子供の頃は勉強嫌い、二十一歳の時に「勉強の価値」なるものを見つけたという人気作家の森博嗣さん。「勉強は楽しくないのは事実」、勉強は「人に勝つためでも、社会的な成功者になるためにするのでもない」。“では何のため?”と社会で聞かれることが多いのは、「勉強という行為の“抽象性”が理解されていないから」。自身の体験と勉強の根本を深く幅広く探究し話題の『勉強の価値』(幻冬舎新書)から、人生後半期のリアルな勉強との向き合い方をピックアップしてお届けします。
「楽しみ」も個人的なものだから
ということで、老人に特におすすめの「勉強」は、個人研究である。
普通の勉強は、既にある知見を学ぶことだ。これは、社会で役に立つものが多い。役に立つものほど、一般的に知識が広く公開されているから、学ぶ環境が整っている。したがって、書籍を繙(ひもと)いたり、あるいはネットで調べたりできる。
一方、研究というのは、世の中に存在しない知見を得る行為である。これを個人で行おうというわけだから、普通の人にはハードルが高い。研究するためには、まずその分野の専門家にならなければならない。既往の知見を網羅して学ぶ必要がある。そのうえで、不明な部分を自分で見つけ、その問題を解決しようとする挑戦が「研究」である。ちょっと考えただけで、尻込みする人が多いことだろう。
そこまで本格的なものでなくても良い。だから「個人研究」と呼んでいる。「趣味(hobby)」に近い行為だと考えていただいてけっこうだ。
役に立つことは、既に誰かが研究している。特に、なにかを開発して、それで利益が得られるようなものは、それを仕事にしている人たちが大勢いる。今からスタートしても太刀打(たちうち)できないだろう。
そうではなく、本当にどうでも良いこと、小さなこと、誰も目を向けないようなことをテーマにして、徹底的に調べたり、あるいは試したりする、というのが個人研究である。
どんなにつまらないことでも、真剣に取り組んでいるうちに、沢山の課題が見えてくる。また、新しい視点に気づいたり、さらには別のテーマにシフトすることもあるだろう。
誰かに指示されて始めるわけではなく、自分で考え、とにかくなにかをやってみること。そのとき、「何をしようか」と考えることも、既に研究の始まりだ。じっくりと時間をかけて考えてもらいたい。
(第4回に続く)
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