数々のプロアスリートを顧客に持つパーソナルトレーナー清水忍氏の書籍『ロジカル筋トレ』(幻冬舎新書)が発売即重版となり、話題を呼んでいる。
ここでは本書の一部を抜粋して紹介する。清水氏によれば、ビジネスと筋トレには多くの共通点があるという。
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「ハイスペックな自分」を維持するための筋トレ
最近の筋トレブームを牽引しているのは、アスリートよりも、むしろビジネスパーソンなのかもしれない。
私のトレーニング指導を受けに来る人も、アスリートだけでなく、ここ数年でビジネスパーソンがかなり増えた。
その中には、日々分刻みのスケジュールでハイレベルな仕事をこなしている「エグゼクティブ」と呼ばれるような人々も少なくない。
彼らはどんなに忙しくても、トレーニングの時間はしっかりとる。もっとも、日中は多忙を極めるので、彼らがトレーニングをする時間帯は早朝であることが多い。
朝の早い時点でがっつり筋トレをすると、その日の午前中の仕事をものすごいエネルギーで進めることができるのだという。
どうやら、「早朝筋トレ」の習慣は、ビジネスにおける時間の流れを変えるようだ。
朝早く汗を流すと、もう朝の6時、7時くらいにはベストパフォーマンスを出せる状態になっていて、他の人がまだ寝ぼけまなこであくびをしているような時間帯にガンガンに飛ばして仕事を進めることが可能となる。
なかには、ほかの人たちの仕事の動きがスローモーションに見えるという人もいる。
早朝に限らず、どんなに忙しくても、日中の仕事の合間にトレーニングの時間を確保してジムにいらっしゃる人もいる。トレーニングすることも自己管理の一環であり、ビジネスパーソンに必要なものであるという考えなのである。
それにしても、こうしてトレーニングで汗を流すエグゼクティブの人たちは、筋トレにいったいどんな成果を求めているのか。
話を聞いてみると、やはり日々のハードな仕事に耐えられるように常に自分の体をしっかり管理しておきたいという思いが強いようだ。
もちろん、「もっと筋肉を太くして理想のボディに近づけたい」「他人から一目置かれるような細マッチョの体型を維持していたい」といった願望もあるのだが、単に筋肉をつけるというだけではなく、「忙しい日々を生き抜くために自分という人間を常にハイスペックな状態にキープしていたいから、そのために筋トレをやっている」といった考えを持っている人が多い。
つまり、筋トレがハイレベルな日常生活を送るための、欠かせない手段になっているのである。
実際、食事や歯磨きとほとんど同じような感覚で、トレーニングは「どんなに忙しくても必ずやることのひとつ」として日々のスケジュールに組み込まれていることが多い。
そうやって毎日自分をしっかり管理しているからこそ、彼らは人を動かし、ビジネスを動かし、エグゼクティブと呼ばれるにふさわしい活躍をすることができるのだろう。
私は筋トレには、人を変えていく大きな力があると考えている。
筋肉を盛り上げたり運動能力を上げてパフォーマンスを向上させたりするだけではなく、その人を人間として成長させて、日々たくましく生きていく力をつけてくれるような、そんな大きなパワーが宿っていると考えている。
こうした筋トレの力は、きっとビジネスや人生においてよりいっそうの成功をもたらすきっかけとなるに違いない。
筋トレもビジネスも「PDCAサイクル」を回すことが大事
筋トレには、非常に多くの面でビジネスとの共通項がある。
たとえば、エグゼクティブ系のトレーニング愛好者は、筋トレのことを「ワークアウト」と呼ぶことが多い。
ワークアウトにはもともと「課題をこなす」「やるべきことをやり切る」といった意味合いがあり、例を挙げれば、「さあ、今日はスクワット3セット、レッグプレス2セット、ランジ2セットのワークアウトをするぞ」というように使われる。
だから、その日に予定していたメニューを全部消化できれば、「今日のワークアウト、完了」という感覚になるわけだ。
つまり、彼らにしてみれば、筋トレでのワークアウトは、その日のビジネスで自分がやるべき課題を解決してひとつひとつ片づけていくのと何ら変わらないのである。
日々自分の課題をこなして、計画的に成果を積み重ねていくという点では、筋トレもビジネスもまったく同じだと言ってもいいだろう。
それに、ビジネスの世界では、効率よく成果を上げていくために「PDCAサイクル」を回していく姿勢が重視されている。
ご存じの人も多いと思うが、PDCAは「計画(プラン)」「実行(ドゥー)」「評価(チェック)」「改善(アクション)」の略であり、まず目標や計画を立て、次に行動に移してみて、その行動の結果を評価して、課題点を改善しながらビジネスを進めていくという方法論である。
こういうサイクルで業務を進めていくのが着実に生産性を上げていくための基本とされているのだ。
このPDCAサイクルの流れは、ロジカル筋トレで成果を上げていく場合もまったく一緒だ。
すなわち、最初に長期的なトレーニング計画を立て、その計画通りにトレーニングを実行し、しばらくしたら筋トレ効果が上がっているかどうかをチェックして、見直すべき点があれば改善をして適宜レベルアップをしたりレベルダウンをしたりしていく……。
こうしたサイクルを回していけば、トレーニングの成果を効率よく上げながら自分の目的へ着実に近づいていくことができるわけだ。
このため、私のもとに指導を受けに来るビジネスパーソンは、「筋トレで計画的に成果を出していく流れ」の説明を受けると、“深く納得がいった”という顔をすることが多い。
なかには「効率よく成果を上げるコツはわれわれがやっている仕事とまったく一緒なんですね」と驚嘆の声を上げる人も少なくない。
ロジカルな計画で確かな成果を挙げる
ちょっと典型的な例を挙げてみよう。まったくトレーニング経験のないビジネスパーソンが私のもとに指導を受けに来るというケースだ。
その人は肥満体型で筋肉も少ないが、「脂肪を落としたい」「マッチョになりたい」というふたつの願望を同時に叶えたくてトレーニングにやってきたとしよう。
私は、そういう人には、今後の計画をだいたい次のように話すことにしている。
「筋肉と脂肪は別ものなので、筋肉をつけるトレーニングと脂肪を落とすトレーニングはまったく異なります。筋トレをしても脂肪は減らないんです。
もし、1年間の期間がとれるなら、最初の8か月は筋肉を大きくするトレーニングに専念しましょう。少し脂肪がついているほうが筋肉は早く発達するから、そのほうが好都合なんです。
そして、ある程度筋肉がついてきたら、その時点から脂肪を落とすトレーニングに変更していきます。筋肉がついているほうが脂肪が落ちやすいので、きっと効率よく落としていけるはずです。
だから、いまは筋肉をつけることに専念して、8か月後から一気に体脂肪を減らしてカッコよくしていきましょう」
このように筋道立ててトレーニング計画を話すと、ほとんどの人が“得心がいった”という顔をするのだ。
おそらく、ビジネスパーソンには、いまの自分がどの位置にいて、いまどんなことをすれば、いつ頃どのような展開になっていくかが分かるということが心地よく響くのだろう。
とにかく、仕事も筋トレも、無計画にやったり非合理な方法でがむしゃらにやったりしても成果は上がらない。
「なぜ、これをやるのか」というロジカル性がベースにないと、モチベーションも上がらないし、的外れなことばかりに時間を割いて、めちゃくちゃ大きな遠回りをするハメに陥りかねない。
だから、仕事も筋トレもしっかり計画を立て、自分の目的を見据えて合理的に行なっていく姿勢が必要なのだ。
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