「まだ人を殺していません」
え? いまなんて言いました?
つい突っ込みたくなるその言葉。もし誰かがその言葉を口走ったら、「え? これから誰か殺しに行くんですか」と
恐怖を感じずにはいられません。突然何を言っているのかと言いますと、こちら、『ジャッジメント』という小説で衝撃デビューされた作家、小林由香さんの最新刊のタイトルなのです。はい、小説のタイトルです。
お察しの通り、ミステリ小説です。人を殺すだの殺さないだの言っているのですからもちろんミステリには違いないのですが、読んでいただいたら、タイトルの意味が、そしてカバーになっている少年へのイメージが、そして読んでいるこちらの色んな思い込みや想像が全て逆転するという大仕掛け。
さて、どんなミステリなのか、どんな仕掛けなのか……。
本書をいち早く読んだ本読みのプロである書店員さんからの絶賛コメントをご紹介。話題の本作を、次回から一部試し読み始めますので乞うご期待!
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明確な正解はない。難しいテーマだな……と思いながら読み進めましたが、この作品の中には紛れもない正解の一つがありました。
小林由香さんの作品にはいつも自分の中のたくさんの感情を掘り起こされたくさん考えさせられますが、今作は特に深く深く考えさせられました。今作を読んだ人とたくさん話をしてみたいです。(SerenDip明屋書店アエル店 武方美佐紀さん)
「まだ人を殺していません」それはその子を守るための主人公の叫びか! 身内から殺人犯が出たらどうなるのか。犯人に子供がいたら、その子はどうなるのか。作者は問いかける。その子を引き取り育てる事にになった主人公の不安と恐怖に揺れる思い。「正しい判断」で子供に接し、「信じて」世界のあらゆる非難から守り抜こうとする強い意志がうかがえる。
この小説は殺人事件の解決を目的としていない。この子が背負ってしまった問題から目をそむけず、共に生きて行こうとする物語だ。そのキッカケの瞬間から、次々に明かされていく真実。最後まで一気読みでした。最後は温かい涙があふれて希望のみえるものでした。感動しました。(平安堂川中島店 平林初美さん)
小林由香さんの作品を読ませていただくのは『救いの森』以来なので、約2年ぶりということになりますが、文章の切れはよりシャープになり、重厚感が増し、まだまだ進化し続ける小林さんを愉しむことが出来ました。この作品も読んでいる最中はやりきれなくせつない感情でいっぱいになるのですが、ラストシーンで、わあ~っと読んでいる私自身が救われて急浮上するんですよね。それから、回想のようにいろんなシーンが思い出される。
やはり、普通のエンタメ小説とは一線を画す。徐々にほぐされていく登場人物たちの謎もあって、そのことが読む手を止めさせません。(勝木書店本部 海東正晴さん)
1ページ目からミステリの森に入り込み、何度も衝撃を受けて、光を求め彷徨いながら、読む手をとめられなかった。
タイトルに込められたテーマの中に、守りたいものがある。表面だけではわからない子どもの気持ち、親の気持ち、本当の気持ちを、みな誰かにわかってほしいのだと、痛いほどに伝わってくる。もがきながら泳いでいく人生に、安らいで微笑むひとときを、花束にして贈りたい。
ママ友の毒、世間の毒を小説にする効果は、現代社会に生きる母子への優しさではないでしょうか。
小林由香作品に込められたメッセージに胸震え、ずっと追い続けている作家さんです。心情迫る母子ミステリからは目が離せない!(うさぎや矢板店 山田恵理子さん)
言葉にできない感情と熱量が胸に込み上げ、涙が止まりませんでした……。1度目拝見させていただいた際は、タイトルと冒頭の不穏な空気に飲み込まれるように、物語の結末が気になりすぎて、気づくと頁を必死にめくっていました。衝撃のストーリーに心臓が波打ち、ラストは涙涙でした。2度目拝見させていただくと、1度目はドキドキしていた良世君の行動が全て意味ある事を実感すると共に、翔子さん、美咲希ちゃん、勝矢さん、みなさんの心の機微が、私の心の中にもどんどん溢れて重なりました。みなさんに少し近づけた感じがしてもう一度読みたくなります!
そして、3度目は繊細で優しく、温かな感情のベールに心がすっぽり包まれました。体だけでなく、私たちの感情は多くの方に育てていただいているという事、自分では考えられない相手の一面性を見て、時に怖くなったり逃げだしたりしたい事もありますが、それはきっと意味があって、少しでも相手の気持ちを想像してみる、寄り添い心を傾けることが大切ではないかという事を教えていただけました。
キャンバスに描かれ続ける完成しない絵のように、人の心もどんどん塗り替えられていく。暗かったり、明るかったり、さまざまな色合いで塗られていくからこそ成長し続けていけます。そしてどんなに色濃く染まっても、自分の気持ち次第で何度でもまっさらなキャンバスからスタートすることができるという事を作品を通して深く実感しました。1日に3度も拝読させていただいた作品は初めてです! この作品は生きていく私たちへの道しるべだと思います!
