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この一言で「YES」を引き出す格上の日本語

2021.05.27 公開 ポスト

麒麟がキリンになったのは予算の都合から山口謠司

「あんなぞんざいな言葉遣いをする人間には任せられない」

誰かの言葉を聞いてそう思ったことはありませんか?
逆に、誰かにそう思われているかも?

言葉にはこれまで培ってきた知性、教養、品性、性格、考え方が宿ります。言葉の感覚を磨く、すなわち「語感力」を鍛えるのは、ビジネスでも必須の要素。『この一言で「YES」を引き出す格上の日本語』より、語感力を鍛えるための言葉の知識を抜粋してご紹介します。

上野動物園園長の大ウソから始まった!?

日本語に詳しい外国人と一緒に動物園に行くと、時々、こんな質問をされることがあります。

「トラ」「ゾウ」「サル」などは、どうしてそれぞれ「タイガー」「エレファント」「モンキー」という英語名では書いていないのですか?

一方で、「ライオン」は「獅子」という日本語があるのに、「ライオン」と英語名で書かれている。

なんだか、日本の動物園の動物の名前の付け方には、一貫性がないように思えるのですが……というのです。

(写真:iStock.com/galitskaya)

結論から申し上げますが、基本的に古来日本にいる犬や猫、猿や、江戸時代までに日本にやってきた動物は、日本語名で名前が付けられています。これに対して、明治時代以降にはじめて外国からやってきた動物には英語名が付けられているのです。

 

少し、さかのぼって考えてみましょう。

日本で初めて動物園が開園したのは、明治15(1882)年のことでした。今の「恩賜上野動物園」ですが、当時は農商務省博物局が管理していました。

広さも、現在東京ドームの3個分、約14.2ヘクタールの規模を誇り、約五百種類の動物を飼育していますが、当時の敷地はわずか1ヘクタール。

この時飼われていた動物は、キツネ、イノシシ、ヤギ、ヒグマ、たんちようづる、オシドリなど日本にせいそくしている動物ばかりでした。これらの名前は、もともとの日本語の呼び名です。

 

外国産の動物が初めて来日したのは、開園の翌年のことでした。

ちくかんつくが、オーストラリアに寄港した際に捕獲したかもらったか、よく分からないまま連れてきた1匹の「大袋鼠」がそうです。「大袋鼠」では何のことか分かりませんね。これは今で言う「カンガルー」です。

ただ、これは、どうやってカンガルーを連れてきたかが明らかにされず、国際法上の問題にもなりかねないという理由から、えて「カンガルー」と呼ばずに、鼠の変種のような呼び方をすることで、存在をごまかしたようです。

(写真:iStock.com/25ehaag6)

さて、これに続いてドイツの動物園から買い付けて恩賜上野動物園に連れてこられたのが、キリンです。

キリンは、本来なら英語名の「ジラフ」と呼ぶべきものでした。

ところが、「ジラフ」は、非常に高価なものでした。

当時、恩賜上野動物園の予算を管理していたのは宮内省でしたが、「ジラフ」に対して、その予算を執行しようとはしませんでした。

そこで、一案を練ったのが、当時の動物園長(その当時は、「園長」とは言わずに、監督と言いましたが)いしかわまつ(初代監督任期1901~1907)です。

石川は、ここで敢えて「ジラフ」と言わずに、中国古代のれいじゆうとされた「りん」を買ってくるから予算を頂きたいと宮内省に依頼したのです。

「麒麟」は背丈5メートル余り、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄を持つ。背の毛は5色、身体にはうろこあり……。

儒教の経典『礼記』には、王が仁政(じんせい)を行う時に現れる神聖な瑞獣(ずいじゅう)であると記されていますが、あくまで伝説上の生き物なので、当然それを見たことがある人はいません。

石川は、この「キリン」を買ってくるのだから、予算を執行してほしいと、宮内省に依願したのです。めでたい瑞獣を買うと言っているのだから、宮内省はお金を出さない訳にはいきません。

こうして買ってこられた、本当なら「ジラフ」として公開されるべき生き物が「キリン」という名前のまま飼育され、人々の前に登場したのです。

そう考えると、ビールの缶で目にする「麒麟」と動物園にいる「キリン」が似ても似つかない理由がお分かりいただけるでしょう。

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この一言で「YES」を引き出す格上の日本語

「あんなぞんざいな言葉遣いをする人間には任せられない」

誰かの言葉を聞いてそう思ったことはありませんか?
逆に、誰かにそう思われているかも?

言葉にはこれまで培ってきた知性、教養、品性、性格、考え方が宿ります。言葉の感覚を磨く、すなわち「語感力」を鍛えるのは、ビジネスでも必須の要素。『この一言で「YES」を引き出す格上の日本語』より、語感力を鍛えるための言葉の使い分けを抜粋してご紹介します。

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山口謠司

大東文化大学文学部准教授。1963年長崎県生まれ。博士(中国学)。
大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院、ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員を経て現職。専門は、中国文献学。
難解な言葉を分かりやすく解説するスタイルが話題を呼び、『世界ふしぎ発見』や『林先生が驚く初耳学!』などテレビ番組出演も多数。
『日本語を作った男』(集英社インターナショナル)で2016年度和辻哲郎文化賞(一般部門)受賞。
ベストセラー『日本語の奇跡』『ん』(ともに新潮社)、『てんてん』(KADOKAWA)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)など著書多数。

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