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中国経済の属国ニッポン

2021.06.15 公開 ポスト

G7声明に「台湾海峡」の平和明記。中国の野心の根本にある考えかたとは加谷珪一(経済評論家)

6月13日に閉幕した主要7カ国首脳会議(G7サミット)。首脳宣言では、覇権主義的な行動を強める中国を念頭に、台湾海峡の平和と安定の重要性について初めて言及しました。5月26日に発売された『中国経済の属国ニッポン』で、著者の加谷珪一さんは、地政学的な観点から中国の対外戦略を分析しています。なぜ中国は、台湾や尖閣諸島周辺で挑発的な行動を繰り返すのか。内容を一部ご紹介します。

*   *   *

中国の外交政策の基本は「冊封」

地政学的な分析を行う際に、避けて通ることができないのが歴史です。中国の歴史は非常に長いですし、時代によって状況も変わります。ある国の歴史を一言で分析するのは少々乱暴ではありますが、一方で、時代を通して存在し続ける現象や概念もあります。

(写真:iStock.com/Vector)

対外的な覇権という部分にテーマを絞った場合、中国という国をもっとも明確に特徴づけているのが、「冊封」と呼ばれる制度であることは、多くの人が同意するのではないかと思います。

中国は、中華思想という言葉にも代表されるように、自らが世界の中心であるという世界観を持っています。このため、中国に対して朝貢してきた国に対しては、その統治者がその国の王であることを承認し、お墨付きを与えるという行為をします。こうした宗主国と朝貢国の関係を基本とした外交政策を「冊封」と呼びます。

(写真:iStock.com/tcly)

中国の冊封は、周辺国をすべて統一し、中国にしてしまうという考え方には立脚していません。中国は、あくまで宗主国と朝貢国という関係を崩さず、相手国が頭さえ下げてくれば、過度に内政には干渉せず、異なる国であるとしてしっかり線引きします。

なぜこのようなやり方になっているのかについては様々な見方がありますが、先ほどの中華思想という価値観が大きく影響していることは間違いありません。

 

中華思想を突き詰めて考えれば、中国人以外が、中国のように振る舞うことはできないということになりますから、周辺国を中国にしてしまうという発想は出てこないのです。

周辺国すべてを制圧するつもりはない

このようなスタンスの背景には、周辺国をすべて軍事的に制圧するコストが高すぎるという経済合理性に基づく判断もありますが、自分たちは特別な存在であるというプライドが大きく影響していると考えられます。その証拠に、冊封では、周辺国が献上する貢ぎ物に対して、中国側は2倍、3倍の品を返していました。上に立つものは、下のものに対して、鷹揚に振る舞うという発想なのでしょう。

現代の中国は共産党政権ですが、民主国家ではないという点で、その本質は君主制とそれほど変わりません。毛沢東氏から習近平氏に至るまでの中国共産党の歴代指導者たちは、しばしば歴史を引き合いに出しますから、今でも歴史的な感覚は中国の指導者の中で共有されていると考えるべきでしょう。

中国が定める戦力展開の目標ライン

現在の中国における国防方針に、この冊封の考え方を組み合わせるとひとつの到達点が見えてきます。近年、中国は、第一列島線、第二列島線という戦力展開の目標ラインを明確に定めています。

第一列島線は、沖縄、台湾、フィリピン、ベトナムと続くラインで、第二列島線は、日本から小笠原諸島、グアムを結んだラインです。

中国は1992年に「領海法」という国内法を成立させていますが、その内容は、尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島の領有権を主張するものでした。さらに時代を遡って1950年前後には、南シナ界の海域について九段線と呼ばれるエリアを一方的に設定し、自国の水域であると主張してきました。

(写真:iStock.com/IgorSPb)

領海法で示された海域や九段線で示された海域は、ほぼ第一列島線とイコールになっています。つまり中国はこの第一列島線より内側を完全に自国と捉え、絶対的な制海権を確保するつもりのようです。第二列島線は、第一列島線を防衛するための最前線という位置づけになるでしょう。

経済・軍事両面で圧力強める

この第一列島線の内側に位置する国は、おそらく中国にとって冊封の対象になると考えられます。中国はこのところ東南アジア各国に莫大な金額の経済援助を行っており、米国と日本が主導するアジア開発銀行に対抗するため、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しました。

日本国内ではAIIBはうまくいかないという願望に基づく分析ばかりでしたが、AIIBは着実に成果を上げており、2021年1月には、何とアジア開発銀行が、コロナ対策支援においてAIIBとの協調融資を実施することになりました。日米両政府のアジア支援拠点だったアジア開発銀行ですら、AIIBの存在抜きには活動が難しくなっている現実が浮かび上がります。

(写真:iStock.com/fpdress)

中国は、今後、第一列島線に接する国々には、中国への「朝貢」を強く求めてくるでしょう。中国との協力関係を明確にした国に対しては、莫大な経済的見返りを提供する可能性が高いと思われます。

一方、この方針に反発する国に対しては、軍事的圧力を強めてくることが予想されます。中国が朝貢を求める第一列島線に接する国の中に、東南アジアや韓国、台湾、フィリピンが含まれるのは明白です。問題は日本ですが、尖閣諸島や沖縄は、今のままでは対象に含まれてしまいますが、日本列島全域はこの領域に入っていません。

アジアへの関心を低下させる米国

地政学的には、日本列島と沖縄をいかにして第一列島線の内側に位置づけられないようにするのかがカギを握ります。

先ほど、中国は歴史上、冊封を基本的な外交政策に据えてきたと説明しましたが、実は冊封に応じなくても、利害関係が少ない国は何もせず放置していました。そして、放置していた国の代表がこの日本です。

日本が率先して中国の支配下に入るのであれば話は別ですが、この戦略を望む日本人は少数派でしょう。一方で中国の経済力や軍事力はあまりにも強大であり、厳然たる事実として中国と全面対決する手段は日本にはもはや残されていません

 

第一列島線が冊封政策の境界線なのだとすると、その対象外であれば、中国はそれほど大きな関心を寄せないと解釈することもできます。

(写真:iStock.com/vadimmmus)

米国は基本的にアジア太平洋地域への関心を低下させており、その流れはバイデン政権でも変わらないでしょう。そうなると、米国がアジア太平洋地域の軍事的プレゼンスを放棄する可能性は十分にあり、その場合、日米安保は事実上、有名無実化してしまいます。

米国による中国封じ込めが期待できなくなった場合、日本が選択できる道はおのずと限られます。しかしながら、日本が中国にとって微妙な場所に位置していることは、対中交渉において有益な材料となるでしょう。

関連書籍

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』

2030年にも、中国はGDP(国内総生産)で米国を抜き、世界一の経済大国になる。2021年、結党100周年を迎えた中国共産党は、歴史的な政策転換を提示。それは、中国を中心にしたブロック経済を構築し、米国や日本抜きでも成長し続けるという内容だ。さらに、テクノロジーや軍事力でも、中国が米国に取って代わる日が近づく。一方で、近年の日本経済は「爆買い」など、中国に大きく依存してきた。隣国の覇権獲得は、日本が今後、中国の土俵の上で外交やビジネスの遂行を強いられることを意味する。このまま日本は中国の属国に成り下がるのか? 数多のデータから、中国の覇権国家化の現状と、我が国にもたらす影響を見通す。

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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