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特別企画

2014.04.21 公開 ポスト

『終電ごはん』DVD発売記念
佐久間宣行×岩井秀人×梅津有希子 鼎談
第2回 夫婦の真実は、食卓の会話にあり
岩井秀人/梅津有希子(編集者・ライター)/佐久間宣行

第1回の記事:一皿からストーリーを作るということ

 

セリフとアドリブの壁をなくす

佐久間:一番最初、岩井さんにお願いする前に、3人の関係性だけ考えていました。終電でご飯を食べなきゃいけないから、ちょっと郊外の一軒家で共働き。それだけでは、物語が手詰まるだろうから、厄介者のお姉さんとかいた方がいいよねって。それで、プロデューサーの渡辺くんが「厄介者のお姉さんだったら!」と推薦したのが佐藤仁美さん。若林くんにお願いすることは、最初から決めてました。

梅津:なぜ若林さんだったんですか?

佐久間:夫婦とか、結婚とかのにおいがしない人がいいと思ったんです。

岩井:確かにしないなあ。

佐久間:佐藤仁美さんは、実は若林くんより年下なんだけど、プロデューサーに「絶対おすすめだ」と言われて、その言葉を信じてお願いしました。

梅津:奥さん役はどうやって決まったんですか?

佐久間:みんなで話し合うなかで、酒井さんの名前が出たんだけど、結構ふざけた感じになるから、受けてくれないんじゃないかなと思っていたんです。そうしたら、快く受けてくださった。最終的には現場を引っ張ってくださった感じですね。

岩井:すごかったですね。

佐久間:酒井さんが相手だと、若林くんが自然な表情を出せるんですよ。たとえば、酒井さんは、アドリブのブロックで、ちゃんと笑うんですよね。

梅津:私も現場を一度見に行かせていただいたんですけど、みなさん、自然に笑ってらっしゃるのが印象的でした。

佐久間:おそらく、テイストを早めに掴んで、意識的に笑ってくださったんだと思います。

岩井:「台本をそのまんまやってるんじゃない感じ」って、すごくわかりやすく出るんですよね。

梅津:テレビで観ていても、どこまでが台本でどこまでがアドリブなんだって分からなかったです。

岩井:僕も、この台本、俺が書いたかな? と思ってしまうくらいでした。でもそれが狙いでもあった。

佐久間:そうそう。

岩井:僕も佐久間さんも、「やっぱり猫が好き」が好きだったんです。あのドラマって、最初から最後まで、台本があるのかすら、分からないじゃないですか。その感じで、と言われていたので、一応セリフは書いたけど、あんまり台本通りに行ってほしくはなかった。

佐久間:そう。岩井さんの書いてる台本が面白くて、それでまず笑っちゃうんだよね。だから、逆に、リハはそんなにやらなかった。1回リハをやってカメラ割を決めたら、詰まるまで行こうっていう撮り方でした。一度、料理ブロックをしっかり撮ろうとしたら、ノリがおかしくなっちゃったから、たとえば料理切り終わるところまで、シナリオどおりにやって、「切り終わらなかったら、そのキャラクターのまま雑談をしてください」ってやり方にしました。

 

芸人と俳優の決定的な違い

佐久間:リハーサルを少なくしたのにはもう一つ理由があります。佐藤さんと酒井さんは、プロの女優さんなので何回も同じ事ができるんですよ。その代わり、芸人の若林くんは毎回違う。なぜなら、芸人さんって同じ事やるのが嫌いなんですね。

梅津:じゃあ、毎回違う感じで演技に入るんですか。

佐久間:ちょっとずつ変えてくるんです。芸人さんってそういう生き物だから。

梅津:でも、若林さん、すごく良い旦那さん像でした。「こんな夫婦いいな」って、思いました。

佐久間:偶然にも、キャスティングが本当にうまく行ったんだと思います。期待以上だった。それに大前提として、岩井さんの台本には、求心力があったんです。さらに、過密スケジュールの上、異常に狭い一軒家スタジオで撮りましたから。出演者の楽屋は2畳しかなかったんですよ。

