日本人にとって、国民的な病のひとつとなっている認知症。放送後、たちまち大反響を呼んだ「認知症行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」(NHKスペシャル)を書籍化した『認知症・行方不明者1万人の衝撃』は、認知症を原因とする徘徊、失踪の問題に深くメスを入れたノンフィクションだ。超高齢社会を迎えたいま、誰もが当事者になりうるこの問題。本書を読んで、その実態と解決策をぜひ知っていただきたいと思う。
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昼と夜のリズムを整える
介護をする家族が最も悩むことの一つが、夜間の徘徊です。
アルツハイマー型の認知症の方は、自分がどこにいるかを把握する力が弱くなるため、暗くなって周囲が見えなくなると、迷いやすくなり帰れなくなってしまいます。家族は、夜に出かけようとするのを止めたり付き添ったりして、眠れなくなり疲れ切ってしまいます。
こうした場合にどう対処すればいいのでしょうか。
徘徊など、認知症の行動・心理症状の研究で第一人者と言われる、熊本大学教授の池田学さんは、昼と夜が逆転していることに注目すべきだといいます。
「一番、大切なのが、昼と夜のリズムを整えることです。昼間なら、慣れた環境の場合、自宅に戻れることも多いのです。しかし、明かりの少ない夜だと、健康な人でも難しいぐらいですから、当然、認知症の人だと、昼間なら分かっていた道が認識できなくなり、行方不明になってしまうのです。昼間なら様々な対策を立てられるし、本人の望むようにもさせられます」
家庭で、昼と夜のリズムを整える方法としては以下の方法などがあるということです。
・午前中に日光を浴びる
・寝る際に室温や明るさを適度に調整する
・昼寝は、二〇分程度に短くする
・適度な運動を行う
介護保険のサービスを活用する
さらに、池田さんが勧めるのは、ショートステイの活用です。ショートステイは、一週間など短期間、介護施設に預かってもらえるサービスです。
「プロの介護スタッフに徹底的に関わってもらい、昼寝を最小限にして体力も使ってもらい、夜は自然にゆっくりと眠ってもらう。そんな昼と夜のリズムの再構築を目指します。重要なのは、ご家族やケアマネージャーさん、かかりつけのお医者さんなどから、ショートステイの介護スタッフに、昼と夜のリズムを整えたいという目的を正確に伝えてもらい、介護技術を十分に生かしてもらうことです」
ショートステイを使っても、昼寝をして夜中に施設で歩き回ってしまうことが続くと、自宅に戻ってきても同じ状態のままです。
昼と夜の逆転を解決するためには、介護サービスを利用する狙いをハッキリと伝え、それに対応してくれる施設にお願いすることが大切です。
池田さんは、「治療的なアプローチとして、介護サービスを使うという意識です。症状の基盤を理解した上で、安全性が確保されている施設で、プロの介護をしてもらうのです。もちろん家族による介護は、その人の生活スタイルや好みも全部ご存じなので、個別の対応という意味では上手にできることも多いと思います。したがってプロには、家族でできないことをお願いしないと、もったいないですよね」と話します。
介護保険のサービスの活用は、「夕暮れ症候群」の対処法としても有用です。これは、夕暮れ時になると、落ち着かなくなり、「家に帰って夕食の支度をしなければ」「会社に行きます」などと言って、家から出ていこうとするもので、実際に行方不明になってしまうケースもあります。
こうした場合には、デイサービスの延長サービスや小規模多機能型居宅介護と呼ばれるサービスを活用します。
通常のデイサービスだと、午後五時よりも前、午後三時台~四時台に自宅に帰るので、夕暮れ症候群が出てくる時間帯に家族が引き受けることになります。しかし、延長サービスを利用して、午後七時頃まで預かってもらえば、最も活発な時間帯は、プロが見守ってくれるというわけです。
小規模多機能型居宅介護は、事業所に通ったり泊まったりを柔軟に使い分けられるサービスで、今、全国で増えてきています。このサービスは、個別の事情に応じて利用時間を変えてもらえますので、夕暮れ症候群がおさまるまで預かってもらうことが可能です。
こうした介護サービスを利用する場合、すぐに予約が取れなかったり、近くに事業所がなかったりすることもあります。それでも、ケアマネージャーさんに粘り強くお願いすれば、きっと見つけてくれるはずです。
認知症・行方不明者1万人の衝撃
日本人にとって、国民的な病のひとつとなっている認知症。放送後、たちまち大反響を呼んだ「認知症行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」(NHKスペシャル)を書籍化した『認知症・行方不明者1万人の衝撃』は、認知症を原因とする徘徊、失踪の問題に深くメスを入れたノンフィクションだ。超高齢社会を迎えたいま、誰もが当事者になりうるこの問題。本書を読んで、その実態と解決策をぜひ知っていただきたいと思う。