震える怖さで、ネットでバズった小説『ほねがらみ』は、恐怖の実話を集めているという主人公の、ルポ系ホラー。
「木村沙織さん」のあてに、4つの物語が届いたわけですが……。
* * *
読 木村沙織
5
四つ目の話を読み終えて時計を見る。いつもなら由美子さんから連絡が来るはずの時間
はとっくに過ぎていた。しかしスマートフォンにもSkypeにもなんの反応もない。
いつもは煩わしいだけの電話だったが、今となっては早く由美子さんと話したい気持ちでいっぱいだった。
最初はタイトルを似せただけの怪談の寄せ集めだと思っていたが、四つ読むとなるほど分かった。これは、読み進めると徐々にひとつに収束していくホラーミステリーなのだ。
「ある少女の告白」に出てきた、妹に裏切られ首を吊ったお豊という女性が、この一連の物語のキーパーソンだ。
時系列で並べると
「ある少女の告白」
→「ある民俗学者の手記」
→「ある夏の記憶」
→「ある学生サークルの日記」
となるだろうか。
お豊は死に、怨霊となった。おそらく亡くなった当時、妊娠していたために、子供に対して強い思い入れと嫉妬心がある。「民俗学者」に出てきた嬰児殺しの絵は、お豊の怨霊が嬰児を食らっているものだったというわけだ。村人はその地が「お豊ヶ淵」という名前を冠するまでに至った非常に強い怨霊の魂を鎮めるために、我が子を生贄(いけにえ)に捧げた。一つの家庭に一人しか子供がいなかったのも、病気の子供がいなかったのも、全てお豊に捧げていたから、ということだろう。さらに村人はお堂のようなものを作って、そこに神棚を置いた。
「夏の記憶」に出てくるのも、その神棚であろう。おそらく神様に祈りが通じたのだろう、怪異現象(祟りと言ってもいい)は収まった。しかし喉元過ぎればなのか、あるいは持ち主が替わったことでそもそもの由来が忘れられたのか、神棚は粗末に扱われるようになった。そしてついに神様は出て行き、ふたたび祟りが起き始めてしまう。
「学生サークルの日記」で学生グループが訪れたのが、まさにお豊ヶ淵だった。たまたまサークル内部の恋愛トラブルで中絶をした学生(愛子)がいたために、お豊の影響を受けてしまう。最後の覚えなくてはいけない七つの言葉も、これらの四つの話を読むといろいろな解釈ができる。
豊穣→おそらくお豊のこと。
赤ちゃん→お豊の亡くした子、あるいは食われた子。
神様→怪異現象を抑えたのに、捨てられてしまった神様。
天井→「夏の記憶」「少女」「民俗学者」の情報を統合すると、お豊が首を吊ったときにシミがついた床はお堂の天井、少年の祖父母の家の天井になっている。
医者→ お豊のお腹の子の父親、間引きの医者、さらには「学生サークル」に出てくる学生は全員医学生である。
まびき→ そのまま。
だるま→ 子供の健やかな成長を願う姫だるまのことだろうが、だるまには四肢欠損の人間の意味もある。お豊に四肢を毟られた子供のことか。
全ての話は繋がっている、由美子さんの言ったとおりだった。ホラーミステリーとしては説明不足なために完成度は低いが、素人、しかも普段創作をしない由美子さんが考えたにしてはとても楽しめた。説明不足なのは、感想を言い合って盛り上がるためかもしれない。よく分からない方が怖い話は面白いと思うし、私好みの作品だった。
この解釈の答え合わせを、早く由美子さんとしたい。こちらから電話をかけてしまおうかとさえ思った。しかしもう、常識的に他人に電話をかけていい時間ではなくなっている。
朝になったらメールでも送ろう、そう思ったとき、インターフォンが鳴った。
ほねがらみ
大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。
手元に集まって来る、知人のメール、民俗学者の手記、インタビューのテープ起こし。その数々の記録に登場する、呪われた村、手足のない体、白蛇の伝説。そして――。
一見、バラバラのように思われたそれらが、徐々に一つの線でつながっていき、気づけば恐怖の沼に引きずり込まれている!
「読んだら眠れなくなった」「最近読んだ中でも、指折りに最悪で最高」「いろんなジャンルのホラー小説が集まって、徐々にひとつの流れとなる様は圧巻」など、ネット連載中から評判を集めた、期待の才能・芦花公園のデビュー作。
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