にしのあきひろの待望の新作絵本『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』が、5月31日に発売となった。
どこよりも早く、新作についてのお話をお聞きした。
いよいよ、今回の絵本で何にチャレンジするか、の話に入る!
(構成:篠原知存 撮影:吉成大輔)
あえて、前作とは真逆の戦略。アートとしての代替不能な作品価値を、高めていく
西野作品は、そういった仕掛けもとても魅力的です。
アートに価値をつけているもののひとつとして、 “みんなが知っている”っていうことがあると思うんです。
歴史的に意味のある絵などもありますが、教科書に載っているとか、シンプルに有名だっていうことは大きい。「モナリザ」とかゴッホの「ひまわり」とか。
その点で、絵本はアートとの相性がいい。
一定のレベルを超えた絵本って売れ続けていますよね。ランキング上位に五十年前の絵本が並んでいる。子供が産まれるたびに読まれるから、ずっと新規顧客を取り続けて、認知を増やしている。これってすごいなと思って。それで、アートのような打ち出し方で届けようと考えて、まず文章と絵を分けた。
僕自身、実際に国内外で原画展をやって、出口で絵本をおみやげとして売る――というやり方は、結構うまく回っていた。絵本のアートみたいな扱い方はできる。で、もう少し面白いやり方はないかなと考えたのが「NFT」です。
代替できない証票であるNFTは、コピー可能なデジタル作品でもオリジナルを売買できるようになる技術として、アート界で話題です。
本がブックオフとかで転売されるじゃないですか。作品のことを知ってくれる人が増えるので、僕はいいと思います。
ですが、それによって本来二人に売れていたかもしれないものが、一冊しか売れないという面では作者や出版社にとってはうれしくない。
どうすれば転売を前向きに捉えられるかなと考えたら、NFTが一番わかりやすかった。データを転売するとき、たとえば、Aさんが買ったものをBさんに売ったら売価の一〇%が作り手に入るようにプログラミングすれば、転売は作者や出版社にとってうれしいものになる。どんどん転売されるほど売り上げが伸びる。
で、さっきのアートの話になるんですが、そうなっていくと、絵本の認知がどんどん増えていく。歴史が乗っかってくると、価値が上がってくる。
絵のデータを、オンライン上の原画のようなものだと考えれば、価値は上がり続ける。最初は十万円でも、絵本の発行部数が増えてくると、二十万円とか三十万円とかになる。すると持ち主は、どこかのタイミングで売るはずですよね。売った瞬間にお金が入る。
そうしておけば、仮に僕が事故で死んだとしても、この経済活動が止まることはない。売り上げがチームや後輩の活動費に回り続けたら面白いかなと思って。
前作の、著作権フリーの試みとは違うアプローチですね。
逆ですね。「えんとつ町のプペル」は著作権をナァナァにしたんですが、あれは“インターネット前半戦の最終回の打ち手”でした。
あの頃、インターネットが色んなことのシェアを可能にしたことに対して、価値が下がるからいやだっていう声があった。そういう前時代的な考えに対して、シェアしまくって作り手を増やしまくった方がプラスなんじゃないのっていう試みでした。
でも、NFTでネット上のデータの所有権にも限定数を決められるようになった。「このデータの所有者は一人しかない」ということが、ブロックチェーンの技術で可能になった。そうきたら、次はインターネット上でどうやって価値を生んでいくかっていうことの方が面白い。
だから『えんとつ町のプペル』に対して、自ら「いやもうそれって古いよ」っていう(笑)。そういうアンチテーゼですね。
本当は、ちゃんと出版社も一緒に取り組んだ方がいいと思います。作家さんが印税で生きていくってどんどん辛くなってると思うんですよ。単純に人口が減っているので。もっと別のキャッシュポイントを作らないといけない。
今回、NFTでたぶん三点ぐらい絵を売ることになると思うんですけど、金額としては、印税より大きくなると思います。僕は一円もいただかないで、会社の活動費か寄付に回すと決めています。基本、死ぬ前提なので(笑)。もちろん本の宣伝になればいいですし。
西野作品はいつもビジネスとクリエイティビティが連動しています。
これまでに錚々たる表現者の方が数々の名作を生み出してきたじゃないですか。それで図らずも証明されたのは、作品の力では世界は変わらないということ。
