初めて明かす生い立ちのこと、仕事の場である東京を離れハワイ移住を決意した理由とはーー。
ありのままの姿を綴った吉川ひなのさんの最新エッセイ『わたしが幸せになるまで 豊かな人生の見つけ方』は、現在4刷り55000部と大きな話題を呼んでいます。
食事やヨガ、自宅出産や独自の子育て論など、さまざまな角度からオーガニックなライフスタイルを紹介している本書から、一部を抜粋してお届けします。
* * *
自宅出産
二人目は、自らの希望でハワイの自宅で産みました。
自宅出産をしたと言うとだいたいの人がすごくびっくりして、病院に行くのが間に合わなかったの? と聞かれたりします(笑)。
上の子は、ハワイの病院でアメリカではスタンダードな無痛分娩をしました。
初めての出産は正直どんなふうに産みたいとか、とくに理想も希望もなく、どこで産んでも同じでしょ? というくらいドライに考えていたんです。
アメリカの病院では麻酔を使わないで出産すると、普通分娩を見たことがないドクターがたくさんいるから、出産中分娩室に麻酔なしの出産をドクターたちが見学にくるという話を聞いて、それは嫌だなと思い、だったら無痛でも別にいいや、それくらいの軽い気持ちでした。
でもいざそのときがくると、わたしにとってあれもこれも全部違和感だらけの、それはそれは居心地の悪い空間でした。
陣痛が始まり病院に駆け込むと、そこからは謎の検査の嵐。
お腹がすいてもなにも食べちゃダメと言われ、なんのためかわからない点滴に繋がれ、ガタガタ震えるような寒い部屋でペラペラの服に着替えさせられ、あとはただただナースに言われるがままに時間は過ぎていきました。
陣痛でとてもじゃないけど人の話なんて聞く余裕もないときに、麻酔を打つための承諾書に何枚も何枚もサインをさせられ、麻酔が効いてくると足の感覚はまったくなくなって自分で体の向きを変えることもできなくなり、わたしの足はついているか本気で彼に何度も確認をしたり、いよいよ産まれるというときには芯まで冷え切った体でそのまま分娩台に固定され、まるで産まされているかのような時間でした。
分娩台の上でわたしはこっそり、これはもう二度とやりたくない。絶対に、やらない! と自分の中で誓いました。
それでももちろんベイビー誕生の瞬間には心から嬉し泣きをしたし、ベイビーと過ごす新しい日々はそんなことどうでもよくなるくらい全てが癒されていく感動を味わいました。
だけどわたしは自分との誓いを、忘れなかったのです。
二人目の妊娠中、わたしは二度とやりたくない『あの時間』を回避すべく、あらゆる可能性を模索して、まずは疑問に思ったひとつひとつにはどんな意味があったのかを調べていくことにしました。
調べた内容は、陣痛中から産まれるまでなぜなにも食べてはいけなかったのか、あの点滴はなんのためだったのか、分娩台はなぜあの形なのか、痛過ぎて内容なんて確認できず、言われるがままになんとかサインした莫大な量の承諾書には一体どんなことが書かれていたのか。
赤ちゃんが産まれてすぐにへその緒を切ってしまうのはなぜなのか、わたしの胎盤はどこへいったのか、麻酔を使うことで起こる体への負担や、陣痛促進剤と呼ばれている人工オキシトシンについてなどなど。
そう、わたしはしつこいのです。
気になったことの全ての理由を調べ、自分なりにひとつひとつに答えを出してから、問題ないと判断できるのであれば、次はなにも手を加えることなく思うがままに産みたいと強く願い、どんな方法があるのかリサーチしました。
日本のお産婆さんや助産院の素晴らしさも知り感動したけれど、わたしが産む場所はハワイ。助産院がないのなら、ミッドワイフに家にきてもらって自宅出産をしよう! と心に決めました。
自分の中でそう思ってから彼に告げるまでは少し時間がかかって、その決意を固めていくには何冊もの本を読み、自宅で産むということに対してそれなりの知識と覚悟が必要でした。
ある程度イメージができるようになってからわたしは彼に、「わたし、家で産もうと思うんだけど、どう思う?」と聞くと、彼は少し呆れながら驚いて一息つくと、また始まったとでもいうような顔で「なにかあったらどうするの? それだけはやめようよ」と言いました。
それだけはって、その他はひとつも候補を出していないのに(笑)。
まあいいや、それは想定内の返事だったし、そのことで揉めたくもないから慎重にわたしは話を進めました。
「なにかって、例えばどんなこと?」とわたしが冷静に返すと彼はそのとき思いつくだけの出産時に起こり得る問題を次々とわたしにぶつけてきました。
「陣痛が弱まっちゃったり、赤ちゃんにへその緒が巻き付いていたり、最悪保育器が必要だったり、母体が大量出血してしまったり……」
よーし! きたぞー! わたしにとってはそのほうが都合がいい。
だってここ何日間かずっと、その問題が起きたらどんな処置をしたりどう対処したりするのか入念に調べていたんだもん。
もちろん、病院出産編と、自宅出産編両方。
・陣痛が弱まったり、病院の時間の都合で早く産まないと困ると判断されたときはもともと繋がれてる点滴から陣痛促進剤と呼ばれる人工オキシトシンを打たれるが、それによって自然に分泌されるオキシトシンの7から8倍の強さの陣痛が起こり、母体にも胎児にもその分の負担がかかること。
オキシトシンはリラックスしたり幸せを感じるときに出るホルモンなので、慣れていない場所や知らない人がいて緊張すると弱まってしまう。
動物もここは安全だと思える場所でしか出産をしないけど、わたしたちも同じように、蛍光灯に照らされ機械だらけの異空間(分娩室)で陣痛が弱まってしまうのは、本能がきちんと働いている正しい反応。ここは100%安心できると感じてリラックスすれば、自然とオキシトシンの分泌は強まる。
