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この一言で「YES」を引き出す格上の日本語

2021.04.29 公開 ポスト

おざなり/なおざりの違いはするか、しないか山口謠司

「あんなぞんざいな言葉遣いをする人間には任せられない」

誰かの言葉を聞いてそう思ったことはありませんか?
逆に、誰かにそう思われているかも?

言葉にはこれまで培ってきた知性、教養、品性、性格、考え方が宿ります。言葉の感覚を磨く、すなわち「語感力」を鍛えるのは、ビジネスでも必須の要素。『この一言で「YES」を引き出す格上の日本語』より、語感力を鍛えるための言葉の知識を抜粋してご紹介します。

いい加減でも、するのとしないのとでは大違い

ひらがなで書くと、「なおざり」と「おざなり」は、アナグラムのようにどっちがどっちか区別が付きにくい言葉に見えますね。

それに加えて、このふたつの言葉は意味もほとんど同じなのです。

「なおざり」は、「深く心にとめないこと、本気でないこと、いい加減、かりそめ」という意味です。

これに対して、「おざなり」は、「いい加減であること、その場のがれのこと、間に合わせ」です。

辞書を引くとどちらも「いい加減」とありますから、どう使い分ければいいのか、なかなか迷うのではないかと思います。

そこで、両者の違いを漢字から紐解いてみます。

(写真:iStock.com/kimberrywood)

「なおざり」は「等閑」と書きます。「等閑」は、中国由来のとても古い言葉です。

唐の詩人・はくらくてんの「こう」には、「秋月春風等閑にわたる」と書かれていますが、これは「秋の明月、春の花風と、浮かれて暮らしているうちに」と訳されます。

もともと「等閑」は、「気にも留めずに、ホワホワとしていい加減に」という意味で使われたのです。

白楽天の詩が我が国でったのは、ちょうど『源氏物語』が書かれた平安時代中期のことです。

『源氏物語』を読むと、またか! と思うほど、「なおざり」という言葉が出てきます。しかも、男が女性との関係で「いい加減」であるとする用法がほとんどなのです。

一方、おざなりは「御座形(御座成り)」と書きます。

この「御座」は、芸者さんにお酒をいでもらって会話を楽しんだり、ゲームをして遊んだりするいわゆる「お座敷遊び」を指す言葉です。

 

いつぐらいから使われるようになったか調べてみると、江戸時代後期の川柳にこんなものが見つかりました。

「お座なりに芸子調子を合はせてる」(『やなぎ』五十八)

現代風に訳すると、芸者が適当に合いの手を入れて調子を合わせている、といった意味になるでしょうか。

ここから転じて、「お座敷遊び程の、本気ではない、酒の席の、その場しのぎの、適当さ」を「おざなり」と表現するようになったのです。

(写真:iStock.com/kanzilyou)

もともとはどちらも「いい加減」を意味する言葉でしたが、現代で使うときは次のような違いがあります。

「おざなり」は、「曲がりなりにもなにかをやった。でも、それは(結果として)いい加減なものだった」という意味で使われます。

これに対して、「なおざり」は、「やらなければならないことがあるのだけれども、やらないままでいい加減に投げ出している」として使われます。

具体的な例を挙げるとすれば、

「顧客に対して、おざなりな対応をした」は、「お客さんに対して、一応、対応はしてみたが、その対応はいい加減なものであった」

「顧客に対して、対応をなおざりにした」は、「お客さんに対する対応、そのものをしていないで、いい加減にしている」

といった違いが出ることになります。

 

どちらも、「いい加減」である点については変わりありませんが、「する」か「しないか」で大きな違いが現れているのです。

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この一言で「YES」を引き出す格上の日本語

「あんなぞんざいな言葉遣いをする人間には任せられない」

誰かの言葉を聞いてそう思ったことはありませんか?
逆に、誰かにそう思われているかも?

言葉にはこれまで培ってきた知性、教養、品性、性格、考え方が宿ります。言葉の感覚を磨く、すなわち「語感力」を鍛えるのは、ビジネスでも必須の要素。『この一言で「YES」を引き出す格上の日本語』より、語感力を鍛えるための言葉の使い分けを抜粋してご紹介します。

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山口謠司

大東文化大学文学部准教授。1963年長崎県生まれ。博士(中国学)。
大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院、ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員を経て現職。専門は、中国文献学。
難解な言葉を分かりやすく解説するスタイルが話題を呼び、『世界ふしぎ発見』や『林先生が驚く初耳学!』などテレビ番組出演も多数。
『日本語を作った男』(集英社インターナショナル)で2016年度和辻哲郎文化賞(一般部門)受賞。
ベストセラー『日本語の奇跡』『ん』(ともに新潮社)、『てんてん』(KADOKAWA)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)など著書多数。

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