言い方を変えると、作品の力で世界が変わる仕組みになっていない。いい作品を作るだけでは世界のトップになれない。
それはそうなんですよ。ルールを作っている人からすると、逆転されたら具合が悪い。いい作品ができたら自分にどんどん取り分が入るようにするのはプラットフォーマーとして当たり前の話です。
なので、世界をひっくり返そうと思ったら、基本的には仕組みから作っていくしかない。印税で生活していく仕組みでは、トップには絶対にたどり着かない。
絵本でどうやって利益を作るのか、なんのために絵本があるのか、そういうことからひとつずつ問い続けていかないといけないんです。
圧倒的な表現には、先にビジネスモデルありき。百点を作り切るクリエイターでありたい
圧倒的な表現って、絶対に先にビジネスモデルがあるんですよ。
例えばネットフリックスがやったことはそうだと思う。まったく違うビジネスモデルだから、ドラマの一話に一億円かけるようなことが可能になった。テレビではそれは無理じゃないですか。ビジネスモデルから作ることで、「なんじゃこれは!」っていうものができる。
クリエイターなら、そこからクリエイトしなきゃいけない。
悪口みたいになると嫌なんですけど、クリエイターなら百点を作り切らないといけないのに、八十点ぐらいまでは(前もって)用意されていて、その上の二十点分ぐらいしか作れていない。
でもやっぱり、ディズニーとかは、自分たちで百点を作り切っているんです。映画の世界を楽しめるテーマパークを作って、そこで楽しんでもらってお金をもらって、また映画を作る。
ああいうのがクリエイターだと思うんですよ。「そこはビジネスだから」って分けちゃったら、一生クリエイティブなことはできない。
舞台でも、チケットの売上だけで舞台を作っているうちは、セットに何億円とかかけられません。それで映像とかプロジェクションマッピングとかに逃げてしまう。
でも、演出家や脚本家、原作者が望んでいるのは、ほんとうにステージの上にえんとつ町が組まれていたり、江戸の町があったりすること。第一希望はそっちのはずです。だったら“第一希望”を狙った方がいい。そのために何がブレーキになっているかを見つけて、それを潰していく。
面白いですよ、考えるのは。しょっちゅう失敗しますけど。僕のオンラインサロンでは、メンバーと制作過程を共有して、プロセスでマネタイズしてしまうようなこともやっている。
たとえばえんとつ町のミュージックビデオは、蜷川実花さんに撮ってもらって、五千万円ぐらいかかっている。
でも完成品は無料で提供している。無料のものに五千万円かけられるって、これまでの世界にはあまりなかったはずです。キャッシュポイントをずらしたら、無料であろうが、とんでもないものが作れる。そういうことからやってますね。
西野さんは、たびたびオンラインサロンで、「お金を払って働く時代が来る」と仰っていますね。
そうそう。いちご狩りですよ。お客さんがお金を払っていちごを狩るでしょう。農家さんからしたら、本来は狩って渡すのも仕事なのに(笑)。いちご狩りみたいなノリで映画を作りたい。だって、みんな映画を作りたいはずなので。
じつは最近、こっそりいくつかのオンラインサロンに入ったんです。現場にお手伝いに行ったらバレると思うんですが、たとえば本広克行監督。月五千円払っていて、チャンスがあったらお手伝いしたい。だって本広監督の映画作りたいでしょう。ここ俺がやってん、とか言いたい(笑)。
蜷川実花さんのお手伝いもやりました。とある映像作品の美術をアルバイトで。やっぱり楽しかったです。
西野さんのゴールはどんなイメージですか?
三百年残るエンタメを作るって言い続けていますが、基本的にはそれですね。
いま、絵本だけでも三つぐらいはゆるやかに同時進行しています。また全然違うチームで『ボトルジョージ』という絵本を進めてます。えんとつ町とは全然違っていて、「そんなに変わる?」「誰の作品?」って感じだと思います。
映画にするかどうかはまだ決まっていないですが、ショートムービーみたいなものになるといいなとか思っています。可愛らしい話なんですよ。酒に飲まれちゃったおっさんの話です。また自叙伝ですね(笑)。
全編をお読みになりたい方は、現在発売中の『小説幻冬』6月号をご覧ください。
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