初めて明かす生い立ちのこと、仕事の場である東京を離れハワイ移住を決意した理由とはーー。
吉川ひなのさんの最新エッセイ『わたしが幸せになるまで 豊かな人生の見つけ方』は、現在4刷り55000部と大きな話題を呼んでいます。
食事やヨガ、自宅出産や独自の子育て論など、さまざまな角度からオーガニックなライフスタイルを紹介している本書から、一部を抜粋してお届けします。
今回は、オーガニックコットンを使ったブランド「Love the Earth blue(LtE)」について。"わたしの赤字ブランド”と呼ぶその背景とは――?
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モノの価値と自分たちの生き方
わたしは、Love the Earth blue(LtE)というオーガニックコットンブランドを約4年前に立ち上げた。
世界で2番目に多く農薬が使われているのがコットンの栽培だと知り、農薬を使わずコットンを育てる農家を応援したい、世界中の土を農薬から守りきれいにしていきたいと思い、小さくてもなにかできることをしようとこのブランドを始めた。
オーガニックコットンを使ったり縫製(ほうせい)工場で働く人たちにフェアな額のお金を払って商品を作ったりすると、どうしても商品の価格が上がってしまう。安いモノが溢れる今、うちの商品は下代が高過ぎて、その分できる限り自分たちの利益を減らした上代にしているから今のところまったく利益を得られていない。
ビジネスとしては頭を抱えながら試行錯誤を続けているブランドだけど、わたしにとっては学ぶことがとても多く、今も少しずつ稼働させながら大切に育てている。
現代社会はモノをいかに安く買うかばかりが重要視され、その裏側で起こっている史上最悪な環境汚染や、発展途上国の最低賃金で働く労働者から人としての権利を奪っているということに目を向けている人は、とても少ないように思う。
わたしもつい最近まで、その一人だった。2000年を過ぎたころからファストファッションが台頭し、今季の流行の服を安く気軽に買うことができるようになった。
でも流行は一瞬で終わってしまうことや、最大限安く作るために使われる素材はほとんどが石油由来の合成繊維であるため、脆(もろ)く長持ちしないことから、わたしたちは使い捨てるように服を着るようになった。
ファッション産業での環境汚染は石油産業に続き第2位となり、わたしたちが安くイマドキの服を買う代償(だいしょう)として発展途上国の貧困問題は加速し、地球はものすごい勢いで汚れてる。
服を安く作るために使われるポリエステルは衣類の60%に含まれていると推測されていて、わたしたちが洗濯する化学繊維でできた衣服から流れ出すマイクロプラスチックは毎日想像を絶する量が海に流れ込んでいる。
わたしたちが使い捨てた服は世界中で1秒ごとにトラック1台分が捨てられているけど、化学繊維は生物溶解されず有毒なガスを発生させながらその大半は何百年も地球に停滞する。
ファストファッション産業で問題なのは環境汚染だけではない。安く服を作るために最低賃金で働かされている労働者たちからの不当な搾取もまた、知るほど心が痛む。
企業の価格戦争で他より1円でも安く服を売るために彼らの賃金はどんどん下げられる。工場側は企業にその額ではできないと断ることはできない。それなら他の工場を使うと言われ仕事を失うので、彼らに選択の余地はない。
彼らの現状を知りながらその条件を強いるのは卑怯(ひきょう)な勝ちゲームだと思う。
労働者たちの中には子どもを田舎に預けて自分は縫製工場で働き詰めの生活を送り、愛する我が子には年数回しか会えない母親もいる。
そこで稼いだお金を仕送りする以外で子どもを育てる手立てが彼女にはないから、そうせざるを得ないのだ。
それでも彼女たちがその縫製工場で稼げる額は、ひと月に平均で1万円くらいらしい。
我が子と離れ離れになるしかない母親の気持ちを考えると、涙が止まらなくなる。
彼女たちが住む国はそれらの仕事が生み出す税金や建前上の就業率が必要だから、最低賃金の引き上げといった不当な労働に対する抗議は受け付けない。たとえそれが平和的なデモであっても、軍事力によって鎮圧(ちんあつ)された例などもある。
彼女たちにはなす術がなにもないのだ。
理不尽な現状を抱えたまま劣悪な環境のもとで働かざるを得ない人たちが作る安い服を取っ替え引っ替え着て自分を綺麗に見せることは、果たして本当に素敵なことなのだろうか。
先進国と言われる国に生まれたわたしたちは、これからをどう生きるのか、なににお金を払うのか。遠い国の人たちの現実も知らず、自分たちだけがよければそれでいいという悪魔のようなモノの消費の仕方をやめ、立ち止まってじっくり考える必要がある。わたしたちには、いくつもの選択肢がある。
そしてそれはとても強く、そのうねりが大きくなれば世界を変える力さえある。
まずはわたしたちが意識を変えることでしかこの現状は変わらないのなら、安ければ良いという考え方自体が世界中で貧困を加速させているという現実を常に意識する癖をつけて、世界中の人たちが当たり前の権利と選択肢を持てる世界を作るため、誠実なチョイスをしていきたいと思ってる。
本当の意味でのフェアトレードが、世界中で当たり前になる日がくるように。