森美術館で開催中の「アナザーエナジー展」を見てきました。
「挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」というタイトルがつけられているように、今なお世界各地で挑戦を続ける高齢女性アーティストたちの展覧会となっています。
たとえば、出展作家中最高齢であるカルメン・ヘレラは1915年生まれ。明快な色彩と幾何学的な図形の絵画や彫刻作品の制作を、106歳になった現在でも行っています。
ニューヨークで1950年代から活躍していた彼女は、ミニマリズムの先駆的なアーティストのひとりです。しかし、会場で見ることができるインタヴューでは、彼女が女性ギャラリストから「あなたは女性だから、うちのギャラリーで個展をすることはできない」と差別を受けた経験を語っています。何回聞いてもうんざりする類の話ですが、残念ながらぶっちゃけ今でも全然ありうることですよね。
彼女のエピソードが示すように、本展覧会の出展作家たちは、こうしたジェンダーの不平等によって編まれてきた美術史に自らの表現で果敢に挑んできたのです。
さて、わたしが今回の展覧会で印象的だったのは、彼女たちの多くが「なぜ作るのか?」という問いに対して「それに答えられるなら作っていない、文章で伝えられることならば作る必要はない、アートはアートとして伝えるべきなのだ」という趣旨のことを語っていたこと(わたしがアートについて文章を書くとき、本当にこのことに悩まされたり励まされたりしています)。
彼女たちは豊かな言葉を持っていて、非常に説得力のある語り口で自らの制作について話しています。しかし、ふと会場を見渡すと、彼女たち自身にさえもやっぱり語り得ないエネルギーが作品からほとばしるのを感じます。
たとえば、とくに楽しみにしていた作家のひとりであるミリアム・カーンの絵画《美しいブルー》では、人物が配されていない背景部分のグラデーションに恐るべき海の深さと、わたしたちを楽観的にさせる海の広さを体感させられました。
三島喜美代の《作品92-N》は、陶器で作った新聞紙や雑誌を古紙回収のように積みあげることで、使用済みの「情報」にわたしたちを圧倒するような重さを与えています。
深さ、広さ、重さ、それぞれを会場で、作品を目の前にして感じてもらえたらと思います。
このように彼女たちの表現は、同時代にすでに巨匠として評価されていた男性の作家たちと比較しても遜色なく、非常に重要なものであるにもかかわらず、彼らほど丁寧には扱われてきませんでした。
かく言うわたしも、自分の頭のなかにある美術史がやはり男性作家を中心としたものであり、それを内面化してしまっていることに、はっとさせられました。こうした頭で見ると、本展で提示される作家の実践は、やはり「アナザー」な美術史を編むものに見えてしまうのですが、彼女たちの実践を「アナザー」と呼称することがなくなることこそ、わたしたちの掲げるべき目標ですよね。
自分にインストールされている美術史を書き換えること、あるいは既存の美術史とは別(アナザー)の美術史をそれぞれが自覚的に持つこと、そしてアナザーであるからこそのエネルギーを奮わせ続けることが、当面の間、わたしができることなのかもしれません。
最後に、今回一番のお気に入りの作品は、空間全体を楽しめるセンガ・ネングディの映像作品《ワープ・トランス》でした!
ではまた!
アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人
Another Energy: Power to Continue Challenging - 16 Women Artists from around the World
会期:2021年4月22日(木)- 2022年1月16日(日) 会期中無休
開館時間:10:00 - 20:00(火曜日のみ17:00まで/入場は閉館の30分前まで)*当面、時間を短縮して営業
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F)
料金:当日窓口・一般 2000円(2200円)/高校・大学生1300円(1400円)/4歳~中学生700円(800円)/65歳以上1700円(1900円) *( )内は土・日・休日料金
*事前予約制(日時指定券)を導入、詳細はウェブサイトへ
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
web:https://www.mori.art.museum
*最新情報はウェブサイトをご確認ください
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