にしのあきひろの待望の新作絵本『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』が、5月31日に発売となった。
どこよりも早く、新作についてのお話をお聞きした。ちなみに、このインタビューが行われたのは、すでに予約の入っている2000冊分のサインをするという作業の真っ最中……。
今回の絵本でも、驚きの新たな試みにチャレンジするのだが、こうした地道な作業もおろそかにしないのが、西野さんなのだ!
(構成:篠原知存 撮影:吉成大輔)
あなたを忘れていない、応援しています―。その気持ちがどうすれば伝わるのか
新作は、再びえんとつ町を舞台にしていますね。
『映画 えんとつ町のプペル』のラストで、えんとつ町の煙が止まります。そうすると、煙を吐き出す燃料を生み出していた炭鉱夫のお仕事が、ごっそりなくなってしまう。
主人公のマルコは、その炭鉱夫だったんです。
時代が変わるときというのは、新しい仕事が生まれますが、なくなっちゃう仕事もある。そういう“割を食った”モンスターの物語が、今回の絵本(『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』)です。
プペルの三年後の話ではありますが、「えんとつ町のプペル2」ということではなくて、今回の絵本には、ゴミ人間や少年は出てきません。えんとつ町を舞台に、枝分かれした別の物語ですね。
前作のヒーローだった主役のプペルとルビッチが、捉え直されているのが印象的です。
そういうことって、実際にあります。
僕は兵庫県川西市という田舎町の出身で、田舎のおじちゃんおばちゃんたちともしゃべります。一方で、東京・港区あたりにいるIT 起業家ともしゃべるんですね。これが結構、板挟みで。
あっちで新しい何かが開発されると、こっちで仕事がなくなっちゃう。誰も悪くはないんですが、一方から見たらヒーローでも、それによって割を食う人は絶対にいて、そこを描きたいなと。
ここから、本書のメッセージへとつながっていますか?
自分が頑張れば頑張るほど、会えなくなっちゃう人がいたりする。
去年熊本で水害があって、僕の主宰しているオンラインサロンのメンバーが被害にあったんです。気が気じゃなくて、すぐに行ってお手伝いしたかったんですけど、東京から動けませんでした。仕事が止まってしまうので、「西野は東京にいろ」と言われる。本音では飛び込んでいきたいのに、距離ができてしまった。
ですが、離れていても、忘れたわけではない。それで、「僕は見てます」「ずっと応援してます」って、どうやったら伝えられるかなと考えました。
なるほど、この物語は、会うことを許されない人に思いを届けるというストーリーですよね!
だから今回も自叙伝なんです。『えんとつ町のプペル』もそうだったんですけど、結局自叙伝しか書けないのかな(笑)。
街から追いやられたマルコは、好きな人と離れざるを得なくなる。遠くからメッセージを伝えるしかない。そういう感じです。
マルコという主人公のキャラクターはとても個性的です。もと炭鉱夫ということですが。
もう言っちゃいますが、えんとつ町の秘密と関係があります。
日が差さないえんとつ町では植物が育たない。でも、(映画を観た人は気づいているかもしれませんが)紙芝居のおじさんが拍子木を鳴らしていたりとか、食卓に野菜があったりとかする。
映画の次回作以降でも明かしていきますが、えんとつ町は、海底トンネルで外とつながっていて、(町の人たちには内緒で)貿易をしているんです。食べ物や木材を輸入して、代わりに電気を輸出していた。
つまり、えんとつ町って超巨大な火力発電所だったんです。
その話、映画の副音声の第二弾でも、たっぷり話してましたね!
その秘密のトンネルを掘っていた労働者がいる。その一人がマルコ。そのことを口外してはいけないので、マルコの口は縫われているんです。(外の世界があることは)黙っておけ、しゃべったらいけない、と。それで、今回の物語の中でも、うまくしゃべれなくなっています。
『みにくいマルコ』はフルカラー作品ですが、カバーと表紙はモノクロ画で驚きました。以前の作品を思い出しました。
これは、以前のモノクロ絵本のように、〇・〇三ミリのボールペンで一ヶ月とかかけて描いたわけではなく、鉛筆でさっと描いただけですけれどね。二、三分あればこれくらいは描けます。
よく誤解されるんですが、分業制で絵本を作るというと、「お前は何も描いてなくて、人にやらせてるんでしょ」みたいなことを言われるんですが、そんなわけがないんです。
スタッフさんに指示を出さなきゃいけない。キャラクターの顔はこうで、動きはこういうふうに、目はこっちを向けて、とか。とにかく描く。
そういうときに描くラフ画の評判が良くて、「もう西野が描いたやつでいいんじゃないか」って言われたりするんですけど(笑)。
すべて、西野さんの絵が基になっているのですね。どんなところで、指示を入れるのですか?
そうですね。どこに体重が入っているかとか、目の動きとか、とにかく細かく指示します。たとえば冒頭で、舞台袖にマルコがいて、その向こうに舞台が見えているシーンがあるんです。
絵描きさんが描いた絵はうまいし、理屈では合ってるかもしれないけど、僕からしたら、こんな光じゃない。
舞台袖から見た舞台って、むっちゃ光ってて、むっちゃ遠いんです。
実際の距離は近いけど、そこに立つまでに下積みで十年とか、かかったりする。だから舞台に立ってる芸人さんは輝いていて、光に包まれてるんです。あれは、舞台袖から見てた人、実際に舞台に出た人じゃないと、わからない。
だからそういうディレクションをします。そういうひとつひとつを、スタッフさんに説明しながら、一枚一枚、絵を仕上げていきます。
作品性が出る部分ですね。
ですから、一枚仕上げるにも、とても時間がかかります。舞台を経験したことがない人に、「舞台の遠さを出してください」っていう発注が、そもそも難しい(笑)。
映画の場合は、僕と廣田裕介監督とスタジオ4℃の田中栄子さんで一年ぐらいディスカッションしている。これはこうで、これがこう、主人公から何がどう見えていて……と、交通整理するのにもそれぐらいかかった。
絵本制作の場合はさすがにそういうことは無理なので、事故も結構あります。その都度、西野が怒るという(笑) 。
今回、特にやりたかったことは何ですか?
この本に出てくる『天才万博』という劇場は実際にあるんですよ。仲間と一緒に毎年、年末に『天才万博』という音楽フェスをやっていて、その劇場をモデルに、今回の絵を起こしました。実際の『天才万博』は、 “えんとつ町にあるライブハウス”という設定で鶯谷にある劇場でやっているんですけど。
自分がやりたいのは、こういうリアルとファンタジーの境界を曖昧にするっていうことなんです。この絵本を読んだ人が行ったら、「ほんとにあるじゃん!」って。「絵本と劇場、どっちが先だっけ?」みたいな。
映画とかで聖地巡礼っていうのがありますよね。その聖地巡礼先の不動産を、先に押さえているという(笑)。
絵本のラストのほうで、女の子が歩いているシーンの背景に、『スナックCandy』というのも出てくるんですけど、これも実際にあるんです。
僕が計画している美術館の近くに。(リアルとファンタジーの)両方をちゃんと作っておくんです。
* * *
インタビュー全編をお読みになりたい方は『小説幻冬 6月号』をご覧ください。
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