人気占い師、真木あかりさんの新刊 『2021年下半期 12星座別あなたの運勢』より、
<全体運>
人生で一番深く「潜る」夏
海をゆうゆうと泳ぐくじらが、その生涯をまっとうして深海に沈むと、サメをはじめとするさまざまな生き物がその身を食べにきます。大きな体はごちそうなのです。カニやタコといった深海の生き物たちが満腹になると、次は貝類などもっと小さな生き物がやってきます。そのあとは細菌たちが賑やかに子孫を繁栄させていくすみかとなります。始まりから終わりまでは20年程度とも、数十年とも言われます。光の届かない、静かな静かな冷たい海の底。くじらは長い時間をかけてその身を海の仲間たちに分け与え、海の秩序を保っていくのです。
下半期の運勢を読み始めたつもりが、「もしかしてネイチャー雑誌と間違えたのだろうか?」と心配になった方がいらっしゃったら恐縮です。こんなエピソードを引き合いに出したのは、この7月はおそらく、おひつじ座の人が人生でも一番と言えるほど深く、自分のなかに「潜る」とき、となっているからです。そこは心の奥深くであると同時に、「過去」という別軸の深さも持っていることでしょう。そして、自分が今までに得たもの、培ったものと向き合い、「経験を糧とする」というプロセスを踏んでいくのだろうと思います。
経験を糧とする――よく使われる言葉ではありますが、実はその段階はいくつかあるのだろうと私は考えています。たとえば、料理で秋刀魚を火だるまにしたら次からは慎重にやるようになるでしょう。仕事で大失敗したのがきっかけで、猛烈に勉強をしてトップに上り詰める人もいます。こうした日々の「糧」化とは別の、数年から10年単位にわたる「糧」化のプロセスも、あると思うのです。
たとえば、何年も引きずった恋の痛手。受け入れられるまでに長い時間がかかった、先輩の助言。対人関係で学んだ学びの数々。すでに終わったことなのに、記憶という海底に沈んだまま確かに存在していて、ふとしたときに思い出されたり、「何年経っても納得できんな」と思ったり、悲しんだりします。でも気づくと「あれもまあ、自分に必要な経験だったよね」と思えるようになったりするのです。
心をひとつの海とするならば、目まぐるしく生まれて世代交代する小さな魚たちは日々の経験であり、私たちに教訓や日々の指針、楽しみを与えてくれます。それと同時にくじらや大型魚のような大きな経験も営まれています。そしてその経験が終わりを迎えるとくじらは音もなく海底に沈み、それを中心とした生態系ができあがっていきます。食べられ、分解され、そのたびに海は――心は、少し豊かになる。経験を少しずつ、少しずつ自分のものにするとは、そういうことではないでしょうか。そのスピードはとても遅くて、普段はちっとも意識にはのぼりません。ただ、ふと未来に惑い海に沈むと、「あの経験が、確かに私の一部となっていたのだ」ということに気づくことができます。
おひつじ座の人がこの7月、深く「潜る」ようになるというのは、必ずしも絶望したり孤独になったりすることを意味してはいません。自分を否定することでも、悲しみに襲われることでもないだろうと思います。むしろ、これまでに経験したこと、考えたことの決して明るくない部分も優しく受け入れるような、優しい時間だろうと思います。
ただ、潜るときはひとりです。誰かが一緒に潜ってくれるわけではありません。その関係で、ちょっと人付き合いが煩わしく感じられたり、ひとりでいたいという気持ちが強まったりするだろうと思いますが、そんな自分をワガママだとか、勝手だとか思う必要はまったくありません。むしろ「ああ、くじらを見に行くときがやってきたのだ」と肯定的に考えてみるとよろしいかと思います。
自由に生きていくための、人間関係のレッスン
8月から10月は、身近な人々との関係が濃く、深くなっていきます。恋人やパートナー、仕事相手など特別に濃いつながりがある相手とは、「アツくぶつかり合う」という表現がとてもよく似合う時期です。恋愛については、恋愛運のところで書きますので詳しくはそちらをご覧ください。ここでは同時にスポットライトが当たる、「ヨコのつながり」の人々とのことに目を向けていきたいと思います。たとえば友達や仲間、仕事でいえば同僚や動機など親しい人たちのことです。
もともと2021年という年は、そうした人々との関係が濃く、深く紡がれていく時期にあたっていました。お互いが独立した「個」でありながら、活かし合っていい関係を作っていく。まさに「知性とネットワーク、個人」に重点が置かれる「風の時代」を象徴するような流れが起きていたのですが、8月から10月上旬にかけては人間関係における「やりづらさ」「生きづらさ」と向き合い、自分に合わせてチューニングしていくような流れが起こることになっています。SNSでもリアルでも、広げすぎた人間関係については見直しと、植物でいう「剪定」のような流れが起こります。人とつながれば、嬉しいことも増えますが煩わしいこともまた増えるもの。自分にはちょっと合わなかったなと、使うサービスや接する人を減らしてみる試みは、非常に得るものが大きいのかなと思います。小学校で「友達ひゃくにんできるかな」と『一年生になったら』の歌を歌ったときから、私たちはなんとなく友達は多いほうがいいとか、人脈の価値とかいったものを刷り込まれています。その発想を、ブラッシュアップしてみるのもいいのかもしれません。
