めた、期待の才能・芦花公園のデビュー作。

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芦花公園 小説家

東京都生まれ。小説投稿サイト「カクヨム」に掲載し、Twitterなどで話題になった「ほねがらみ―某所怪談レポート―」を書籍化した『ほねがらみ』にてデビュー、ホラー界の新星として、たちまち注目を集める。その他の著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』の「佐々木事務所」シリーズ(角川ホラー文庫)、『とらすの子』(東京創元社)、『パライソのどん底』(幻冬舎)ほか。「ベストホラー2022《国内部門》」(ツイッター読者投票企画)で1位・2位を独占し、話題を攫った、今最も注目の作家。

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