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勉強って何のため?

2021.05.05 公開 ポスト

勉強の価値(第3回)

「個人研究」のすすめ森博嗣

子供の頃は勉強嫌い、二十一歳の時に「勉強の価値」なるものを見つけたという人気作家の森博嗣さん。「勉強は楽しくないのは事実」、勉強は「人に勝つためでも、社会的な成功者になるためにするのでもない」。“では何のため?”と社会で聞かれることが多いのは、「勉強という行為の“抽象性”が理解されていないから」。自身の体験と勉強の根本を深く幅広く探究し話題の『勉強の価値』(幻冬舎新書)から、人生後半期のリアルな勉強との向き合い方をピックアップしてお届けします。

 

「楽しみ」も個人的なものだから

(写真:iStock.com/ahmet rauf Ozkul)

ということで、老人に特におすすめの「勉強」は、個人研究である。

普通の勉強は、既にある知見を学ぶことだ。これは、社会で役に立つものが多い。役に立つものほど、一般的に知識が広く公開されているから、学ぶ環境が整っている。したがって、書籍を繙(ひもと)いたり、あるいはネットで調べたりできる。

 

一方、研究というのは、世の中に存在しない知見を得る行為である。これを個人で行おうというわけだから、普通の人にはハードルが高い。研究するためには、まずその分野の専門家にならなければならない。既往の知見を網羅して学ぶ必要がある。そのうえで、不明な部分を自分で見つけ、その問題を解決しようとする挑戦が「研究」である。ちょっと考えただけで、尻込みする人が多いことだろう。

そこまで本格的なものでなくても良い。だから「個人研究」と呼んでいる。「趣味(hobby)」に近い行為だと考えていただいてけっこうだ。

役に立つことは、既に誰かが研究している。特に、なにかを開発して、それで利益が得られるようなものは、それを仕事にしている人たちが大勢いる。今からスタートしても太刀打(たちうち)できないだろう。

そうではなく、本当にどうでも良いこと、小さなこと、誰も目を向けないようなことをテーマにして、徹底的に調べたり、あるいは試したりする、というのが個人研究である。

どんなにつまらないことでも、真剣に取り組んでいるうちに、沢山の課題が見えてくる。また、新しい視点に気づいたり、さらには別のテーマにシフトすることもあるだろう。

誰かに指示されて始めるわけではなく、自分で考え、とにかくなにかをやってみること。そのとき、「何をしようか」と考えることも、既に研究の始まりだ。じっくりと時間をかけて考えてもらいたい。

 

(第4回に続く)

関連書籍

森博嗣『勉強の価値』

勉強が楽しいはずない。特に子供が勉強しないのは「勉強は楽しい」という大人の偽善を見透かしているからである。まず教育者は誤魔化さずこれを認識すべきだ。でなければ子供が教師の演技を馬鹿馬鹿しく思い両者の信頼関係が損なわれる。僕は子供の頃あまりに美化された「勉強」に人生の大事な時間を捧げる必要があるか疑った。が、現在(正確には21歳から)は人は基本的に勉強すべきだと考える。そう至ったのは何故か? 人に勝つため、社会的な成功者になるためではない。ただ一点「個人的な願望」からそう考える理由を、本書で開陳する。

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勉強って何のため?

勉強意欲もわいてくる新年度。とはいえ、そもそも何で勉強するの? したいからする? し続けなければならない理由が? 学びの意義を考える勉強特集。

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森博嗣

一九五七年、愛知県生まれ。作家、工学博士。国立N大学工学部建築学科で研究する傍ら九六年に『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以後、次々と作品を発表、人気作家として不動の地位を築く。おもな新書判エッセィに『自由をつくる 自在に生きる』『創るセンス 工作の思考』『小説家という職業』『自分探しと楽しさについて』(すべて集英社新書)、『大学の話をしましょうか』『ミニチュア庭園鉄道』(ともに中公新書ラクレ)、『科学的とはどういう意味か』『孤独の価値』『作家の収支』『ジャイロモノレール』『悲観する力』(すべて幻冬舎新書)などがある。

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