梅津:見学に行ったとき、3人一緒の楽屋で、びっくりしました。普通一人一人の楽屋があるものと思っていたのですが。

佐久間:だから、人見知りの若林くんであっても、仲良くならざるを得なかったんです

梅津:それに、めちゃくちゃ暑かったですよね。メイクがすぐ崩れてて、しょっちゅうお直しに入っていたのが印象的でした。

佐久間:企画が決まってから放送までがそんな間がなくて、あの3人が1日一緒にいられる時間が、ほとんどなかった上、その後の仕事に備えて、都心からあまり離れていないところで撮らないといけない。それで、あのスタジオしかなかったんです。

梅津:そうですよね。撮影後に、若林さんは「オールナイトニッポン」に出演されてましたもんね。

佐久間:郊外の方で、もう少し広いキッチンはあったんですけど、ちょっと広すぎて、お金持っているように見えてしまうから違うかな、と。

岩井:お金を貯めるために、あの家に暮らしているという設定でしたもんね。

 

夫婦はごはんを食べているときが一番面白い

梅津:ドラマでありながら、コメディっぽくて、でもちゃんとレシピもきちんと作り方が分かるって、新しい作りだなと思いました。料理番組はいっぱいあるのに、レシピを紹介するドラマは、なかったですから。

佐久間:僕も「やっぱり猫が好き」が好きで、ああいう、コメディとアドリブの間ぐらいのものを作りたくて、それで、夫婦のコメディをやろうと思った時に、ご飯を食べている時が一番いろんな話をするし、面白いなって思ったんです。

梅津:そうですね。夫婦って、ごはんか晩酌をしながら1日の出来事を話し合いますよね。

岩井:面と向かうのはそれぐらいの時間しかないから。どの家族でも、隠しカメラとかで見たら、絶対面白い気がするんですよね。

梅津:くだらない話しをしているに違いないので(笑)。

岩井:そうそう。全部の夫婦に、絶対に独特の文化があると思う。

梅津:私がツイッター検索したなかで、印象的だったのが、「結婚したくなる」っていう意見でした。「憧れる」とか、「なんかこんな生活良いなあ」みたいな。でもキャストの皆さん独身ですよね。

岩井:すげえー。そういえばそうだ。

梅津:そのなかで、「結婚したい」、あと、「若林と結婚したい」というのが目立っていました(笑)。疲れて帰ってきて、1日の終わりに、誰かと話をしながらご飯を食べるっていうのが、すごく幸せなことだ、という意見がとても多かったです。それと、個人的にはミニコーナー、「酒とつまみと悪口と」が大好きなんですけど、普通は、ネガティブな「悪口」って言葉がタイトルに入るのって、珍しいですよね。

佐久間:もともと「佐藤さんが飲んだらどうなんですか」という話になったとき、「いや、最終的には悪口だね」と本人が冗談でおっしゃったんで、だったら、その言葉通り、佐藤さんが管を巻くコーナーにしようかなと思ったんです。それで、若林くんと佐藤さんだけにしようと思ったら、酒井さんが、「入りたい」と言ってきたんです。

岩井:僕、どっちかというと、あればっかりでもいいです(笑)。物語があると自分に負荷がかかってくるし……。何話か見た時に、ただこの人たちが話しているだけなのが、独特の空気で面白いなあと思いました。だから僕がただ気になっている事を、一回、3人いる所の真ん中にポイっとする。すると、自動的に話しはじめる人たちなんですよ。気になっている事をちょっとなんか誰かが話し始めたら、あとは、適当だけど、すごい勢いでしゃべる。面白かったですよね。

佐久間:DVDでは、コーナーの尺が放送の倍ぐらいになっています。

梅津:楽しみですね!

 

ドラマは日常から生まれる。

梅津:キッチンとリビング、ダイニングテーブルしか、背景が変わらないじゃないですか。3つしかない中で、よくこんなに5話もストーリーができたなぁって。

佐久間:大変だったのは岩井さん。

岩井:分かんないです。実はそれ以上に広げた方が、僕は苦手なんですよ。あんまりでかい話とかが書けなくて、身近な話ばっかりを書くので、今回のドラマは、すごく合っていたと思います。

佐久間:実は「終電ごはん」にも、1個か2個ぐらい、岩井さんの実話が入っているから。

梅津:ええ! どれですか。それは聞きたい。

岩井:酒井さんと佐藤さんが入れ替わったフリを回は、うちの娘と嫁の話を元にしています。もちろん、実際に入れ替わったんじゃなくて、入れ替わったふりを長いことされたんですが。朝起きたら、娘が横で転がって、こっちを見ていて、僕が「おはよう、ひろみは?」って嫁のことを言ったら「えっ、何が」って言うんですよ。それでいろいろ試されました。

梅津:お嬢さんは何歳ですか?