おひつじ座の人は2011年あたりから、自我と格闘するような場面が多くありました。2011年から2019年春までは本当の意味での自由を渇望し、2020年下半期の半年間は自分を燃やし尽くすようなエネルギッシュかつ多忙な日々が訪れてきました。この8月から10月は、そうした日々に磨き上げてきた「自分」が、どんな個として他人と関わり合っていきたいのか、今一度価値観を問い直すような時期となるかもしれません。人はひとりでは生きられない、というのは誰もが知っていることです。それでも、この時期のあなたがおかしいと思った人は、おかしいのです。そう判断するほどには“自分”は磨き上げられているはずですから、心のミュート機能やブロック機能を上手に使っていきましょう。それは、10月中旬からの日々を充実させることでもあります。
人とかかわることの、未来を見つめる
10月も中旬が近づいてくると、次第に身辺が賑やかになってきます。ここから年末まで、「人とかかわることは煩わしさも伴うけれど、それでも喜びのほうがきっと多いのだ」と、明るい展望を持てる人が多いだろうと思います。おそらくですが、この時期のあなたは人と関わることで「ちょっと人生ナメてたこと」を突かれてうぐぐ、となるのかもしれません。いえ、あなたが「人生ナメくさってる」と言いたいわけではないのですが、この時期はどうにも「未来に対する楽観」「人への期待」がふわりと広がりやすく、そこをチクリと気づかせてくれるような人に恵まれる、ということになります。この時期は、いいねいいねと背中を押してくれる人よりも、厳しい言葉を投げかけてくれる人こそが、真に「あなたのため」を思ってくれているのかもしれません。忠告やアドバイスは、一応でもいいので耳を傾けておきましょうか。自分が選ばなかった人生を歩んだ人は、自分とは違う視点でものを見ています。そこから学べることというのはきっと、少なくないのでしょう。それは、誰かとともに生きる価値でもありますね。
ちょっと不吉なことを書きましたが、基本的には楽しく充実している時期なので安心してください。個を大切にしながら、同じビジョンを見つめて社会に貢献していく喜びを得られる、そんな時期です。枠にはめられるのではなく個を自由に生きながら、これからを見つめていけます。サン・テグジュペリは『人間の土地』において「人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ」と書いていますが、まさにそんな実感を得られることは多いのだろうと思います。
さて、年末も押し迫った12月29日を境に、あなたはふたたび深海に心を向けるようになるかもしれません。静かで暗い海底へ、ふたたび。
実は今回、おひつじ座のみなさんの下半期を考えるとき、私が冒頭に書いたくじらのお話を思い出したのは、2022年5月に新たなターニングポイントが訪れることになっているためです。12年ぶりに、あなたの星座に「幸運と拡大の星」と呼ばれる木星が巡ってくるのです。いってみれば12年にわたり続いていたひとつの成長サイクルが終わりを迎え、また新たに始まる年なのですね。くじらを中心に生まれた生態系は20年、あるいは数十年かけて成長し、海を豊かにしていくと冒頭のあたりに書きました。それがこの12年、大小さまざまな経験を重ね、今もまだそれを自分の糧にしようと日々を営むおひつじ座のイメージと、一致したのです。
受け入れるのに、長い時間がかかったあの経験。どうしても許せなかったこと。学びだと思っても、どうにも心にしっくりこなかった知識。そうしたくじらたちが、今もあなたの心を豊かにしつつあります。終わったけれど、活かされている。年末にそこにふたたび注目する時間が多くなります。おそらくですが、2021年の夏に考えたことはあなたが自分を理解する頼もしい道具になるでしょう。夏のあいだはいささか現実的な視点が強く「見てやるぜ!」という感じもあったかもしれませんが、この年末からの日々は少しことなります。優しく包み込むような視線で見ていくことになるでしょう。ときにソフトフォーカスで自身の成長を信じてみることも、大事になっていくのでしょう。自分が培った「糧」を、どうぞ大切に慈しんであげてください。世界にひとつだけの、宝物ですから。
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電子書籍『2021年下半期 あなたの運勢』では、ここまでにご紹介した全体運に加えて「仕事運」「恋愛運」
月ごとの具体的なアドバイスも掲載しておりますので、ご覧いただければ幸いです。