陣痛が弱まってしまっても病院にいると自由にさせてもらえないけど、自宅出産なら家の周りを散歩するとか、温かいシャワーを浴びるとか、自分のベッドでリラックスするとか、自然な方法でオキシシトシンの分泌を強める方法はたくさんある。
・赤ちゃんにへその緒が巻き付いていた場合、病院ではその時点で帝王切開が決まることがほとんどだけど、ミッドワイフはへその緒が巻き付いていてもそれを確認して赤ちゃんの頭が出てくる前に外す技術がある。病院では同じく帝王切開になる逆子や双子もミッドワイフには自然分娩で安全に産ませる技術がある。
・保育器は赤ちゃんがお母さんの胸元に抱かれたときを再現して作られている。病院では保育器に入れると判断されたら病院のルールに従って赤ちゃんと離れ離れにされるけど、早産でもカンガルーケアで赤ちゃんが健康に育った例はたくさんある。母親は赤ちゃんとできる限り離れないことで産後のホルモンも出やすくなるし、どんな状況でもできる限り赤ちゃんとママが離れ離れにならないことが双方にとってのファーストプライオリティーであること。肌と肌で触れ合うことは赤ちゃんに大きな安心感を与えられて、胸元で母親の呼吸を感じることは赤ちゃんの呼吸の練習にもとても役立つこと。病院側のリスクヘッジで念のため赤ちゃんが保育器に入れられる可能性があることをわたしは了承したくないこと。
・大量出血など、もしわたしになにかあったときも病院にいたからってその処置がすぐにできる部屋やドクターが空いてるとは限らないこと。救急車で運ばれた場合、病院に同じ処置が必要な人がいても救急車で運ばれてきた人のほうが優先的にその処置を受けることになっていること。
どこにいても出産は命がけだから、そのときのタイミングや状況でなにが良かったかは事前には誰にもわかりようがないし、だけどわたしは絶対に大丈夫って前向きに考えてるよ、と彼の懸念点には新しく学んだばかりの知識で対処法を自分の感想も交えながら説明して、彼にもどう思う? と聞いてそのことについて考えてみてもらえるように促しました。
なんでもそうだけど、自分の今まで築き上げてきた価値観が覆されるとき、まだそれを受け入れる準備ができていない段階で誰かに頭ごなしに言われると反発したくなるのはとてもよくわかる。だから時間をかけてゆっくり話し合っていければいいかなと思いながらも、その一方でちゃっかり着々と準備は進め、素晴らしいミッドワイフにも出会うことができました。
彼と一緒にミッドワイフのオフィスに行き、ミッドワイフがわたしのお腹を楽しそうに触りながら「ここがベイビーの頭よ。ここは背中。ほら、背骨がわかるでしょう?」と教えてくれて、わたしと彼はお腹ごしに触っただけで、ベイビーが今している体勢がわかるようになりました。
のちに彼は「一人目の健診ではいつもエコーで撮った写真でここが頭、ここが足、と説明されていて、言われてみれば頭なのかな、足なのかなと思って見ているより、手で触るほうが全然命の形を感じたし、ここが頭だ、これは足だってよくわかったよ。
あのころから考えが変わってきたかな。ずっと西洋医学だけが最先端と信じていたけど、ミッドワイフたちはそれとはまた違ったやり方でこんなにも知識があるんだな、自分の知らなかった世界を知って、素直にすごいなと思った」と言っていました。
わたしたちだけじゃないと思うんだけど、彼女や奥さんに言われるより第三者が言ってくれたほうがすんなり聞いてくれること、カップルのあいだではよくありませんか? だからわたし、彼に興味を持ってもらいたいものや新しいチャレンジをしたいときは、わたし以外の誰かに伝えてもらったり、何かの記事をシェアしておくの。
事前に自分の考えをさらっと彼の耳にいれておくと、ああ、そんなことあいつも言ってたな、なるほどねってそのときようやくわたしが言ってたことを素直に受け入れてくれたりするから(笑)。
そんなふうに少しずつ彼も自宅出産に賛成していき、最後はそれがベストだと思ってくれるようになっていました。
一番近くにいる人が一番の味方でいてくれないと嫌だから、彼も同じ気持ちで取り組んでくれるようになったことでわたしは大きな安心感を手に入れたし、自宅出産を無事にやり遂げられるという自信はもちろんあったけど、一人目は途中から麻酔を使って最後まで陣痛を味わっていないし、どのくらい痛いのか、そして自分はどんなふうになってしまうのか、恐怖がまったくなかったわけではありません。
わたしの周りで自宅出産をした人は誰もいなかったから相談できる環境もなく、その恐怖を当日までにできるだけ克服しておきたいと思い、今度は妊娠や出産で起こる女性の体の変化や自宅出産をした人たちの体験談、陣痛にまつわるあらゆる本を読みました。
知ることで恐怖を克服しようとしたのです。おかげで実際の陣痛中、痛いということよりも先に、今あの人の体験談みたいだなとか、今オキシトシンの分泌が抑制されちゃってて陣痛弱まっちゃってるなとか、自分を冷静に客観視して次はこんな感じになるはずだ、本で読んだあの痛みはこれのことか。確かにこれはすごい!! と、産む直前の最後の山場がくるまでその体験を楽しむことができたし、自分で自分を励ますこともできました。
自分らしい人生を生きるためには、ちゃんと知ること、ちゃんと考えること、ちゃんとチョイスすること。
この三つの『ちゃんと』を、サボらずやりたい。
そしてその結果、自宅出産という人生で最高の経験をわたしは手に入れました。