作中にある「プレゼントをもらえなかった子どもはどうすればいい。」という言葉は、今を生きる大人にもあてはまる方がいるかもしれません…ですが作品を読んでいただければ、きっと感じ、考え、何度でも、少しでも前に進む希望の灯りになると存じます!(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん)
自分の子供ですら、こんな言葉どこで覚えたの? と疑問に思う瞬間があるので、姉の子供とはいえ自分の子供でない良世くんを養育する翔子さんの心痛は察して余りありました。
少しずつでも理解できたかなと思う矢先のUSBの存在はこれまでの数か月をあっという間に無にするくらい衝撃的だったと想像します。小説の中であるので、実際に”あの事件の犯人の息子”だとわかっても接し方を変えないであげて欲しいと思うけれど、大多数の人間が高橋君のお母さんや彩芽さんみたいに手のひら返しなんだろうなと思ってしまう…。人の心は難しい…。そういう対応を自分がされたときのことは全く考えないんだろうなと、どうしてもここに行き着いてしまいました。(書泉ブックタワー 飯田和之さん)
完全に騙された。作者の罠にハマってしまった。
いや、正しくは騙されたというよりも、私もバイアスを持って良世を「殺人犯の息子」として見てしまっていたんだろう。
そしてこれが、現実の世界でも行われていること。良世たちにぶつけられる「やっぱり父親がおかしいから、問題のある子になったのよ」という言葉がまさにそう。
仮に近所に殺人犯の子どもが引っ越してきたら? その事実を知ったうえで何事もなく普通に接することができるか?
周囲の人がこそこそと「あの子は危ない」と言っていたら「そんなことないよ」と言ってあげられるか?
自分が試されている気分になった。
そして実際に、親から愛情を受けずに育ってしまった子どもたちをどうしたら救ってあげられるだろう。翔子が言うように「誰が責められるというのだろう」。確かに幼い子供を責められはしない。けれど万が一その子が人を傷つけたら、それを許すことはできない。そんな負の連鎖を止める方法は存在するのか?
まだ2作しか読んでいないけれど、小林先生は本当に子どもの問題に切り込んでいくなあという印象を持った。(積文館書店 松本愛さん)
タイトルの「まだ人を殺していません」。その想いがラスト2行に凝縮されていて、胸にグッとくるものがあった。5年前のデビュー作「ジャッジメント」は強烈に惚れ込み本屋大賞一次投票では1位に投票させていただいた。その作品に勝るとも劣らない本作。小林由香、目を離せない作家である。(本の王国 南安城店 莨谷俊幸さん)
予想はことごとく覆えされました。自分の考えの至らなさに良世くんに謝らないといけません。人が人と接し育てること。言葉にすることの重みを噛み締めています。(文教堂北野店 若木ひとえさん)
今までの作品にも、酷いことをする子どもが出てくる事はありましたが、ここまで邪悪だと感じさせる子供が出てきたのは初めてのような気がして、とても不安な気持ちにさせられました。親子だからと言って必ず理解し合えるはずはなく、自分の子供だからといって100%理解できるわけでもない。そして、子供より大人の方が良く分かっている訳でもない。
今の世の中、人を育てることも、生き抜いていくことも大変ですが、信じられる良い大人が、子供たちの近くにいることを願わずにはいられません。(ダイハン書房本店 山ノ上純さん)
ミステリは謎解きが主眼だ。たとえ子供が主役でも同じ道理だと思っていたら、物語の半ばにこんな言葉があった。
「世界中の親に相談したい気分だった」
わかる。私も子育て中何度も感じた。虚構の世界の人物に深く共感した。でもこれミステリだよね。
猟奇的展開、ネット上のいじめ等盛り沢山なストーリーの中に、真実の言葉が挟まれる。「親だって失敗します」「大人だからと言って完璧に生きられるわけではありません」などなど。
いちいち肯定しながら読んだ。そしてたとえ子供といえど、自分を守る術を身につけなければならないという大切な教え。綺麗事では済まされない、人生に向き合う作者の覚悟を感じた。(みどり書房白河店 矢野隆子さん)
罪と救済を描く著者の一貫して「生きていてほしい」という思いが今作もまたずしりと伝わってくる作品でした。そして日々流れてくるニュースは他人事でなく自分も世間の目の一つなんだと気付かせてもくれる作品。大切な人のため、自分を大切にするためぜひ読んでもらいたい。(丸善 八尾アリオ店 大江佐知子さん)
まだ人を殺していません
書き下ろし感動ミステリ『まだ人を殺していません』(小林由香著)の刊行記念特集です。