岩井:7歳です。後から嫁も来て、「パパ起きた」とか言って娘のふりをしているんです。だから僕も、嫁のふりをしている娘に、「最初にパパが好きって言ったのはどこだ?いつだ?」とかクイズを出してみたりしました。そしたら、「もう昔のこと忘れちゃった」って言うんですよ。うまかったですね。

梅津:奥さんが考えたんですか? そのコメディは(笑)。

岩井:分かんないです。何なんだろう、この人たちって思いました。

梅津:すごい、まんまですね。

岩井:だから、スタッフみんなでボーッと考えていた時に、「この間こんなことがあって」という話をしたら、「それいいんじゃないですか」となったんです。

佐久間:一番とんでもない話が実話なんです(笑)。

岩井:ほかには、僕が勝手に気になっていること、たとえば実演販売とかも、エピソードに使ってみました。

梅津:古舘寛治さん、ハマリ役でしたね。私、古舘さん、大好きです。

岩井:酒井さんがスケジュール上、出られない回が1つあったんです。2人のほかに誰か足すなら、酒井さんを補って余りある男性がいい、ということになりました。それで古舘さんだと決まった瞬間に、怪しい実演販売になりました。

梅津:古舘さん詐欺師役が多いんですか?「ごちそうさん」でも、演じていましたね。

岩井:うーん、僕も何回か一緒に仕事やっているんですけど、すごく明るい人なんですよね。怪しいというより、「この人、普段から嘘ついている」という感じ。それがいいんだと思います。佐藤さんとの息も異様に合っていましたね。

佐久間:初対面なのに、佐藤さんと古舘さんの息はピッタリで、若林くんが「突っ込みがいがある」と言っていた。

梅津:初対面だったんですか! 若林さんのコメントはさすが芸人さんですね。

(第三回に続く)

 

 

『終電ごはん』(書籍)

『終電ごはん〜お腹いっぱい完全版〜』(DVD)

 

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岩井秀人

1974年東京都生まれ。劇作家、演出家、俳優。2003年に劇団「ハイバイ」を旗揚げ。以後全作品の作・演出を担当。2012年、初めて手がけたテレビドラマであるNHKハイビジョン特集ドラマ『生むと生まれる それからのこと』で第30回向田邦子賞を受賞。2013年、『ある女』で第57回岸田國士戯曲賞受賞。ドラマ「終電ごはん」では脚本を担当。2014年7月にハイバイ「おとこたち」ツアーで東京、福岡、愛知へ。twitter:@iwaihideto

梅津有希子 編集者・ライター

編集者・ライター。1976年北海道生まれ。女性誌や単行本、Webなどで、料理、ペット、美容など幅広いジャンルの取材・執筆を手掛ける。著書に『終電ごはん』(幻冬舎)、『吾輩は看板猫である』(文藝春秋)など。吹奏楽漫画『青空エール』(作者/河原和音)の監修も務める。日頃からSNSやブログを積極的に利用し、フェリシモのセミナー「これからの発信の仕方」「SNSで世に出るゼミナール」では、「売り込む時代ではなく、目に留まる時代」をテーマに、多くの人の目に留まる発信の仕方を解説している。
公式サイト http://umetsuyukiko.com/

佐久間宣行

1975年福島県生まれ。テレビプロデューサー、演出家。早稲田大学卒業後、テレビ東京に入社。「ゴッドタン」「ピラメキーノ」「ウレロ!未確認少女」など、数多くのバラエティ番組の演出、プロデューサーとして活躍。2013年、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』で映画監督デビュー。ドラマ「終電ごはん」ではプロデューサー、演出を担当。 twitter:@nobrock

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